次の目標
討伐終了後、指揮していた聖騎士が正式に討伐完了の報告を国へ行った。その詳細についてエリアスはフレンへ確認するよう指示し、討伐から十日後にその詳細を自室で聞くこととなった。
「まずエリアスさんの名前ですが、報告書にきちんと上がっていました」
「お、さすがに名前を出さないはなかったか。ただ俺を後方支援の砦に配置したにも関わらずこの結果だから、さぞ苦い顔をしていることだろう」
「かもしれませんね。さすがにそこについての情報は得られませんでした」
「さすがに表立って俺を批判するようなヤツはいないだろうな……で、どういう報告のされ方を?」
「端的に言えば、魔獣オルダー討伐において勇者ミシェナと手を組み、その動きを大きく鈍らせ仕留める好機を作った、と」
「俺の剣が決定打になった、とまではさすがに書かれなかったか」
「見た目的に、トドメを刺したのは周囲の騎士や勇者ですからね……ただ妨害を行う人間の最後の抵抗か、エリアスさんはミシェナさんと手を組んだ人間、という立場なので彼女と戦果を分け合った形でしょうか」
「なるほど、そこは想定内だから特に気にしていないよ」
ちなみに砦にはまだミシェナが滞在している。この結果を聞いて彼女としては不満に思うかもしれない――自分は攻撃に参加していないから評価されても困る、と。
「具体的に俺の貢献度はどのくらいだ?」
「全体の評価を十とするなら、二、もしくは三くらいでしょうか」
「思ったよりも多いな」
「私としては半分くらいあっても良いと思うんですが」
「ミシェナと分け合ったんだろ? ならそのくらいの評価に落ち着くだろ……表向き、国は俺に対しどういう評価だ?」
「東部から着任した聖騎士がすぐに結果を出したことで、国側としては大いに評価していると。得られた戦果以上に、宮廷内ではエリアスさんの名前が知られることになるかもしれません」
「そうか……俺が上奏できそうな下地はできたかな」
「とはいえ、今回の結果を踏まえて謁見をするとかはさすがに難しそうです」
「単独討伐を果たして一気にそこまで行くのが理想だったが、まあそれなりに評価を得られたのなら良かったし、満足しておこう」
ここでエリアスは一拍間を置いて、
「……話は変わるが、北部開拓について情勢はどうだ? 長年の敵を倒したんだ。国としてはさらにもう一歩踏み込みたいと考えるところじゃないか?」
「お察しの通りです。国側としては今回の討伐をきっかけに、残る宿敵……北部に存在する二体の難敵をも討伐する、と息巻く人間も出たようです」
「当然だな。討伐の内容を考慮に入れず結果だけを見れば、犠牲者ゼロどころか怪我人もほとんどいなかった……長年国を悩ませてきた凶悪な敵を余裕で倒すことができたんだ。この戦力であれば、残る敵もと考えるのは自然なことだ」
「それに乗じて私達は戦果を手に入れる……が、今後の方針でしょうか」
「そうだな。ただ、残る敵の居場所なんかわからないし、次に討伐をやるにしても当面先になるだろう。それまではゆっくりと情報収集に勤しんだ方がよさそうだ」
「情報収集……具体的には?」
問い掛けるとエリアスは彼女を見返し、
「残る難敵に関する情報と、最前線の砦にいる指揮官や騎士や勇者達の情報だな。それに加えて北部全体の情勢と、各砦にいる聖騎士などの政治的な関係性」
「ゆっくりできる時間はなさそうですが……」
「そんなに急がなくてもいいんだぞ? 難敵以外は焦らなくていい」
「わかりました。情勢的に短期間の間にさらなる討伐が行われる可能性もあります。それを踏まえると、魔物の情報を優先した方がよさそうですね」
エリアスは「そうだな」と返事をしつつ、
「とはいえ、だ。聖騎士について調べようとして色々と干渉するのも面倒事を引き寄せる。可能であれば俺達が調べているという事実を知られないようにしたいところだ」
「訊かれた場合、北部の情勢を調べていますと説明するのはダメなのでしょうか?」
「深読みするような人間だって出てくるだろ。あいつは他の聖騎士について調べている……なんて知られたら、警戒される可能性は高い」
フレンは難しい顔をする。さすがに情報収集、と言ってもかなり時間が掛かりそうだと考えた様子。
「であれば、世間話の体で聞いていくしかなさそうですな」
「そういうことだ。さっきも言ったが急がなくてもいい。討伐が行われるのであれば、そちらを優先しよう」
「わかりました……私は少しずつ情報を集めます。エリアスさんはどうしますか?」
「まずは地盤固め、かな」
エリアスの言葉にフレンは首を傾げる。
「地盤固め、ですか?」
「今回の討伐で、俺は戦果を得たわけだ。ノーク殿としては俺のことをどう思っているのか……確認を取りつつ、敵意がないことを示したい」
「私達が好き放題動けば、立場が悪くなりそうですしね……」
「そうだ。ひとまず砦から追い出されることはないだろうが、なんだかんだと理由をつけて面倒事を押しつけられ、忙殺されるなんて可能性もある……さすがに事務仕事を大量に押しつけられるのは勘弁願いたいし、ある程度は自由に動ける立場を確保しておきたい」
ただ、とエリアスは胸中で付け加える。砦の兵士や騎士達は信頼を置かれ始めているのは間違いない。ノークも悪いようにはしないだろうと考える。
「今日中にノーク殿と話はしておく。フレンの方は慌てず騒がず、少しずつ情報を集めてくれ――」