独自進化
エリアス達はナナン山へと到着し、まず兵士とフレンが野営の準備。さらにその場所を新人騎士二人と魔法使い一人が守るという形に。
そしてエリアスはルーク、レイナ、ジェミーの三人を伴いナナン山へと入り込む。
(まずは連携が重要だな)
「……魔物と出くわした場合のことを説明する」
エリアスはルーク達へ話し始める。
「ルーク、レイナ、二人は魔物と交戦した経験はあまりないな?」
問い掛けに、ルークが口を開く。
「危険度一と遭遇し、複数名と連携し対処したことなら」
「レイナはどうだ?」
「私も似たようなものです」
「わかった、魔物との戦いで重要なのは、とにかく怯えないことだ。恐怖は体の動きを悪くするし、思考力も奪う……そして魔物は、威嚇のため瘴気を発しこちらをビビらせてくる」
エリアスの説明にルーク達は頷く。どうやら経験があるらしい。
「二人の技量は、俺から見ても十分だと思うから、訓練通りの動きを見せれば魔物には勝てる」
「……本当ですか?」
疑わしげに問うレイナだが、エリアスは深々と頷き、
「ああ、そこは俺が保証しよう……ただし、それはあくまで魔物と一対一になるケースだ。最大の問題は混戦になった場合。囲まれたらさすがにまずい」
「でも、魔物の動き方次第ではそうなりますよね?」
「そうだな。ちゃんと対策はするが、二人は組んで互いの背中を守ってくれ」
指示にルークとレイナは驚いた様子を見せる。
「二人は一緒に訓練とかしたことはないだろうけど、相手の背中を守るだけならそこまで連携の必要性もないからな。で、ジェミーは二人の援護を頼む」
「構わないけれど……あなたは一人になるわよ?」
「俺の方は心配するな。というより今回の戦いなら俺の出番はあまりないし」
「何か考えがあるということね」
エリアスの言葉にジェミーが応じた時、全員の視線に洞窟が見えてきた。
「まずは入口付近を確認する」
エリアスは先頭に立ち、その洞窟を確認。漆黒の穴が木々の中に広がっており、入口の大きさは大人が立って歩ける上、三人程度が並んで進めるほどの幅がある。
「肉眼で見ると、存外広いことがわかるな……そして」
入口付近にも瘴気が滞留し、洞窟内へ進むことを拒んでいる空気を発している。
「魔物は外に出ていないみたいだな。俺達がここに来たことで警戒する可能性もあるが」
「誘い出しますか?」
ルークが問うと、エリアスは首を左右に振る。
「ここはまず、様子を見て――」
と、語る間にエリアスは気配を感じ取った。
「魔物が来る。入口から少し下がって警戒を」
指示と共にルーク達は後方へ。エリアスは剣を抜き、二人の騎士もまた抜剣し戦闘態勢へ。一方ジェミーは杖を構え、いつでも魔法を放てる準備をする。
じっと洞窟を見据えるエリアス。そして暗闇の中から現れたのは――四本の脚で動く、蜘蛛のような魔物だった。
「……この場所で独自に進化した個体だな」
ジェミーが以前言っていた甲殻、というのは硬そうな外皮に身を包んでいることで明瞭だった。目や口などは見受けられない――が、そもそも普通の蜘蛛と姿形が同じではないため、体の構造も根本的に違うことは予想できる。
四本の脚で洞窟から這い出てくる姿はどこか不気味であり――ルークは剣を構えながらエリアスへ問い掛けた。
「どう、しますか?」
「……俺達を見て観察しているな」
エリアスはじっと魔物を見据える。一方の魔物はしばし動きを止めているが、それは間違いなく人間が姿を現したことで警戒しているのだと推測できる。
「このまま襲い掛かってきたら俺が対応する」
指示を出した直後、魔物から音が聞こえた。カラカラ、という乾いたものでそれによりルークやレイナがビクリと反応する。
「……仲間を呼んだかな?」
エリアスは呟くと、観察していた魔物が――突撃を始めた。来る、とエリアス達が魔力を剣へ叩き込んだ瞬間、魔物は跳躍した。
その狙いはエリアス。体当たりか、それとも脚で攻撃するのか――どちらにせよエリアスには関係がなかった。跳躍し攻撃しようとする魔物へ向け縦に一閃。それによって、魔物は真っ二つ隣地面に転がった。
その間に洞窟奥からさらなる気配。先ほど魔物が発した音によって、洞窟にいた魔物達が一斉に向かってこようとしている。
「このまま交戦すれば、多勢に無勢じゃない?」
そうジェミーは言う。エリアスはそれに頷くと、
「ああ、ここで対策しよう」
応じるとエリアスは左手をかざした。
「魔法により、入口を封鎖する。といっても完全に覆うのではなく、一体程度外に出られるくらいには開ける。魔物の通り道を限定して、動きを制限し各個撃破を行う」
「なるほど」
ジェミーが納得の声を上げると同時、エリアスは魔法を使用する。それによって構成されたのは、半透明な結界。直後、洞窟奥の暗闇から、先ほどと同じ形をした魔物が入口へ向け押し寄せてきた。