山の魔物
エリアス達はその後、ナナン山へと到達。木々が生い茂る小高い山で、開拓最前線の山脈からは離れているため、地形を見てエリアスはここなら魔物が潜伏していても露見する可能性は低いな、と心の中で思う。
「さて、魔物だが……」
エリアスは索敵魔法を発動。その様子を見て、ルークが声を上げる。
「この距離から索敵を?」
「山の中腹と言っていたし、直線距離なら目当ての洞窟に届くと思うぞ」
返答している間にエリアスは村人が語っていたと思しき洞窟を見つけ出す。
「魔力が溜まっている空洞があるな。これが洞窟か……で、その中に魔物がいるのかどうかだが」
エリアスは慎重に魔力を探る。そこでルークやレイナも自身の力で探りを入れたが、洞窟までは届かないのか結局索敵は諦めた様子。
そうした中でエリアスは、
「……ん?」
洞窟内を索敵していると、やがてあることに気付いた。
「なるほど、な」
「何かわかりましたか?」
ルークが問うと、エリアスは魔法を解除。
「ああ、おおよそのことはわかった。洞窟内の構造も……どこかに抜けているわけでもなく、山の地下に少し入り組んだ洞窟があるな」
「魔物はどうですか?」
「それなんだが、確かにいる……しかも、結構な数だ。間違いなく、魔物の巣になっているな」
エリアスの言葉にルーク達は沈黙する。
「精々魔物が単独でいるとか、そういうレベルを想定していたが、どうやらそれなりに数が多い。俺達だけで駆除は無理だな」
「危険度も高い?」
「あくまで魔物の気配を探知しただけで、危険度についてはわからない。夜まで待って魔物を確認するのも手だが……」
エリアスは視線を山へ向ける。洞窟は肉眼で確認できないが、その位置は特定した。
「魔物の姿形も不明だが……さて、どうするか」
「まずはどのような魔物なのか、調査しないといけませんね」
「そうだな、俺の索敵魔法じゃあ、魔物の姿形までは特定できないし……さすがに三人だけで動くのは難しいし上に、現時点では近づかなければ人的な被害も皆無だろう。先ほどの村にいる人達に、ここへ近づかないよう助言してから、砦に戻ろう」
「駆除するということで確定ですか?」
「そこはノーク殿の判断に任せるが……開拓している場所から離れている。俺達の管轄ではないかもしれないし、どうするかは上の人達に決めてもらおう」
そう言うとエリアスは村のある方角を見た。
「今日の所はこれで終わり……村人へ調査結果を伝えて、帰るとしよう――」
その後、エリアスは砦に戻り調査結果をノークへ報告をした。
「危険度は不明ですが、それなりの数、魔物がいるのは間違いありません」
「……その魔物達が、この砦に近づいてくる可能性はあるか?」
「ナナン山周辺を根城としているため、可能性は極めて低いと思います。近くの農村で暮らす人達には山に近づかないよう伝えたので、騒動が起きることはないかと」
「そうか……しかし、魔物がいるとわかっているのに放置するのも気味が悪いな」
ノークの呟きにエリアスは「そうですね」と応じる。
「かといって、この砦はあくまで後方支援の役割。さすがに距離のある山に存在する魔物を討伐する……というのは、筋が通らないのでは?」
「一応、説明自体はできる。エリアス殿が訪れた村はこの砦に物資を運び入れる際に用いる中継地点の役割もある。つまり魔物によって開拓を進めるのに必要な物資が滞る可能性がある。確率が低いと言っても魔物がいる以上は、悪さをするかも、というのは否定できない」
「はい、そうですね」
「まずは国側へ連絡を行う。ただ現在時点でどれほどの魔物がいて、強さを持つか不明である以上、討伐せよと指示が下される可能性は低いが……」
ノークはそう語った後、少し間を置いた。
「……いや、もしかするとあっさりと許可は出るかもしれない」
「何故ですか?」
「魔獣討伐があったからな。現在北部及び北部周辺では、魔物の出現そのものに対し神経過敏となっている。ナナン山は確かに距離はあるが……かといって、放置するというのも微妙な位置だ」
「なるほど……神経過敏だからこそ、悪しき存在は排除しなければ、と考えているわけですか」
「ただ、現在騎士や勇者の多くは開拓最前線にいるし、調査により魔物討伐を行う、と決まったとしてもどれほど戦力を用意するかは未知数だ」
「最前線ではないので、そこまで戦力がいらない……そんな風に考えたら、討伐部隊の規模も相応に小さくなるかもしれない、と?」
「その通りだ……ここで私の意見を告げておこう。魔物に関する調査については賛成だ。魔物がいると報告書を上げれば、調査をしろと命じられる可能性はある」
「それは……この砦の人間に?」
「ここ以外、周辺に存在する戦力は町の衛兵などだ。さすがに宿場町にいる兵士達を動員して討伐を、というのは非現実的であるため、物流ルートを盤石にするためにも、私達が率先して動く可能性はある」
「わかりました……ひとまず報告をお願いします。その結論が出て動けと指示されたら、改めてどう立ち回るか決めるとしましょう」
エリアスの言葉に、ノークは頷き、話はまとまったのだった。