山積みの仕事
エリアスは自室へ戻り、少し間を置いてやってきたフレンにノークとの会話について説明する。
「というわけで、ノーク殿はある程度味方してくれるようだ」
「ノーク殿の仕事ぶりを考えると、話した内容は間違いなさそうですし、問題はないでしょうね」
「よって、地盤固めとしてはまず、この砦の戦力強化かな」
「……エリアスさんが指導を行い、砦全体の戦力を高めていくと」
「ああ、魔獣オルダー討伐ではミシェナと出会ったことにより対処はできた。しかし、彼女も今回の戦いで功績を得たし、おそらくここに来ることもなくなるだろう。よって、所属するこの砦で共に戦える人員を育てていく方がいいだろう」
「時間は掛かりそうですね」
「そうだな……東部の面々にはもう少し待ってもらうしかなさそうだ」
そう述べるとエリアスは頭をかきつつ、
「ま、確実に進めていこう……その間にフレンの方は情報収集を。ただし、先にも言ったがくれぐれも慎重に」
「わかりました……ただエリアスさん、砦の騎士達を鍛えると言っても、戦闘経験が少ない方ばかりです。どれほどの時間を費やすことになるか」
「いや、フレンが予想するよりはずっと早いと思うぞ」
「その根拠は?」
「ここへ着任し、オルダー討伐を行うまでに訓練などをこなしてきたが、見込みのある人物も多い。後方支援の砦とはいえ、ここへ来る以上は基礎的な教育は受けているし、剣術なんかも叩き込まれている……実戦経験のなさが露呈して以前は後れを取ったが、そこを解消し、得意分野を伸ばしていけば戦力は大きく増強されるはずだ」
「ならばエリアスさんは、そうした方々の指導を中心にやっていくと」
「ああ。ただ戦闘経験が最大の課題であることは間違いない。魔物の調査という名目で外に出るとしても、魔物自体が最前線以外に少ないからな」
「ならば逆に、山を下りてはいかがでしょうか?」
その提案にエリアスは眉をひそめる。
「山を下りる?」
「ミシェナさんが言っていたはずです。魔物と戦い続けた結果勇者と呼ばれるようになった、と。魔物の発生場所は開拓最前線だけではありません。魔獣オルダーが出現した影響で、砦周辺に存在する森などに魔物が発生する場所などが現れたかもしれません」
「なるほど、な……ノーク殿の話によると、この砦より先に騎士の拠点はない。となれば、周辺に現れる魔物についても、調査や討伐の対象になり得る……か。後方支援を行うこの砦周辺に魔物がいるとなれば仕事に支障が出る。討伐へ赴く理由としては十分だな」
エリアスは頭の中で算段を立てていく。
「よし、なら騎士達に声を掛けて交流を深めつつ、周辺調査を行う……うん、ひとまず短期的な方針は決まったな」
「では長期的な方針……目標である東部の状況を国へ伝える発言力を得る、ということについては……」
「さらなる魔獣討伐……あるいは、北部で実績を重ねていく……当然時間が掛かる。俺達がいるのは後方支援の砦だからな。最前線と比べれば討伐機会は少なくなる」
「……討伐には色々と外部的な要因も絡んでくるでしょうね」
「ここは実際に討伐が行われることになったら考えるとするか……残る問題は、ノーク殿だな」
その発言にフレンは首を傾げた。
「ノーク殿? まだ何か問題が?」
「あの人はあくまで、妨害をしないことと今後砦を運営していく上で俺に協力を頼んだ……しかし、俺をここへ赴任させ、ノーク殿に指示を出す存在が何かしら干渉してきたら、あの人はそれに従うほかないだろう」
エリアスの話にフレンは頷く。
「はい、それは間違いないですが……」
「理想を言えば、その命令をはね除けるくらいの信頼関係が欲しいところだ」
「……非常に厳しいですね。それはエリアスさんがノーク殿に指示を出す人間よりも権力を保有し、自分側につけば得になると考えて頂く必要があります」
「そうだな。でも、砦の戦力を整え、本格的に魔獣討伐を行うという段階になって、妨害されたら面倒極まりない」
「これも時間が掛かりそうですね……」
「結局のところ、どれもこれも一朝一夕では解決しない……なら、ゆっくりやるしかないだろうな」
不満もなく、不安もなくエリアスは淡々と告げる。それでフレンも分かったという風に幾度か頷き、
「大変そうですが……エリアスさんは楽しそうですね」
「暇を持て余すよりはいいだろ」
「確かに……騎士達の指導について、私の出番はありませんね?」
「ああ、そこは俺がやるよ。ただ、フレンの方もある程度砦の人間とは交流してくれよ」
「はい、わかりました」
――そしてフレンは部屋を去る。残ったエリアスは軽くのびをして、
「仕事は山積みだが、一つ一つ片付けていくとするか」
部屋の窓から外を見る。中庭には訓練をしている騎士がいた。
「……とりあえず、今日のところは剣を振るか」
エリアスもまた部屋を出る。そして改めて今後のやることを思い返した後――騎士達がいる中庭へと向かった。