国からの警告
「自分としては今回遭遇した魔物を基準にしたいところです」
そうルークはエリアスへ告げる。
「北部の最前線に行くかどうかなどわかりませんが、目に見える形で脅威が間近にいたんです。それに対抗する術は身につけたい」
「わかった、なら当面はその方針でいくか……レイナは?」
「私も同じで」
双方とも同じ意見らしい。ならばとエリアスは頷き、
「今まで以上に頑張るとしよう。ノーク殿の方針としては連携力をより強化していくのが望ましいとのことだったが、個々の強化も合わせればいいだけの話だし」
「今後もあんな魔物が出現するでしょうか?」
問い掛けたのはルーク。それにエリアスは「わからない」と応じる。
「開拓と討伐状況次第だな。ただ、俺が調査した洞窟は封鎖したし、少なくとも砦周辺では出現しなくなるとは思う」
そう言った後、エリアスは肩をすくめた。
「瘴気の発生源だった場所は、地底奥深くにまで繋がっていた。国が討伐の方針を示した地竜に関する情報だって、あの場所で集めることができたはずだ」
「しかし、魔物が多数出現した……」
「継続的に調査はできたかもしれないが、さすがにリスクが高いと判断したんだろう……開拓最前線にも地底へ繋がる洞窟とかがある可能性は高いし、もし地竜の調査を行うにしても、より前線に近い場所が望ましい、ということなんだろうな。その方が戦力もあるだろうし」
「確かに……最前線であれば、魔物を倒せる戦力が多数いるはずですし」
「そうだ。不測の事態にも対応できる」
エリアスはそこまで言うと、ルーク達へ改めて告げる。
「二人の考えはわかった。明日以降の訓練はより能力を高められるような方針で進めていこう――」
魔物発生後に封鎖した洞窟は、エリアスが対応してから数日の間は監視されていた。しかし、結局以降は魔物が出現することはなかったため、魔法を用いての観察はするが、現場にいた者達は全員その場を離れることとなった。
その間にエリアスはルークやレイナの二人へ訓練を施す。元々実力が高かったためか、飲み込みも早くこれなら危険度の高い魔物にも対抗できるかもしれない――そんな期待を抱くような内容だった。
ともあれ、自分達が率先して北部最前線へ向かうことはないため、この力が活用される可能性は低いが――エリアスは心のどこかで警鐘を鳴らす。
(もし戦うことになったら……さすがに危険度三以上はまだ荷が重い。やっぱり、ゴーシュあたりを連れてくる必要がありそうだ)
そんな結論と共に、訓練を続ける。一方でノークが打ちだした方針である連携力強化も上手くいき始めた。騎士同士、魔術師同士の連携を始め、騎士と魔術師が行動で訓練を行う。その動きを見て、エリアスは東部での戦いを思い出す。
「……さすがに練度という面ではまだまだではあるけど、赤い狼くらいの魔物ならば、十分受けきれるくらいにはなったかな」
エリアスはそういう感想を抱いた――結果から言えばノークの方針は成功。無論、実戦経験の少なさが課題ではあったが、やれることは全てやっている、というのは間違いなかった。
そして訓練の間にも情勢は少しずつ変化していく。偶然見つけた地底へ繋がる洞窟の調査――そこから魔物が出たことで、国もさすがに放置はできないと北部へ人を派遣している貴族へ警告を行った。それにより最前線はともかくとしてエリアス達がいる砦周辺では騒動が起きることもなく、混乱とは無縁の状態となった。
ただし人が多くなっている以上、物資の輸送については頻度が確実に増えた。よってエリアスは普段輸送関係の任務をこなしつつ、時間を見つけてルーク達の指導を行うという日々を繰り返すこととなった。
「とりあえず、混乱が収まって良かったわ」
ある日、中庭で訓練の様子を眺めるエリアスにジェミーが話し掛けてきた。話題は、北部へ人を派遣した貴族に関するもの。
「輸送任務に合わせて色々と人に聞いてみたけど、後方についてはすっかり元の日常に戻ったようね」
「それは良かった。後方が混乱すると前線への物資だって滞る可能性もあったからな……国が事態を重く見てすぐに対応した結果だな……ちなみに、ジェミーは当面砦にいるのか?」
「指導はまだ終わっていないし、ノークさんもまだいて欲しいみたいよ?」
「そっか。ノーク殿がそう言っているのであれば問題ないな」
「とはいえ、さすがに砦の住人になるみたいなことは無理そうだけど……ここを離れる時が来たらどうしようかしら」
「今のうちにコネでも作っておくか?」
「うーん、知り合いもいないし現状では厳しいわね」
どうしようかとジェミーが悩んでいる時、エリアスの近くに騎士がやってきた。
「すみません、ご報告が」
「どうした?」
聞き返すと彼女は淡々と報告を始めた。