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討伐の価値

 魔物の親玉は配下と比べても明らかに強い。だがルークとレイナは臆することなく足を前に出した。

 動きが鈍った魔物の親玉へ向け、彼らが剣を放ったタイミングは同時だった。魔力を大いに込めた剣が敵へと叩き込まれる。魔物はそれによって大きく傷つき、体を震わせる。


「そのまま押し切れ!」


 エリアスはそう叫んだ。いける、と判断してのことで、ルーク達は勢いに乗ってさらに追撃を加えた。さらなる剣戟は魔物の体を大きく抉り、動きをさらに鈍らせる。

 そして、トドメの一撃を加えたのはレイナだった。今まで以上の魔力を込めた一閃が彼女から放たれる。エリアスはこれで決まる――そう直感し、予想は的中した。


 彼女の剣が入り、振り抜いた瞬間、魔物の体がボロボロと崩れ始めた。ルーク達は一度後退し魔物の行く末を眺め――その体躯が粉々になった時、二人は戦闘態勢を解いた。


「……終わった、でいいんですよね?」


 確認の問い掛けがルークから成される。それにエリアスは頷き、


「ああ、完全に破壊した……洞窟奥の気配を探ってみたが、動いているような個体もない。討伐は完了した……と、言いたいところだが念のために調べるか」


 エリアスの提案にルーク達は頷く。するとここでジェミーが口を開いた。


「魔物の気配がなくなったから私も改めて洞窟に意識を向けているけれど、何かあるわね」

「それは、魔物の類いではないのか?」

「魔物とは違う。たぶん、洞窟に魔物がいる原因があるのではないかしら」


 その言及で――エリアスは「なるほど」と呟いた。


「魔力があまりなかったから気付かなかったが、そういうことか」


 納得した声を上げると、わけがわからないルークはエリアスへ、


「あの、どういうことですか?」

「ああ、すまない。ひとまず洞窟内を調べよう。魔物はいなくなったし、問題はない……が、念のため警戒はしてくれよ」






 洞窟内は当然ながら漆黒の暗闇であり、ジェミーとエリアスは明かりの魔法を使用し、足音を反響させながら中へと進む。

 洞窟はある程度深いが、調べるにしてはそれほど時間も掛からない――その中で、エリアス達は目当てのものへと辿り着いた。


「これは……」


 レイナがある一点へ視線を注ぎながら呟く。

 そこにあるのは壁面なのだが、まるで血管のように脈動する赤い紋様のようなものがあった。


「これは『瘴気の根』と呼ばれるものだ」


 エリアスが解説を行う。


「瘴気というのは地上に滞留し続けると魔物が生まれる……その一方で、地底に溜まる場合は壁面などに付着し影響を与え、こうして肉眼で魔力の流れを確認できるようになる」

「これが瘴気ということですか?」

「そうだ。ずいぶんと形が違うから驚くかもしれないが……東部でも幾度となく見たことがある。こうなってしまった瘴気は、地底に存在する魔力を吸い上げつつ、瘴気の総量を少しずつ大きくしていく」

「といっても、ここにある瘴気は少ないけれど」


 と、エリアスに続きジェミーが発言した。


「洞窟内は閉鎖的で、なおかつ魔力が潤沢だったというわけではない……けれど魔物が偶然生まれ、発する瘴気によって『瘴気の根』が誕生した。でも元々魔力が少ないことから吸い上げる量が少なくて、周辺に与える影響も限定的だったということね」

「この『瘴気の根』が洞窟全体に広がっていたりしたら、討伐した魔物はより数が多かっただろうし、より強かったはずだ。今まで被害が無かったことは、根による影響が少なかったから、だな」

「放置していたら危なかったんですね」

「ああ、そこは間違いない。悲劇を未然に防いだという点では、今回の討伐は十分価値があった。あれだけ魔物がいたのであればいずれナナン山周辺に影響が出ていた……開拓を行う上でも、良かったと言えるだろう」


 解説したエリアスは、根を見ながらさらに続ける。


「で、これを放置しておくとまた新しい魔物が出てくるかもしれないから、ここで対処しておく。といっても対処法は簡単だ。壁面にある瘴気を、魔力を叩き込んで滅する。ルーク、レイナ、やってみるか?」

「どういうやり方をするのか見てみたいのですが」


 ルークが応じる。それにエリアスは頷き、


「わかった。それじゃあ今回は俺が破壊する。ジェミー、他の場所に瘴気の根はありそうか?」

「感じられる気配からすると、ここだけね。この一ヶ所だけだったことから、あのくらいの強さだったと言えるでしょうね」

「そうだな……よし、それじゃあ見ていてくれ」


 ルーク達へ言ったエリアスは剣を抜いた。次いで魔力を剣へ注ぐとヒュン、空を切るように剣を振った。

 その瞬間、壁面に存在していた瘴気の根が、一挙に消え去る。エリアスの剣によって瘴気が霧散し、根が消えたのだ。


「これで作業は終了だな……洞窟は閉鎖的だから、年月を掛けてまた瘴気が溜まるかもしれないが」

「その対処は国にお願いすればいいでしょう」


 ジェミーの意見。エリアスは「そうだな」と返事をした。


「ま、俺達の仕事ではないな……後はノーク殿へ報告をして終了だ。ルーク、レイナ、ジェミー、三人ともお疲れ。ひとまず拠点へ戻るとしよう――」


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