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北部の砦

 聖騎士の称号を授与された数日後、エリアスとフレンの二人は王都を出て北へと向かった。日程的にはおよそ七日ほど。馬車による移動は退屈を極め、なおかつ腰なんかが痛くなりつつもどうにか現地へと到着した。


「おー、でかいな」

「そうですね」


 エリアスが城主を務めていた砦と比べても重厚な城壁と建物が目の前にあった。城門から人の出入りも多く、そこへ近寄るとエリアス達に注目する兵士や騎士の姿が。


「目立っているな」

「エリアスさんが首から提げているペンダントが原因ですね」

「聖騎士がやってきて、どうなるんだってことか……この砦の主も聖騎士だよな?」

「はい、名前はノーク=テュルーゼ。聖騎士でも開拓を率先して進めた地方出身の貴族と、王都で一定の地位にいる貴族がいますが、彼は後者ですね」

「剣の実力は……」

「情報を集めた限り、武功はありません。机の上で地図を広げて軍略を立てるタイプかと」

「俺がなぜここに来たのか、というのを好意的に見れば、テュルーゼ殿が最前線に立てる優秀な騎士が欲しかった、という解釈もできるが」

「近年、前線から遠くなったこの砦で目立った戦果はありません」

「なるほど、じゃあ俺を飼い殺しするため王都側の貴族がテュルーゼ殿に俺を押しつけたか」

「それが答えだと思います……どうしますか?」

「まあまあ、とりあえず話をしてみよう」


 多数の視線が集まる中、涼しい顔でエリアスは砦の中へと入る。エントランスで側近と思しき男性に出迎えられ、一行はノークの部屋を訪れる。

 エリアスが中に入るとそこは執務室のような部屋――そして椅子に座る小太りの男が一人。


「ようこそ、エリアス=ディーリア殿」

「初めまして、テュルーゼ殿。私のことはエリアスで構いません。あ、彼女はフレン=メタシア。自分の従者です」

「そうか。私のこともノークでいい。この駐屯地は君を歓迎しよう」


 まずは握手を交わす。そこでエリアスはノークの視線に気付いた。


(敵意はない……が、面倒だなと思っている節があるな。予想通り、押しつけられたか)


「エリアス殿、まずは聖騎士称号獲得、おめでとう」

「ありがとうございます……しかし、自分には荷が重すぎるものです。いくら功績を評価されたとはいえ、最前線で戦っていたわけではありませんからね」

「ははは、東部でも魔物は出現していただろう? 何も北部だから、東部だからといって区別する必要はない。ただ」


 と、ノークは少しばかり眼光を鋭くした。


「ここは前線から離れているが、現れる魔物のレベルは東部を超えていると思う。戦闘に入る場合は、警戒なきようお願いしよう」

「わかりました……それで、私はどういう扱いで?」

「魔物の討伐計画、作戦立案などは私がやる。君は遊撃騎士という立ち位置で、討伐の際に要所要所をフォローしてもらえれば」

「なるほど、わかりました」


 何かあれば丸投げする――といった感じではあるが、エリアスはあっさりと受け入れた。


「部屋は用意しているため、まずはゆっくりと休んでくれ」

「訓練のスケジュールなどは……」

「毎日訓練は実施しているが、参加するかはエリアス殿にお任せしよう」


 話はそれで終わりだった。よって騎士の案内によって自室となる部屋へと通される。小さな個室であり、必要最低限の家具しか置かれていなかった。


「……ふむ、十分だな」


 しかしそんな扱いでもエリアスは気にしなかった。ひとまず荷物を部屋に置いた時、ノックの音が舞い込んだ。

 返事をするとフレンが現れる。そこで彼女は、


「私と同程度の広さですね」

「扱いが悪い! とか不満を言わせて、それを王都の貴族に告げ口する腹づもりかもしれないな。文句一つでも言えば、俺の評価が落ちるというわけだ」

「そうですね……ちなみにエリアスさん、この部屋を見て、どうお考えですか?」

「ベッドが壊れているわけでもなく、部屋として機能している。十分過ぎるだろ」

「はあ、相手にとってはなんとも張り合いのない御仁でしょうね」


 呆れたように声を上げるフレンは、気を取り直したかのように咳払いをして、


「さて、ノーク様とお会いしましたが……」

「俺のことを押しつけられたな。で、小規模な作戦とかに参加させてお茶を濁しつつ、飼い殺しにすると」

「危険度が高い魔物が現れれば、エリアスさんの出番かもしれませんが……」

「そういう魔物、少ないんじゃないか?」

「なぜそう思われますか?」

「砦内の騎士とか兵士が牧歌的な雰囲気を出しているからな。ここは元々最前線の砦だったが、開拓が進み前線を維持するための後方支援をやっている砦、みたいな位置づけなんだろう」


 その指摘にフレンは「なるほど」と応じつつ、


「であれば、私達はこの狭い部屋に押し込められ、出撃もなく砦の中で延々と過ごすことになるのですが……」

「聖騎士になったことを不服に思う貴族の狙いはそれだろ」

「……何か策はありますか?」

「うーん、とりあえず数日くらいは様子を見よう。フレンは砦内の状況を確認しつつ、北部全体の情報を集めてくれ」

「まずは情勢の確認というわけですね。承りました――」


 そう返事をした矢先のことだった。

 突如、カンカンカンという鐘の音が聞こえてきた。エリアスはこの砦に初めて来たが、鐘の音色には聞き覚えがあった。その役目は――魔物の出現を知らせるもの。


「魔物、だよな?」

「間違いないかと……どうしますか?」

「とりあえず外に出て様子を見る。お手並み拝見といこう」


 エリアスの言葉にフレンは「わかりました」と同意しつつ、二人は外へ。そこで騎士や兵士が忙しなく動く光景が。

 エリアスは外に出た直後、どういった魔物が現れたのか気配を探る。魔物は常に魔力を放っており、その多寡によって危険度を判断し、数値化する。危険度はゼロから五まで段階があり、一定の基準によって強さを判定する。


 程なくしてエリアスは魔物を魔力で捉えた。砦の真正面に一体。他に仲間はおらず、はぐれの魔物であるらしい。

 そして、魔力量は――ここでエリアスは首を傾げつつ、歩き出す。


 目指したのは砦の入口。そこでは既にノークの指揮により騎士や兵士が準備をしていた。

 エリアス達が近づくと、彼は察し首を向ける。


「エリアス殿も来たか」

「魔物の出現……よくあることですか?」

「頻度としては多くない。それに、魔物の危険度としてもそれほど……今回の魔物も問題なく対処できるはず――」


 その述べた直後だった。魔物の雄叫びが聞こえ、魔物を肉眼で捉えることができた。それは言うなれば狼――体毛は赤く、動物の狼と比べて一回り以上は大きい。

 牙は鋭く、赤い目は騎士や兵士を見定めている――魔物が人間を襲うのは、身の内に存在する魔力を食らうためだ。よって、魔物にとって人間とは捕食者。言わば、食物連鎖において人の上位に位置する存在。


 ただ、人も魔物を料理し食らうケースもゼロではない――が、一目見てエリアスは思う。


「美味くはなさそうだな」

「誰も食べないと思います……」


 フレンが答える。そんなやりとりをする間に、ノークは――魔物を見て、動きを止めた。


「な、何だあの魔物は……!?」


 驚愕する声。加え、周囲にいた騎士や兵士達も、魔物を見て動揺を見せる。

 明らかに、想定とは違う凶暴な魔物がやってきたという認識――ここでエリアスは、


「危険度二、といったところですね」

「危険度……二!? 馬鹿な、そんな魔物は最前線が山側に移ってから見たことはない――」

「しかし、今目の前に現れている。放置すれば砦の騎士や兵士、果ては周辺の村にも被害が及ぶ」


 その言葉に、騎士や兵士達は武器を構える。その一方でノークは、


「ま、待て! まだ戦うな! まずは魔法で魔物の能力を確認し――」


 だが、余裕はなかった。魔物は咆哮を上げ、今まさに突撃を開始しようとしていた。


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