難しい話
エリアスはノークへ調査結果を報告し、後は国がどう対応するかを見守る段階となった。
その間にも、砦内で戦力強化は進んでいく。ノークによる騎士と魔術師の連携については、幾度となく演習を繰り返したことで確実に良くなっていった。
さらに騎士はエリアスの指導、魔術師はジェミーの指導によって、確実に個々の能力が高まっていく。その一方、東部から人を呼ぶという点については少し障害が発生していた。
「人を呼ぶという点については、それほど問題にはなっていない」
――ノークの部屋で、エリアスは人を呼ぶことについて彼から進捗を聞くことに。
「東部から引き抜く、ということ事態は基本的に問題ないようだ」
「しかし、時間が掛かっていますね」
「問題は、北部全体の動向だ。以前も言ったとおり、残る脅威を排除するべく貴族などが準備をしている。その中で私達も人を呼ぶことになったら」
そうノークが語ると、エリアスは納得するように頷く。
「後方支援の砦においても人を呼んでいるということは、何か考えがあるのだろうと勘ぐる人間が出てくると」
「そうだ。私はその点に気付いて、穏当な手段で模索している。時間は掛かるかもしれないが、北部の人間からにらまれないで済む方法であるため、おそらく問題なく君が望む人物を呼び寄せることができるはずだ」
「わかりました。なら待つことにしましょう」
「……さて、話は変わるが着実に砦内の戦力は充実しつつある」
と、ノークはエリアスを見ながら告げる。
「しかしこの砦が名前のある脅威を倒すため独自に動くようなことはない。あくまで、民を守るための強化だ」
「はい、そこは私も理解しています」
「ただ、そうだな……仮にそうした脅威――あるいは危険度の高い魔物でもいい。現状でそういった敵と遭遇した際、打倒できると思うか?」
問われ、エリアスは一考する。
「……まず、危険度一の魔物に対しては対処できるでしょう。ナナン山の魔物に対しルークとレイナの二人が対処できるようになりましたが、その経験を活かし他の騎士に情報や戦術を共有している。戦闘経験の少なさは問題ですが、本来の力を発揮できれば、勝てるでしょう」
「うむ、ならば砦周辺に出現する魔物であれば問題はなさそうだな」
「はい。危険度二以上の場合は、魔物自体の特性も個々によって大きく変わってしまうため、一概に言うことは難しいですが……北部で遭遇した赤き狼のような個体であれば、連係攻撃次第では対応できるかと」
「ふむ、そうなのか」
「危険度三以上はさすがに難しいと思いますが、打倒ではなく防戦であれば……例えば砦が攻撃を受け、籠城する必要がある場合など……そういった事例であれば、魔物次第で食い止めることもできるかと」
「それはきちんと連携が機能できれば、という話だな?」
「仰る通りです……ノーク殿としては、戦力を強化するにしてもどこまでが目標ですか?」
「今までは必要最低限もなかったが、今回訓練を施したことで、そのレベルはクリアしたと言っていいだろう。周辺にいる基本的な魔物を退治できるようになったのであれば、大きな進歩だ」
ノークの言葉にエリアスは深々と頷く。
「それは間違いないですね」
「ここから先だが、鍛錬を続け連携能力をより強化していく方向性に進むのがいいだろう。北部の最前線へ赴くようなことはしないが、先日君が調査した瘴気がある地底……そういった存在によって、危険度の高い魔物が出ないとも限らない」
そこまで言うと、ノークの表情はどこか重々しいものとなった。
「赤き狼が出て以降、北部の情勢が大きく変化しつつある。人間側が色々動き出していることもそうだが、瘴気が流れ出ている……こういった事例は、少なくとも砦周辺ではなかった」
「今までにはないことが起きている、と?」
「そうだ。しかもそれは間違いなく、人間側にとって悪い方向へ進むものだ……魔獣オルダーの出現だけでなく、打倒したことから、魔物側が何か動き始めたという可能性も否定はできないのではないか?」
「……脅威的な能力を持つ魔物が滅びれば、魔物の動向も変わる。それは間違いないでしょう。ただ、どの程度変化するのか。そこは見極めなければいけませんが、現状を見る限りノーク殿の言う通り、良くない方向へ話が進んでいるというのは、十分あり得ます」
「最悪の想定をすれば、まだまだ能力は足らないか……」
エリアスはここで考える。もし東部から人がやってくることになったら、その人物と共にさらに砦の戦力を強化できる。
そこから危険度三の魔物さえも打倒できる力を得ることは――エリアスは頭の中で色々と思案しつつ、ノークへ告げる。
「東部でも、魔物との戦いは騎士達の連携で対処していました。北部では競争原理が働いているため、時に人間同士が敵対関係となって戦っているのでしょう……しかし防衛の場合は、そんな関係では危険でしょうし、魔物の特性によってはこの砦の戦力では足らないかもしれません」
「周辺の砦や騎士団とも連携していく、か……難しい話だが、色々と考えていかねばならないな」
ノークはどこまでも唸りながら、今後について施策を巡らせ始めた。