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砦の主

 エリアスはフレンと打ち合わせをした後、ノークの部屋を訪れた。少し話がしたいと言うと、彼は頷き、


「今後の方針を聞きたいというわけだな?」

「はい、俺はどう動けばいいのか確認をしたかったので」

「……砦の主としては、今後とも騎士達の教練を行い、引き続きこの砦で活動して欲しいが、君の思惑は違うのだろうな」

「それが指示であるのなら、従いますよ」


 エリアスの言葉にノークは小さく息をつく。


「……君は最初からわかっていると思うが、ここへ着任したのはとある人物の差し金だ」

「はい」

「聖騎士として就任した君を、後方支援役にすることで出世を阻む……無論、ここにいて仕事をしていれば多少なりとも功績は得られる。だが、それは最前線で戦うものと比べれば微々たるものだ」


 ノークは一度、エリアスのことをチラリと見やる。


「これ以上の出世をさせないために根回しをした結果、君はここにいる」

「はい……ここを訪れた時点で、おおよそわかっていましたね」

「……君はこれからどうする? 魔獣オルダーの討伐により、功績を得られた。それを用いれば、最前線の砦へ異動、あるいは他にも――」

「少なくとも、俺から言い出すことはありませんね」


 そう発言すると、ノークは眉をひそめた。


「ここに留まり続けると?」

「この北部に来てから、私自身やろうと思うことができました。それには聖騎士として発言力が必要ですが……がむしゃらにそれを追い求めれば、様々な人間から横やりを入れられるでしょう。北部は魔物と戦い続ける場所である以上、不和を引き起こすことは戦いに支障が出る。私としてはそれを望まない」

「ふむ、そうか……となれば、君は次の戦いまで思うように戦果を得られることはない。発言力を得たいというのなら、少しでも成果を手に入れる環境を目指すべきでは?」

「私はまだ、北部がどういう状況なのかを理解したわけではありません。下手に動けばそれだけにらまれる相手も増えるでしょう……焦って動いても損にしかならないでしょうし、私としては当面指示されるままに動こうかと」

「まずは敵を作らないことを優先、というわけか」


 ノークはここでエリアスと視線を重ねる。


「ここに来たのは、私が敵か否かを確認しに来た意味合いがありそうだな」

「少なくとも、追い出されることはないだろうと考えていますが」

「そうだな、ここに君を寄越した人間も、評価が上がり名前が人の口から出ている君のことをどうにかする、という動きは良くないと考えることだろう……君は、どういった人間が君の人事に介入したか、気にはならないのかね?」

「下手に突くと面倒事になりそうなので、知らないフリをしています」

「ははは、そうか……私としては、この砦の機能を向上させたいと考えている」


 と、ノークは机の上で手を組みながら告げる。


「赤き狼の襲撃を受け、北部の人間は色めき立った……恥ずかしい話、私は開拓が済み後方支援の役割しかないこの砦に、危険度の高い魔物がやってくることなどあり得ないと思っていた」

「魔物がいないのは開拓がちゃんと行われている証拠でもありますし、ノーク殿がそのような考えを抱いてもおかしくはないでしょう」

「うむ、だが今回あり得ないことが起きてしまった……君がやってきた初日に魔物が現れ、君がいたことで大事になることを避けることはできたが、もしいなければ……」


 そこでノークは一度言葉を止めた。


「……この場所は後方支援を行う役割を担う。今まではそれだけだったが、今後はきちんと戦える能力が必要だと痛感した」

「戦える能力、ですか」

「この場所は後方支援を行うが……魔物が襲来し、この砦が突破されれば、もう防波堤はない。村や町に魔物が襲い掛かるのだ」

「なるほど、この場所が最終防衛ラインだと」

「うむ、今回のことでそれを改めて自覚した……開拓が済んだものとみなして、ただ日々の仕事を進めるだけでは足らないのだと、私は考えている」


 ――赤き狼から始まった一連の騒動は、ノークの考え方も大きく変えるものとなったようだ。


「私は前線に立たないタイプの人間だ。よって、もし魔物が現れても自分の力ではどうにもならない……最初、魔物が現れて部下達が右往左往しているのを見た時、私は今まで何をしていたのだと思ってしまった。私達は騎士であり、魔物と戦う人間だ。にも関わらず、剣を向けることさえできなかった。その事実を重く受け止め、今後の砦の方針を決めていこうと思っている」

「その中で私は……」

「私は、立場的に君をここに寄越した人物の指示を受けている人間だ。しかし、砦の運営方針については口出しされていない……君がこの砦で働くことについては、文句も言わないだろう」


 そう言ってから、ノークはエリアスへ告げる。


「ここでの仕事ぶりに関する評価はできる。なおかつ、君の活動については極力黙認しよう。逆に言えばそのくらいしかできないが……」

「十分です、ありがとうございます」


 ――ノークも危機を前に変わろうとしている。エリアスはそれを深く理解し、感謝の言葉を述べたのだった。


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