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聖騎士の実力

「なあ、フレン」


 今にも飛びかかってきそうな赤い狼――魔物を見据えながら、エリアスは問う。


「この砦周辺に現れたことのない危険度の魔物……俺が来たことで発生したなら、疫病神的な見方をされるか、それともこのタイミングでよくぞ来てくれた、という見方をされるか、どっちだと思う?」

「さすがに前者は考えにくいですけど……」

「わからないぞ。この砦にいる人はともかくとして、王都で俺のことをどうにかしたい人にとっては、色々と理由を作れそうだし」


 会話をする間に――とうとう魔物が突撃を始めた。指揮官のノークは恐怖で声がうわずり、魔物を迎え撃つ騎士や兵士も武器を持つが顔を引きつらせている。


(この砦にああいった魔物が現れたことがない……だとしたら砦にいる騎士や兵士の、危険度二クラスとの戦闘経験は皆無。ならこの反応でもおかしくない)


「フレン、動くぞ」

「はい、どうぞ」


 返答の直後、エリアスは駆ける。一瞬で騎士達よりも前に出ると、迫る狼と真正面から対峙した。


「エ、エリアス殿……!」


 ノークが驚愕しながら声を上げる。だがエリアスは反応しないまま、腰に差した剣を抜き放つと、魔物を見据え迎え撃つ。

 突撃する魔物に騎士や兵士から恐怖の声が上がる――その直後、向かってきた魔物に対しエリアスは一閃した。


 狼の頭部に刃が入った直後、エリアスはそのまま振り抜いた。直後、魔物の頭部が吹き飛び、突撃は力をなくす。

 勢いが削がれ魔物の体が地面に落ちる。戦闘は終了し、兵士や騎士達はその結果にしばし呆然となる。


「まあ、こんなところか」


 キン、と剣を鞘に収めた時、周囲にいた人々は一斉に沸き立った。聖騎士――その実力を目の当たりにして、歓声が上がった。

 それに構わずエリアスはノークへ目を移す。


「ひとまず、実力を示すことはできましたか?」

「あ、ああ……助かった、エリアス殿」


 ノークは居住まいを正した後、騎士達へ後始末をするように指示を出した。その光景を眺めながら、エリアスは思考する。


(……反応からして、危険度二の魔物を瞬殺という事実に驚愕しているな)


 結論を出した後、フレンへ目を向ける。


「後で少し話をするか」

「はい……魔物の警戒をしますか?」

「ああ、念のため周囲を調べてみよう」


 エリアスの言葉を受け、フレンもまた動き出した。






 危険度二の魔物が現れたことで、砦内は警戒を行い騎士達が慌ただしく動き回る。エリアスはその途中に廊下を歩く一人の兵士を呼び止め、話をする。


「こうした事態は、あまりないのか?」

「はい、ここに来て一年ほどになりますが、魔物が姿を現しても危険度一程度でして」

「……なるほど。ちなみに最前線にいる魔物の危険度とかはわかるか?」

「その辺りの情報が来ることはないので……」

「そうか。ありがとう」

「……あの、先ほどの戦い、お見事でした」


 エリアスはそれに頷きつつ、砦内を歩く。そして自室へと戻った時、ノックの音。返事をするとフレンが入ってきた。


「砦内の様子は?」

「落ち着きを取り戻しています。ただしノーク様を始め砦を指揮する立場の方々は情報のとりまとめを行っており、忙しい様子です」

「危険度二の魔物が出現することはなかったみたいだからな。上層部は警戒するだろうし、報告もするだろう」

「……私達はどうしますか?」


 フレンの問いにエリアスは小さく肩をすくめる。


「とりあえず、この砦周辺にいなかった魔物が出現した……ということで、調査したいところだな」

「なんというか、タイミングが良すぎますね」

「まあな。ともあれ被害が出なかったのは良かった」


 ここで一時沈黙する。フレンは数度エリアスへ窺うような視線を送った後、


「私達の戦歴について、ノーク様にお伝えした方が良いのでしょうか?」

「……危険度四の敵もまあまあの頻度で討伐していた、と?」

「はい」

「正直、現段階では判断できないな。フレン、その辺りの情報を集めてくれ」

「というと?」

「開拓を進める北部で、どういった魔物がいて、現在どういった人物が戦っているのか……この砦で危険度二が珍しいとしたら、危険度三以上はどういう扱いなのか。そして、北部の騎士達から見て東部はどういう扱いなのか」

「その情報を集めて一体何を?」

「北部がどういう状況なのか知りたい……特に東部の扱いについて。俺達の活動内容がちゃんと伝わっていれば、世間的な評価が上の可能性もあるが……」

「伝わっていない、と。思えば私達も北部の状況などを積極的に調べようとしませんでしたね」

「そうだな」


 エリアスは同意しつつ、フレンへとさらに続ける。


「危険度の高い魔物は報告していたけど、その情報が歪んでいる可能性があるな」

「もしそうなら、かなり面倒な話になりそうですけど……」

「そうだな……とにかく、調査はしないとまずいだろうし、明日から行動開始だな」

「忙しくなりそうですね」

「そんなの、いつものことだろ?」


 エリアスの言及にフレンは小さく頷き、


「やりがいはありそうですが」

「ああ、というわけで頑張るぞ」

「なんだか、生き生きとしていますね」

「そうか?」


 聞き返したエリアスに対し、フレンは微笑する。


「騒動の予感がしますが、退屈することはなさそうですね……まず明日、ノーク様に調査の報告をしますか」

「そうだな。魔物に対する反応を見ると、俺を飼い殺しにするという目論見よりも、調査を優先するだろう」

「はい、何はともあれ魔物討伐……ですね」


 フレンの言葉にエリアスは頷く。その顔つきは、戦場に立つものへと変貌していた。


「フレンは先ほど言った情報を集めてくれ……それ次第で、立ち回りも変わる」

「はい、全力で情報収集します」


 フレンは速やかに部屋を出た。それを見送った後、エリアスは息をつく。


「暇を持て余すようなことはなさそうだが……少しばかり、怠けるのもいいと思っていたんだがなあ」


 聖騎士になったことだし、少しくらい自堕落しても――とはいえ、小さな部屋でくつろぐなんてことは難しいかもしれないが。


「ま、いいや……名声や地位に興味はないが、魔物は倒す。武を極めるため……そして、人々の平和を維持する」


 平和、という言葉をエリアスは強い声音で呟いた。その表情には、確固たる意思が見える。

 二十年――戦い続けたエリアスの脳裏に様々な出来事が蘇る。なぜ武を極めようとしているのか。それはもちろん、エリアス自身が極めたいと願っているためでもあるのだが――


「明日から、頑張ろう」


 そう呟き、エリアスは休むことにした。


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