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魔法と道具

「この魔法についてだが、一つ聞いてもいいか?」

「ああ」


 頷くエリアスに対し、男性勇者は資料に目を落としながら問う。


「術式がずいぶんと精巧だ。これは、どういった魔法書にあったものなんだ?」


 ――そう問われ、エリアスは一時沈黙した。その反面、男性勇者は眉をひそめる。


「……どうした?」

「ああいや、すまない。答えとしては、聖騎士に就任する前に活動していた東部で習得した魔法だ。魔物を誘い込んで罠に掛ける……開拓をすることはないため、迎え撃つケースが多かったことから習得した。ただ、どの魔法書なのかは思い出せないな。すまない」

「わかった。あなたはこういった魔法のレパートリーがあるのか?」

「ああ、多少だが」


 それで男性勇者は納得した――彼はもしかすると、魔物との戦いとして有効な手立てだと、参考にしようとしたのかもしれない。


 そこでエリアスは内心で思う。


(……俺が今回の討伐に際し急造で開発した魔法だと、言わない方がいいんだろうな、これ)


 東部では凶悪な魔物が多数いたことから、魔法書などに記載されている魔法では対抗できないこともあった。そのため、騎士達は対策に迫られた――騎士なのに魔法の開発能力を持っているのは、このためである。


(フレンとかも魔法の開発能力はあるし、むしろ現場の判断で動かないといけない点を考えると必須に近い能力だったけど……そういえば北部へ来て魔法を開発している騎士はおろか、魔法使いも見たことないな……)


 問われて本当のことを答えようか一瞬迷ったが、もし真実を告げれば「何だそれ」となっていた可能性がある。


(こういうところもズレがあるんだな。人員的にも物資的にも苦しかったから、東部の俺達は自前で色々やらないといけなかった。反面、北部の人達は対処できない魔物が現れても、人員や豊富な物資でリカバリーができる……非常に良い反面、自分で考えるケースが少なくなるから、必要以上のことをやらなくなる、みたいな感じか?)


 そう考えつつも、本来騎士が魔法を考えるなんていうのは普通しないし、魔法使いの役割だろうというのは理解していたので、口にはしなかった。


「――この首飾りや腕輪は、どこから買ったの?」


 と、今度はミシェナが道具に興味を示す。


「装飾も少なくてシンプルだけど」

「……フレンに頼んで探してきてもらった。デザインについては文句言わないでくれよ」

「別に文句はないわ。ま、実用性重視ってところかな」


(……首飾りや腕輪も自作だなんて言わない方がよさそうだな)


 エリアスはミシェナ達の反応を見つつ、そんな風に思う。


「……罠の魔法に興味があるのなら、討伐後に説明とか加えてもいいよ」


 そして告げた後、部屋の中にいる面々を一瞥し、


「道具の説明については以上だ。討伐が実際に始まるまでに罠の魔法については使えるようにしておくこと。それ以外は自由だ。それと俺はここを離れることはできないし、今回呼ばれた人は別所で待機することになる。首飾りによる連絡が届くかどうかわからないから、連絡経路についてはここで確認しておいた方がいいだろうから、もう少しだけ打ち合わせを続けよう――」






 以降、エリアスは準備を進めつつ討伐の日を待った。国が正式に討伐指示を行い、そこから部隊が編成され――と、北部一帯は大きく動いた。

 その中でミシェナもまた討伐隊に組み込まれたが、同行する人員としてエリアスを指定したことで、少しばかり問題が発生した。さすがに聖騎士を同行者として指名するというのは異例であったためか、他の砦にいる聖騎士から反発があったのだ。


「――で、騒動についてはどうなったんだ?」


 エリアスは自室で当該の問題についてフレンから報告を聞く。


「彼女の性格からして、引き下がるとは思えないが」

「騒動の原因は、指揮する聖騎士が討伐隊に編成されていないエリアスさんが戦場に出ることを嫌がったためです。そしてミシェナさんは一歩も引かず」

「彼女はどういう風に説明したんだ?」

「直接会話内容を確認したわけではありませんが、赤き狼との戦いで共闘したことから、組みたいと」

「……聖騎士と指定するのは異例だが、理由としてはまあ真っ当な部類か。それで、結末は?」

「ミシェナさんの背後にはレーヴェント家がいることを踏まえ、さらに彼女の知名度が上がっているのも事実。ここで波風を立てれば面倒事になると指揮官の聖騎士は考え、ひとまず折れました。ただ、討伐隊に組み込まれるにしても、かなり後方に位置しています」

「最前線ではないということか」

「ミシェナさんとしては不満があるみたいですが、これ以上突っかかっても不和を引き起こすだけと考え、引き下がりました」

「彼女も引き際はちゃんと弁えているか……うん、俺としては理想的な展開だな」


 そう述べるとフレンは眉をひそめる。


「理想的、ですか?」

「最前線に配置された場合は、罠を張るにしても他の面々に配慮する必要があった。そういう意味で上手く今回協力してもらう人と連絡を取り合い、綿密な連携が必要だったんだが、彼女の行動によって俺達は前線に立たなくても良くなっただろ?」

「後方にいるならある程度自由に動けるというわけですか。しかし、魔獣と遭遇できる可能性は低くなりそうですが」

「いや、それはどうかな。魔獣オルダーは間違いなく討伐の動きに気付いている。魔獣の背後に何かがいるかどうか不明だが、相手は間違いなく国の想定とは異なる動きをするはずだ。なら、俺達にも討伐する機会はあるだろう――」


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