騎士になるための道筋
「ルークは先ほど、騎士に任命されたと言っていたが、騎士学校で学んだのか?」
「いえ、俺はちょっと特殊です。元々、剣術道場に通っていて、そこで才能を見込まれて騎士訓練を受けないか、と師匠に言われ試験を受けました」
「――へえ、そうなのか」
エリアスは少し興味深そうにルークを見る。
「騎士になるためには、いくつかルートはあるが……君の場合は剣の師匠から推薦があったのか」
「はい、普通騎士になるには騎士学校に通わないといけませんが、技術面において秀でていると認定され、自分は学校へ行かないルートで騎士に」
(なるほど、だから他とは違い技術を持っている、と)
――ルーンデル王国において騎士となるには様々な道が用意されている。これは色々な可能性を持たせることで、在野にいる才能ある人間を取りこぼさないように――ひいては魔物の領域開拓を進めるため人員確保を行うという意味合いがある。
通常のルートは騎士学校に通うもの。一定の年数勉学に励み、騎士としての訓練を受け――やがて卒業することで、騎士として国から任命される。ただこのルートは普通の人にとっては勉強が追いつけず卒業できなかったり、あるいは騎士学校の学費が高いといった問題点から、もっぱら貴族の子息達が通るルートである。
中には開拓などせず、騎士の称号を得るためだけ、つまり箔付けで学校に入る者もいる。ただ、騎士になるための学校だが学び舎であることには間違いないため、そういう人がいてもおかしくはない。
そして、このルートの特徴は出世が早い――貴族が騎士になるから早いのか、それとも騎士学校を卒業したから早いのかは議論の余地があるのだが、いわゆるエリートコースの道を歩むことができる。エリアス達がいる砦の主であるノークは間違いなくこの道だ。
一方で、他にも道がある。それは――
「エリアスさんはどういう形で騎士に?」
ルークが逆に問い掛ける。興味がある、というよりは雑談をするなら尋ねても良いだろう、くらいの雰囲気だった。
「俺か? 平民であることは話に聞いているだろうから、予想はしているだろうけど……ま、兵士から騎士になった叩き上げのタイプだな」
別の道としてあるのが、一般兵から騎士になる道。これはエリアスが該当し、少しずつ実績を重ねて騎士になるパターンだ。
兵士になるのは騎士と比べれば難しくはない。国が用意した適性があるのか確認する試験や、身体能力の検査をパスすれば誰でもなれる。とはいえ、なったからといってすぐ最前線に送り込まれるわけではない。最初は町の見回りだったり、門番であったり、兵士として様々な仕事に従事する。
ほとんどの兵士は、そうした仕事をこなし続けるだけで騎士になることはない。だが、エリアスの場合は魔物と戦う環境があった。必死に強くなり、武を極めるために剣に磨きを掛け、やがて国が兵士にしておくにはもったいないと判断し、騎士の称号を授与した。
「東部には北部ほどではないけど、魔物と戦う場所があった……俺が騎士になれたのは、兵士になった場所がたまたま魔物が多かった地域、ということが関係している。そういう場所でなければ、俺は今もどこかの町で門番でもやっていたさ」
「でも、騎士になり……今は聖騎士になった」
「国が評価してくれたのは嬉しいけど、俺としては荷が重いかなとも思ってるよ」
肩をすくめて話すエリアス。ただルークやレイナはそう思ってはいないような視線。それは赤い狼の魔物――危険度二相当の魔物を瞬殺したことを振り返っているからだろう。
あの魔物を倒せるのであれば、聖騎士になってもおかしくはない――そんな風に考えている。
「俺の方は以上だな……レイナ、君はどうなんだ?」
「私は騎士学校です。ただ、ルークほどではないけど事情が違うというか……」
「ん? どういうことだ?」
「騎士学校、と言ってもピンキリなんですよ。私はドがつくほどの田舎にある騎士学校出身で、生徒の数も少なかった……その中で私、一番だったんです」
「すごいじゃないか」
と、エリアスが言うとレイナは首を左右に振った。
「たまたまですよ、たまたま。で、一番だったから色々あって、優秀と見なされて騎士になったというわけです。都会の騎士学校の一番と比べたら天と地ほどの差がありますし、私なんかそういう学校だったら下から何番目のレベルじゃないですか?」
(そこまで否定的にならなくてもいいと思うんだけどな……)
エリアスは胸中で考えつつ、そうやって語る以上は騎士になる過程で何かしら自分の立ち位置を客観的に知る機会があったのだろうと考える。
「でも、北部にいるということはそれなりに実力が認められたということじゃないか?」
「……まあ、一応実技面で認められたので」
(なるほど、彼女は元々剣術の素養があったということか)
エリアスは納得しつつ、二人に対しどう接していくかを考える。その実力を実戦で確認できたわけではないが――
(北部には色々な人がいるから、二人のような特殊な経歴を持つ人間も多いんだろう……その中で俺は――)
思案しつつエリアスは調査を進めていく。そうして歩いていると、やがて森を抜け、農村が見えた。