紙一重の勝負
エリアス達が見守る中、地底から魔獣が出現した洞窟はやがて封鎖が完了した。その強度などについてはエリアスも問題ないと判断し、砦へ戻ることに。
救援に駆けつけた騎士などとは会話をすることなく、エリアスはそそくさと帰還。洞窟を封鎖したという報告をノークへ済ませ、休もうとしたのだが、
「その前に、二人に感想を聞くか」
エリアスはルークとレイナの二人へ声を掛け、少し話をすることに。
「怪我人などを助けている間、何か気付いたこととかはあるか?」
「……最後に洞窟から出ようとした凶悪な魔物についてですが」
口を開いたのはルーク。
「当然ですが、以前戦った魔物とは比べものにならないほどの能力でした……あの危険度はいくつになるんでしょうか?」
「わからないな。ただ、武器を扱えることを踏まえると、危険度三判定されてもおかしくはないと思う」
ルーク達はごくりと唾を飲み込む。
「……その魔物を、エリアスさんは倒したんですよね」
「地形など、色々と好条件に恵まれたのもあるな」
「好条件?」
「俺の切り札は直線上に攻撃するタイプのものだったから、横幅が狭く直線上に形成されていた洞窟だったら、回避不能の攻撃になる。あの魔物はかなり凶暴な上、まともに剣でやりあっていたら入口から出てきて周囲の騎士を狙っていただろう。あの場で犠牲もなく倒すには、あのタイミングで大技を決めるしかなく、幸いながら仕留めるだけの技があった」
エリアスの解説に、ルーク達は黙って話を聞く。
「ただし、さっき言ったように好条件が重なった。俺の技がきちんと通用する相手で、確実に相手に攻撃が当てられる地形だった。どちらの条件が欠けていても、かなり危険な状態になっていただろう……それに、あれくらいの技になると安易に連発もできない。確かに魔物を倒すことはできたが、魔物の耐久性を考えれば賭けには違いなかった」
「賭け……より危険度の高い魔物なら、エリアスさんの攻撃は通用しなかった?」
「魔物の中には、耐久性を重視した魔物だっている。ただそれは、ルーク達が戦ったような外殻を持ち物理攻撃が通用しにくい個体から、魔法攻撃が効きにくい個体までいる。俺が倒したあの魔物は、図体はあったがそこまで耐久能力が高くなかった……だからこそ、一撃で倒せたんだろう」
そこまで言うと、エリアスは嘆息する。
「あの魔物がどれほどの耐久性を持っていたか……もちろん、魔力の多寡は探って挑んだが、絶対に倒せるという保証はなかった。よって、賭けだ。あの技で仕留められなかったら、俺が窮地に立たされるからな」
「……紙一重の勝負だったと」
「傍から見れば圧勝に見えるが、俺からすればそういう評価だな」
と、ここでレイナが小さく手を上げた。
「あの、一ついいですか?」
「構わない」
「今回は状況的に賭けのような戦いを挑む必要性があった、ということですよね?」
「そうだな。魔物が突然襲撃してきた以上、魔物について調べることもままならず、出たとこ勝負に出た……本来、それはやるべきじゃない。魔物の特性については可能な限り調べないと、窮地に立たされる危険性があるからな」
ルークとレイナはエリアスの言葉に頷いた――戦闘経験を通じ、魔物の脅威についてしっかりと認識している様子だった。
「……さて、二人に訊きたいが、危険度三相当の魔物と遭遇し、どう思った?」
「最初に思ったのは、戦うという選択肢を取るべきではない、ということでした」
エリアスの質問に答えたのはルーク。
「自分にとっては初めて遭遇する強大な魔物でした。体が固まったりするようなことはありませんでしたが、面と向かい合って戦えたかというと……」
「それでいい、基本的に騎士である以上は連携で魔物に対処する。俺が単独で動くみたいなのは例外だと思ってくれればいい」
「わかりました……重要なのはやっぱり慣れでしょうか。魔物との戦い、その戦場の空気感は、やはり経験してみないとわかりません。ただ今回は、他の騎士も帯同しその空気を実感できたので、経験は多少なりとも積めたかと」
「うん、そこは良かった点だな」
「あの洞窟は封鎖できたんですよね?」
「ああ、少なくともあの場所から魔物が這い出てくることはほぼなくなっただろう。もちろん、人の手による封鎖なので、再び敵が出てこないとも限らないが……相応の対策はしている。たぶん大丈夫だ」
そうエリアスが言った時、今度はレイナが口を開いた。
「今後の訓練については、今回遭遇した魔物を基準に、でしょうか?」
「うーん、あんな魔物と遭遇することはないと思いたいんだけど……ただ、二人が今後北部で開拓を行っていくのであれば、当然ああした魔物と遭遇する危険性はある。経験ということを含め、今回戦った魔物を倒せるようになる、という目標に定めるというのも選択肢ではある。二人はどうしたい?」
問い掛けにルーク達は一度沈黙したが――やがてルークが先んじて話を始めた。