親玉との対決
結局、魔物が夜の内に外へ出ることはなく、エリアス達は交代で見張りをしつつ翌朝を迎えることとなった。
エリアスが全員の体調を確認し、問題ないとのことであったため、予定通り朝から魔物討伐へ動くことにした。
「役割は昨日と同じだ。今日で討伐は終わらせるぞ」
そう述べ、エリアスはルークとレイナ、そしてジェミーを引き連れ山へと足を踏み入れた。
洞窟入口まで辿り着くと、そこには変わらず内外を封鎖する結界があった。強度的にも魔物が悪さをした様子はなく、さらに入口周辺には魔物もいない。
「結界により完全に封鎖しているから、一度洞窟の奥へと戻ったな。まずは索敵から行おう」
エリアスの指示により、まずは洞窟内の確認。その結果、魔物の個体数としては増えていないことがわかった。
「親玉は瞬時に配下を生み出すような能力を持っているわけじゃないことがわかるな……それじゃあ、決着をつけるか」
「結界を解除したら、入口に向かってくるんでしょうか?」
疑問を投げかけたのはレイナ。それにエリアスは彼女を見返しながら、
「まずは解除してみよう。出てこなかった場合は魔力を流して誘い出す」
「わかりました」
エリアスは結界を解除。すると、洞窟奥の気配が動いた。
「……俺達へ仕掛けてくるつもりのようだ。戦術は昨日と同じ。親玉を倒す前に、まずは取り巻きの魔物から倒す」
「はい」
ルークは返事と共に剣を抜いた。直後、エリアスが穴を開けた結界を構築し、ジェミーは言われずともそれを補強する。
そして、暗闇から魔物が出現する――魔物は昨日と比べてもアグレッシブであり、結界に穴を見つけるとそこへ目がけ突撃した。
「昨日よりも攻撃的だ。二人とも、気をつけろ!」
エリアスの警告と共にルーク達は交戦を開始する。先陣を切った魔物に対してはまずレイナが剣を放ち、見事両断に成功する。
続けてやってくる後続については、入れ替わるような形でルークが前に出て迎撃。さらに来る魔物を今度は二人が同時に剣を振って対処。瞬く間に敵を倒し、エリアスは目を見張る。
(昨日、色々と話し合っていたが……連携して動こうとしたのか)
エリアスは昨夜のことを思い返しながら二人の戦う姿を眺め続ける。考える間にもさらに魔物の数が減っていき、気付けば洞窟入口に押し寄せる魔物が激減していた。
そうした中で、親玉と思しき個体が入口に対し見えるか見えないか微妙な位置で佇んでいる。これはエリアス達の戦いぶりを観察しているのか、あるいは一気に減っていく配下に対し動揺でもしているのか。
(どちらにせよ、終わりまではそう遠くないな)
そこでルークが最後の配下を倒し、これで残るは親玉だけとなる。そこでエリアスは洞窟内の気配を探る。
「……感じ取れる大きな気配は親玉だけだ。他の個体はどうやら、倒しきったらしい」
「ならあれを倒して終わりですか」
ルークが言う。今すぐにでも戦う気概を持っている様子だが、そこにエリアスは言及した。
「少し待て、焦る必要はない……見事な連携だったが、初めてやった以上は多少なりとも疲労もあるだろ」
その言及にルークは頷いて呼吸を整える――極めて短時間の戦闘ではあったが、魔物との戦闘がまだ二度目である以上、二人は必要以上に力が入っている。
(ただ、初日と比べても見違えて動きが良くなっている……うん、現段階で危険度一の魔物はもう、敵じゃないな)
「よし、それじゃあ結界を解く」
エリアスが言うと、ルークとレイナは静かに剣を構える。
「ジェミーは二人の援護を……とはいえ、先制攻撃で仕掛けることもできるが」
「今回は援護に終始するわ。それに、あの魔物魔法が効きにくそうだし」
「硬い外殻で、か?」
「ええ、至近距離で観察してなんとなく理解できたわ」
「なるほど、な……それじゃあ、援護を頼む。俺は、魔物が逃げ出したりしないよう立ち回る。俺達ごと結界で洞窟入口を覆ってもいいけど、俺達が退却する必要性が出てきた場合は、邪魔になったりするからな」
エリアスは言いながら魔物の親玉を注視。いまだ動かないが、それでも敵意を感じ取ることができる。
(……結界にできた穴から自分は出られないことをあの魔物は理解しているな)
「三人とも、合図と共に結界を解く。あの魔物の様子からして、突撃してくるだろう……準備はいいか?」
ルークとレイナは同時に頷く。ジェミーも何かしら策を思いついたか、魔力を杖へ注ぎ始めた。
「それじゃあ、いくぞ――!!」
エリアスは声と共に結界を解除。刹那、魔物は反応し突撃を開始した。
そこへ、ジェミーの魔法が発動した。火炎系の魔法であり、爆発するタイプではなく炎を垂れ流し、火傷を負わせるといった役割を持たせたもの。
魔物が炎に飲み込まれる。それでも突撃は止まらなかったが――炎による影響か、明らかに動きが鈍った。
ジェミーが語った通り、炎に飲み込まれても外殻のためかそれほどダメージはない。しかし、動きは遅くなった――これこそ彼女の狙いであり、ルークとレイナが間合いを詰め渾身の一撃を決める、絶好の機会を作った。
そして、魔物とルーク達が肉薄し――先に攻撃を仕掛けたのは、ルーク達だった。