事の経緯
「まず、私達が来た経緯についてです。あなた方が所属する砦に救援要請を行った騎士が行ったので、概要は聞いたかと思いますが」
そう前置きをした後、騎士メイルは話し始めた。
「改めて自己紹介を。私はメイル=ナデット。今回調査を行ったジェイン=ゴーディン殿の補佐を指示され、調査に帯同しました」
「ゴーディン殿の従者といったわけではないのか?」
エリアスの問いにメイルは小さく頷いた。
「はい、今回指示を受け同行しました。本来は北部の前線にいます」
(……なんだか不満そうな様子だな)
エリアスは彼女の態度からそう考察したが、口には出さず話を聞き続ける。
「先日、瘴気の発生源があったという報告を受け、ゴーディン殿が配下を率い調査をする意向を示しました。配下の中には調査に二の足を踏む者もいましたが、ゴーディン殿の意向により行動することとなりました」
「そして、魔物が出現……実は俺達がこの場所を調査したんだが」
と、前置きをしつつエリアスは語る。
「その時に見た洞窟は、こんなに入口が大きくなかった。確認だが、わざわざ破壊したわけじゃないよな?」
「無論です。瘴気の発生源であることを確認した後、私達は索敵魔法を使用しただけです」
「その規模は? 一人の騎士や魔術師が索敵魔法を使っても洞窟奥までは調べきることは難しいと思うんだが」
「大地の力を利用しました」
そう言ってメイルは地面を指差す。洞窟入口の前に、魔法陣を描いた形跡があった。
「魔物の襲撃によって魔法陣は破壊されてしまいましたが」
「索敵の途中で、魔物が襲い掛かってきた」
「はい……索敵をしていた者が、魔物が近づいてくると警告しました。洞窟は奥深くまで……地底まで繋がっており、そこから索敵に気付いた魔物が接近してきたと」
「懸念していた通りね」
話を聞きながらジェミーが言及した。
「エリアスさんは索敵で奥を調べれば、それを感知する魔物が出てくるかもしれないと言っていたけど」
「なるほど、あなたが考えた通りでしたね……とはいえ、ゴージェン殿は作業を続けるよう指示を出しました。洞窟奥から魔物が来ようとも、入口は狭い。大型の魔物が出てくることはないだろうから、と」
「調査をしたいと考えているのなら、そういう判断になってもおかしくはないな」
エリアスはそう言及すると、メイルは嘆息した。
「ともあれ、危険だと一度洞窟を封鎖すべきでは……そんな考えを抱く者もいる中、突然轟音が鳴り響きました。何事かと洞窟を注視していると、魔物が岩を砕いて外に出てきました」
「硬そうに見えたが、実は結構もろかったのか?」
「私の見解ですが、先ほどの魔物は自然物……岩のような物を容易く破砕できる能力を所持していたのではないでしょうか? 洞窟入口はそれなりに岩の厚みがありました。にも関わらずあっけなく突破されたところを見ると」
「ふむ……」
エリアスは口元に手を当て考える。
「もしかすると、地底内で掘削などを行う魔物だったのかもしれないな」
「掘削?」
「地底内だって、様々な魔物がいる。その中で俺達が遭遇したあの魔物は地底の岩を掘って住処などを作るタイプだったのかもしれない。だとすれば武器のような物を持っていたのも理解できる」
「あれは武器というよりは掘削する道具だったということですか?」
「小型の魔物が持っていた物は、たぶん。で、剣を握っていたタイプの魔物は、他の魔物を撃退するための戦闘員といったところか。もしかすると、地底の浅い部分にいたあの魔物は、自分達の住処が追われる可能性があると考えて、逆に仕掛けたのかもしれない」
「自分達が攻め込まれるより前に、ですか」
「あくまで可能性の話だが……で、洞窟入口が広がり、危機的状況になって救援要請をしたというわけか」
「はい、さすがにこのままでは犠牲者が出ると思いまして」
「……あなた方が来たのは、国が魔獣の討伐命令を出したためか?」
「ゴーディン家はそのためですね。私は指示を受けてここにいますので、他の方と比べ立ち位置が異なります」
「そうか……ひとまず、犠牲者が出なくて何よりだ」
言いながらエリアスは周囲を見回す。怪我人の治療なども進み、さらに応援の騎士が続々とやってきている。
「俺達はどうするか……ただ、最初に調査をした立場である以上は、きちんと封鎖するところを見たいが」
「放置していたら、この洞窟から地底へ侵入するとか言い出しかねないわね」
ジェミーが言う。それにエリアスは頷きつつ、
「仮にここから入り込むとしても、魔物が絶対外へ出ないよう処置をしておかないとダメだな。瘴気が出続けているのも問題だが、魔物がまた襲ってくるとも限らないし、果てはさっき以上に面倒な魔物が這い出てくるかもしれない」
エリアスの言及にジェミーやメイルは沈黙。その中でエリアスは、
「それで、洞窟を封鎖する……で、いいんだな?」
確認の問い掛けに対し、騎士メイルは少し沈黙を置いた後、エリアスへ向け口を開いた。