討伐の日
そして、討伐の日を迎えたエリアス達は、早朝に集合場所である砦へと向かう。そこで協力者達と合流し、改めて作戦を確認する。
「まずは魔獣オルダーの居場所を確認。最前線にいる騎士や勇者達が交戦するとは思うが、こちらが動向を探りつつ罠を張るための準備を進める」
「魔獣が出てこなかったらどうするんだろう?」
と、ミシェナが疑問を呟くと、その説明にはフレンが応じた。
「国側は、過去の討伐実績や調査からある程度魔獣を誘い込む手段を確立しているようです。人間の領域まで足を踏み入れた時点で、魔法により魔物の領域と人間の領域を分断する」
「……確か二度目の討伐では罠を張って閉じ込めたけど逃げられたんだよね? 今回は上手くいくのかな?」
「何やら策があるようなので、おそらく成功すると思います。詳細まではわかりませんでしたが」
(たぶん、物理的に止めるのでなくて魔力を発して魔獣が戻るのを避けようとする、とかかな)
エリアスはフレンの説明を受けながら胸中で呟く。
(この手法は、魔獣オルダーが何者かに操られているとか、指示を受けている場合は通用しないけど、今まで交戦した情報などから通用すると国側は判断した)
「とにかく、魔獣オルダーを人間の領域で囲い込み、討伐する……というのが基本的な枠組みです。現在進行形で国は魔獣オルダーの居所を確認し、準備を進めているはず」
「その中で私達は後方にいて待機、と」
「囲い込む策が成功したのであれば、魔獣オルダーの退路を断つための壁の役割を担うことになるでしょう……ただ、もちろん囲い込んで安心できるような相手ではありません」
「――対策を立てているだろうけど、不測の事態というのはあり得る」
フレンに続いてエリアスが口を開く。
「魔獣オルダーの能力はこの場にいる人なら……いや、討伐に参加する全ての人員がわかっている。脅威的な移動能力……高速の突撃に当たれば下手すると即死。そもそも動きを捉えることが難しい……人の壁に加え結界魔法などで魔獣オルダーの動きを制限すると思うが、五十年討伐できなかった難敵だ。むしろ、作戦が始まって包囲を狭めている間が、一番危険かもしれない」
「……国は、囲い込む作戦が成功する前提で色々計画を立てている節があるわね」
と、ミシェナは幾度か頷きながらエリアスの言葉に応じた。
「オルダーは狡猾で、人間側が作戦成功――そんな風に思い気が緩んでいる間に、逃げ去るなんてことだって考えられる」
「そうだな、討伐できなかった経緯を考えると、魔獣オルダーの気配察知能力は高く、こちらの策がわからずとも何かしているというのは感じ取っているかもしれない。下手をすれば人間の感情も機微に察する……どう動くかわからないが、だからこそ後方に位置して討伐の機会がないかもしれない俺達にとっても、攻撃できる可能性がある」
そこまで言うとエリアスは、小さく肩をすくめる。
「とはいえ、国が立てた作戦がきちんと機能してくれる方が望ましい……その方が怪我人だって少ないだろうからな。今回、こうして集まってもらったわけだが、場合によっては罠を仕込むこともなく、出番なしで終わってしまうケースも考えられる」
「それはそれで構わないわ、私は」
ミシェナが言う。彼女としても、下手に犠牲者が出るよりは魔獣を討伐できた方が良い、という考えらしい。
「私達は人が死なないことを祈りつつ、自分達にできることを進めよう」
「ああ、そうだな……では配置につこう」
エリアス達は動き出す。集合場所の砦にいる騎士達もまた、山へと進路を向ける。
協力者達は事前に決めた場所へ向け歩を進め、エリアスとミシェナ、そしてフレンの三人は固まって行動する。
そこでエリアスは気配を探る。今までにはない――開拓を進めている領域に、人間の気配が多数存在していた。どれほどの人員と資材がこの戦いに投じられているのか――
(国側としては因縁の敵。だからこそ、可能な限り資材を使って作戦の成功率を上げている。本来ならば大丈夫だと考えるところだが――)
「エリアスさん」
移動の最中、後方にいるフレンが声を掛けてきた。
「罠を設置する方々とは私が連絡を取り合います。エリアスさんとミシェナさんは、オルダー討伐に集中してください」
「わかった」
「うん、頼むね」
エリアス達が応じた時、最前線で魔力を感じ取った。どうやら討伐作戦が始まる様子。
「ねえエリアス」
魔力を感じ取る間にミシェナが声を上げる。
「作戦がちゃんと成功すればそれが一番……というのはわかるけど、エリアスの雰囲気からするとなんだか失敗してしまうと考えているみたいだね」
「……絶対に失敗すると考えているわけじゃない。成功率としては……良く評価して七割といったところか」
「それだけ魔獣オルダーが危険ってこと?」
「俺なりに色々と考えた結果だ。もちろん、作戦が成功した上で俺達が討伐する好機に巡り会う可能性もある。それを踏まえ、罠を仕掛けたいところだが」
「魔獣が動き出して時点で罠を設置して間に合うかな?」
「そこは魔獣の動き方次第……だが、勝算が低いわけではない。ま、相手の能力が能力だけあって、確実な策を用意するには時間も人手も資材も足らなかった。俺達は可能な限り最善を尽くし準備をしたから、後は国の作戦が成功するか、準備が実るか……どちらにしろ、勝利をもぎ取りたいところだな――」