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勇者の実力

 エリアス達が現場へ到着した時、女勇者――ミシェナが魔物へ挑み掛かった。


「やああっ!」


 気合いの入った声と共に一閃された刃が赤い狼へと入る。勢いよく振り抜くと魔物の体が吹き飛んだ。

 ただ、彼女以外の面々は対応に苦慮している。最大の問題はその数。森の中に開けた空間が存在しているのだが、そこに狼の姿をした魔物が合計で五体いた。


 勇者ミシェナの仲間や騎士達は魔物に牽制しつつ、動きを縫い止めている――そこでエリアスは戦況を瞬時に把握する。


(魔物の討伐は勇者ミシェナに任せて、他は無理せず食い止めているという形か)


「――ん?」


 エリアスが心の内で呟いた時、勇者ミシェナが気付いた。


「援軍? というわけじゃなさそうだけど」

「一応、手助けに来た」


 言うや否や、エリアスは剣を抜き放ち手近にいた魔物へ狙いを定めた。ミシェナの仲間である戦士が押し留めていた魔物を、横から一撃で叩き伏せた。

 その行動にどうやら勇者ミシェナは興味を持った――と同時、その視線がエリアスの胸元にあるペンダントに向けられた。


「……聖騎士」

「に、最近就任したばかりの人間だ」


 返答しながらエリアスは二体目の魔物を倒す。


「確認だが、勇者ミシェナで間違っていないか?」

「ええ、そうよ。そういえば最近、平民から聖騎士になった人がいるって聞いたけど、あなたのこと?」

「ああ、正解だ」


 その言葉の直後、三体目に狙いを定めようとしたエリアスだったが、それよりも先にミシェナがその魔物へ仕掛けた。


「なるほど――それじゃあ、気合いを入れないとね!」


 途端、好戦的な笑みを見せながら勇者ミシェナは魔物へ向け豪快な横薙ぎを決めた。それで魔物の体躯は両断され、エリアスは内心で感心したように、


(武器の性能も高いが、しっかり両腕から魔力が発せられて魔物を両断するのに十分な膂力を持っている……なるほど、これが勇者ミシェナの実力か)


 そして彼女は残っていた魔物を一人で片付ける――それはまるで、この場に登場したエリアス達に武威を示すようであった。

 彼女が最後の魔物を倒した結果、騎士や彼女の仲間は安堵の息を漏らす。そこでエリアスは彼らの装備を見て、


「魔物が現れて調査のために山に入り、遭遇して交戦したといったところか?」

「正解。国からの依頼で最近出没する赤い狼について調べろと」


 赤い狼――エリアスは両断した魔物の体躯を見ながら、


「俺は昨日、後方の砦に着任したんだが、その際にさっき戦っていた魔物と同型が出現した」

「ん、後方の砦?」

「――エミール砦です」


 捕捉するようにフレンが口を挟む。すると勇者ミシェナはエリアスへ顔を向け、


「彼女は従者?」

「そんなところだ。あ、戦闘能力は護身程度で、サポート役だな」

「あ、そう。で、エミール砦か……そんな所にまで出現しているってことは、生息域が広がっているのかな?」

「周辺地理は頭に入っているのか?」

「当然でしょ。じゃないと迷うし」


 それもそうか、とエリアスは納得しつつ、


「魔物の発生場所なんかを調べているんだが、何か知っているか?」

「私達も調べ回っている最中なの。とりあえず赤い狼が多く出現している場所を調べようということでここまで来たんだけど」

「群れを成していたから対応に苦慮していたと」

「そんなところ……さて、危険度二くらいの魔物だけど、外皮はそれなりに硬いしすばしっこくて耐久力もそれなり。こんなのが群れを形成していたら――」

「危険度は二から三に上がるな」


 エリアスの言葉に勇者ミシェナは渋い顔をする。


「……おとなしく討伐隊でも編成してもらった方が早いかも」

「群れでいるならそうだな……ここで問題になってくるのは、これ以上魔物が増えるのかどうかだな」


 続けたエリアスに対し、ミシェナは眉をひそめた。


「増えるのかどうか? それって……?」

「魔物が群れを成している。しかも同型の魔物……とくれば、親のような立ち位置の魔物がいるんだと思う。動物の狼と同じように腹を痛めて産んでいるのか、それとも魔力でも用いて複製でもしているのか」

「複製……その目的は支配領域を広げるため?」

「かも、しれないな」


 ――魔物の中にはナワバリとして一定の区域を根城とするような個体もいる。そこに立ち入った存在に襲い掛かり、やがてその領域は魔物の巣と化していく。

 魔物は象った存在に近い知能を持っている。今回の敵である赤い狼は、知能だけなら動物の狼の同義のはずであり、ナワバリを維持、拡大するために魔物を使っているとすれば、一応の説明はつく。


「討伐隊が動くにしても、ある程度調査はしないと無理そうだな」

「そうね……魔物の特性はわかったから、ひとまず退散して改めて調査隊を出した方がいい……のだけれど」


 と、ここで勇者ミシェナはエリアスへ視線を向けながら、


「赤い狼を一撃で倒せる御仁がいれば、このまま先へ進んでもいいかもしれないわね」

「……つまり、同行して欲しいと?」

「どうするかはあなた達が決めればいいわ」


 エリアスはフレンへ目を向ける。彼女はそれで小さく頷いた。


(……ま、勇者と交流して情報とかも手に入る。俺達としては理想的な展開か)


「わかった。ただ、俺達二人は調査するという名目でここまで来た。他の砦の騎士と合流したとなったら、一応報告はしないといけないんだが」

「そこは私達が所属する砦の者が連絡します」


 と、勇者ミシェナに同行していた騎士が声を上げた。


「事後報告という形になってしまいますが」

「ああ、それでいいよ……というわけで勇者ミシェナ、よろしく」

「私のことはミシェナでいいわ。あ、そういえば名前も聞いていなかったわね」

「そこについては道中で話をすればいいさ」


 エリアスはそう提案しつつ、じっと真正面――魔物の領域である山脈地帯へ目を向ける。


(……もしかすると、一山ありかもしれないな)


 そんな予感を抱いている間に、騎士が先へ進むと発言。エリアス達はそれに同行しつつ、山へ向かう途上で勇者ミシェナ達へ向け自己紹介を始めたのだった。


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