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猪突猛進

 エリアスは勇者ミシェナへ簡単な生い立ちと聖騎士になったこと、それを契機に東部から北部へやってきたことを説明。彼女は特に質問を挟むことなく内容を聞き、全て伝え終わった段階で、エリアスは彼女へ質問した。


「北部で開拓を進める人間からすると、東部の情勢とかが聞こえてくることはあるのか?」

「少なくとも、私の耳には入らなかったわね」


 ミシェナはここで仲間へ目を向ける。


「みんなはどう?」


 質問に彼女の仲間は相次いで「聞いたことがない」と応じた。それで彼女はエリアスへ、


「うん、開拓歴が長いメンバーも言っているし、東部の情報は王都や北部にいたらわからないわね」

「……開拓歴?」


 エリアスが聞き返すとミシェナは頷き、


「うん、仲間の三人は開拓歴五年以上」

「君は……」


 と、言いかけてミシェナがどう見ても成人前後くらいだろうと考える。そこで彼女は、


「私は半年くらいかな。十七の時に活動し始めて、北部の山に入ったのがそのくらい」

「……たった半年で勇者の称号を得たのか」


 エリアスは頭の中に「天才」という言葉が思い浮かんだ。


「仲間達はそんな君を支援しようと思いパーティーを組んだのか?」

「そんなところ。でも、この北部で戦うと、自分はまだまだ弱いなあと嘆く日々だけど」


 そんな風に苦笑するミシェナ。エリアスは北部へ来る前は連戦連勝だったのだろうと考える。


「勇者となった経緯を聞いてもいいか?」

「ん? 修行をして、実力試しとばかりに片っ端から魔物を倒し続けていたらなってた」

「猪突猛進だな……」

「まあね。本来なら北部にも一人で来るつもりだったんだけど、三人が同行すると」

「北部で一人は無茶だと言っても聞かなかったからな」


 そう発言したのはミシェナの仲間である男性戦士。それに反応するように残る仲間は苦笑する。


「今回遭遇した魔物も、単独で戦えば厄介極まりなかったし、あんたが来てくれて助かったよ」

「負けることはないにしても、最悪手傷くらいは負わせられてしまうと思ったのか」

「ああ、まさしく」

「……東部にいて多少世間知らずな身ではあるんだが、その実力としてはどう評価されているんだ?」


 エリアスが尋ねると戦士は一拍置いて、


「名だたる勇者と比べればまだまだといったところだが、新進気鋭の勇者としては間違いなくトップだな」

「ふふん」


 会話を聞いていたらしいミシェナは胸を張る。そんな様子に彼女の戦士は苦笑しつつ、


「勇者となる人間の実力としては、危険度二は単独撃破できるレベル……危険度三になると、正直わからないな。幅があるからな、強さに」

「……そうだな」


 エリアスは同意しつつ、交戦した魔物のことを思い出す。


「あの魔物は能力的に危険度二はあるが、群れを成していた場合は危険度が上がるな。なおかつもし魔物の親玉でもいたら、討伐するには相当な規模の騎士や戦士を動員しないといけないだろう」

「それを確認するために、私達は動いているわけだけど」


 そんな風に会話をする間に、エリアス達は山へと進んでいく。開拓最前線まで到達するかもしれない――そんな風に予想した騎士がいたかもしれないが、一度立ち止まり索敵をした時に、エリアスは発言した。


「似た魔物の気配は最前線から少し逸れているな。北部へ真っ直ぐというよりは、北東だ」


 そう語るとエリアスは地図を取り出す。


「ふむ、北東へ進むと山脈の切れ目……渓谷が広がっているのか」

「開拓するのも難しいとのことで、放置している場所ですね」


 と、騎士の一人が声を上げた。


「渓谷に加えて険しい山肌や人が踏み入れることが難しいほどの深い森、岩場が広がっています」


(……俺達が戦っていた東部の状況と似ているかな?)


 エリアスはフレンへ目を向ける。彼女が小さく頷くのを見て、


(人の手が入らないような場所に厄介な魔物がいる……理由は人が足を踏み入れないため、そこにいる魔物は放置され、天敵もいないため生存し続ける。魔物は年齢を重ねればそれだけ強くなるケースが多いため……)


「その渓谷へ足を踏み入れることはしないが、手前くらいまで近づくことは可能か?」


 エリアスは騎士へ問う。


「明らかに俺達が追う魔物の気配は北東から漂っている……地形などを肉眼で確認しておきたいんだが」

「構いません。しかし、人があまり行かない場所であるため、警戒を強める必要があります……勇者ミシェナもよろしいですか?」

「うん、大丈夫」


 一行は進路を北東へ。そして近づくごとに、遭遇した魔物の気配が漂ってくる。


「まだ距離があるのに気配があるということは、群れを形成しているにしろ結構な数いるかもしれないな。フレン、どう思う?」

「数がいるのは同意しますが、疑問も生まれました」

「というと?」

「人の手がほとんど入っていない場所から来たとすれば、開拓によって居場所を追いやられたというわけではないはず。であればなぜ、突然魔物が渓谷周辺から離れたのでしょうか?」


 その疑問にミシェナや幾人かの騎士がフレンへと注目する。


「東部と北部とでは地形などが大きく違うにしろ、魔物の特性までは変わらないはず……だとすれば、魔物は一度テリトリーを確保すればそこから勢力を拡大するというケースはほとんどない。もし魔物が人里に下りてきた場合は、開拓によってすみかを奪われた時……ですが、どうやらそういうわけではない」

「可能性は三つだな」


 ここでエリアスが発言。するとミシェナや騎士達の視線が移動する。


「一つは、群れを成していたのなら自分達のテリトリーも相応に大きかったはず。なら騎士達が開拓を進める過程で魔物のテリトリーに踏み込んでしまい、追い払おうと動いている。ただこの場合、わざわざ俺達が着任した砦までやってくる理由はない。縄張りから人間を追い出すだけなら、そんな行動をする必要はない」


 エリアスの発言にミシェナは「なるほど」と頷きつつ、


「それじゃあ、他にはどんな可能性があるの?」

「二つ目は、魔物の行動に変化が起きたケースだ」


 質問に応じつつ、エリアスはさらに話を進めた。


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