後始末
「結論から言えば、封鎖します。ただ、先ほどの魔物みたいに岩を楽々と破砕できるような敵が出現することを考えると、洞窟入口を破壊して封鎖、それで終了というのはリスクが高いでしょう」
騎士メイルの主張に、エリアスは「そうだな」と同意すする。
「君の言う通りだな。単純に入口を破壊して物理的封鎖……だけでは、終わらないかもしれない」
「ここは魔術師と協力し、物理的、魔力的に洞窟を封鎖するということが重要ですね」
「具体的にどう対処するかは、相談が必要だな……ただ、俺達としてはもう出番はないだろう。後は後続の騎士や魔術師達に任せるよ」
「わかりました……ご支援、ありがとうございました」
礼を述べ騎士メイルは去って行く。その姿を見送った後、近くにフレンがやってきた。
「お疲れ様です、エリアスさん」
「ああ、犠牲がなくて本当に良かった」
「この戦いについて他の騎士達がどう考えているかなどについては私が調べますので」
「そうだな……後は処置を施すのを確認して、俺達は撤収かな」
エリアスの言葉にフレンは頷く。ここでジェミーは洞窟入口に集まる騎士や魔術師を見ながら、
「おそらく、対処法は持っているでしょうから、心配しなくても大丈夫でしょう」
「作業は手伝わなくてもいいだろう……いや、しかし疲れた。大技だから結構魔力消費も激しいからな。さらに魔物が来たとなったらかなりしんどかった」
「連発はできないの?」
「できなくはないけど、体の負担が大きいからな。体にダメージが残るし、戦闘にも支障が出る」
そう言うとエリアスは自分の手のひらを見据える。
「ほんの少しだけ、魔力を収束させた右手に震えがある。少しすれば治まるだろうけど、連発すればこれがひどくなるし、剣の振りも甘くなる」
「……騎士というのは、そういう切り札を誰もが持っているものなのかしら?」
「どうかな、俺がこうした技法を持つに至ったのは、東部での戦いで必要に迫られてという面が大きいからな」
「どういう経緯で習得したの?」
興味津々にジェミーが問い掛けてくる。魔獣を圧倒した技法であるため、色々と訊きたいらしい。
「……正直、初めて使った時のことはあんまりよく憶えていない。凶悪な魔物と戦っている最中だったからな」
「死線をくぐり抜ける際に習得した、ということ?」
「そうだな。実戦で能力を習得した、と言えば聞こえはいいが、実際は生きるか死ぬかの瀬戸際で、必死だっただけだ」
エリアスの言葉にジェミーは納得するように声を上げる。
「なるほどね……あの技は、危険度の高い魔物相手でも通用するのかしら?」
「……言いたいことはわかる。魔獣オルダーと並ぶ脅威に太刀打ちできるかという話だろ? 地底にいるかもしれない地竜相手に通用するかは未知数だな」
「魔獣オルダーのように単独で戦うようなことはしないのかしら?」
「あれは事前に色々と情報を持っていたため、迎え撃てると判断したんだ。ロクに情報も得られないような状況では、さすがに厳しいし、今後は避けたいところだな」
エリアス達が会話をする間に、騎士や魔術師達が作業を進めていく。洞窟は封鎖する方向で話はまとまったようで、その手法について騎士メイルを交え話し合っている。
一方で、調査を主導した騎士ジェインについてはあまり動きがなかった――が、時折エリアスへ目を向けている様子が見て取れた。
(俺のことを誰かから聞いたか?)
素性がわかれば、色んな意味でエリアスに興味を持つだろうというのは予想できた。ただ、エリアスとしてはあまり話はしたくなかった。
(このまま穏当に作業が終わってくれれば俺としては良いんだけど……)
「今回の事態だけれど」
ふいに、ジェミーが話題を変える。
「地底に干渉したことで魔物が出現したのよね? だとすれば、封鎖することによってひとまず収束するということでいいのかしら?」
「そこは間違いないと思う。物理的、魔力的に洞窟を封鎖できたら、さすがに魔物も近寄っては来ないはずだ……ただ、地底にどの程度影響を与えたのかまではわからない。それに、魔物が外へ出てくるまでに騎士ジェインは地底の情報を得ただろう。その情報によって討伐が何か変わるのか――今後、国がどう動くかは注視していかないといけないな」
「貴族達が色々と動いているし、今回の調査も彼らが主導していたけれど、討伐は基本的に国の指示によるものよね?」
「そうだ。貴族達はその討伐について、主導権を握りたいと思って騎士を派遣したわけだ。今回の一件でそれにどの程度影響を与えたのかはわからないが……騎士ジェインにとっては、先んじて動いたけど良い成果には繋がらなかっただろう」
エリアスはそう述べつつ、肝心の騎士ジェインには視線を送らない。
「だがまあ、とりあえず事態は解決した。後は作業を確認してから帰還するだけ……それで一旦騒動は終わりを告げるはずさ――」