協力者
魔獣オルダーに対する準備が着々と進んでいく中、エリアスの方も少しずつ準備を進めていき、やがてミシェナがマリーに依頼され討伐に協力する勇者を引き連れ砦に戻ってきた。
「私達の拠点は別の所に。討伐を行う際に、合流するってことで」
「わかった」
「それで、一度作戦会議をしておきたいんだけど」
そう言いながらミシェナは同行する勇者へ目を向ける。相手は黒髪の男性で、彼以外にも魔法使い姿の男女が一人ずつ。
「三人の強さは私も何度か仕事をしているし保証する……で、マリーに恩義があって手を貸してくれるし、あなたの指示にも従うって」
「わかった……ひとまず作戦概要について説明しよう」
――そしてエリアス達は砦の会議室へ。全員が丸いテーブルを囲うように立って話をする形となった。
「魔獣オルダーについては、いつ何時どういう形で現れるのかまったくわからない。よって罠を張るにしても、魔獣の動きを見てからやることになる」
「誘い出す手段とかあるの?」
ミシェナが問う。そこでエリアスは、
「以前、俺が披露したような魔力を発して魔獣を誘い出す手法はおそらく使えない。相手は狡猾かつ知性が相当高いだろうから、警戒されるに違いない」
「なら、罠を設置する場所はどう決めるの?」
「そこについては……フレン」
「はい」
エリアスの言葉に応じ、フレンが説明を開始する。
「魔獣オルダーの動きについては、情報を集めたあることが。あの魔獣が高速移動を行うのは、接敵したの時のみ……平常時に能力を行使することはないようです。よって、討伐に入った際も移動経路を予測することは十分可能かと思います」
彼女はそこまで言うと一度言葉を切る。
「もちろん予測通りに動くとは限りません。賭けには違いありませんが、魔獣オルダーは移動能力に特化した存在。動きを完璧に捕捉し完璧な罠を張るというのは困難であるため、出たとこ勝負な面はあります」
「移動経路の予想が盛大に失敗しても、文句は言わないでくれよ」
エリアスが言うと、ミシェナは「わかった」と応じ、
「その場合、私達は運が無かったというわけね」
「そういうことになるな」
エリアスはここで魔獣オルダーと交戦したことを思い出す。あれによって警戒され近寄ってこない可能性もある。
そう考える一方、エリアスは別のことを考える。
(魔獣の攻撃をいなしたが、相手の本気ではなかったはず……であれば、例えば孤立していたら厄介な人間だとして俺を先んじて始末するために動く、という可能性も否定できない)
エリアスは自分が囮となれば魔獣オルダーを罠に誘い込める――そんな可能性も胸中で考慮に入れる。
「……ともかく、戦う以上は全力を尽くす」
エリアスの言葉にミシェナ達は頷く。
「それじゃあ罠に関する説明をする……既に必要な物を調達した。ここで集まったし、事前に渡しておくよ」
そう言ってエリアスはテーブルの上に色々な物を置いた。
「使うのは三つ。魔力を飛ばして会話ができる首飾り。魔物から気配を隠すための腕輪。そして、仕込む罠の手順書。一つずつ説明しよう」
まずエリアスは、首飾りを手に取った。
「魔法で遠隔の会話ができる魔法があると思うが、魔法であるため当然ながら戦闘中は使用できない。この首飾りは魔力を付与することで同様の効果を得ることができる」
「常に連絡を取り合いながら、罠を張る位置を決めるわけね」
説明にミシェナが呟く。エリアスはそれに首肯しつつ、
「移動能力に特化した敵である以上、情報交換は必須だからな……次に魔物から気配を隠すための腕輪。俺達人間は、普通にしているだけでも少しずつ魔力が体から漏れている。放っておけば魔物に気付かれてしまうが、騎士や戦士はそれを留めて気配を探られないようにする」
エリアスの説明にミシェナを含めこの場にいる者達は頷く。
「その一方で、戦闘態勢に入る場合は魔力を発し体に強化を施す……この戦闘態勢というのが厄介だ。意識しないと気配を隠すのは難しいが、常に戦う可能性がある戦場では、ちゃんと気配を消すことができないかもしれない」
「それも道具で補うってことか」
「ああ。といっても気配をゼロにはできない。精々気配を薄くする程度だ。でも、討伐隊が大々的に動いている中であれば、魔獣オルダーに目を付けられる危険性は減るはずだ」
「それによって、罠を仕込みやすくすると」
「そうだ」
返事をするとミシェナは納得の表情。作戦に必要な道具であることは、この場にいる人間は理解できた様子だった。
「そして、三つ目。罠の手順書……物理的に何かを設置するというわけじゃない。魔法によって罠を仕込む。そのやり方を資料に記載した。討伐そのものは俺やミシェナが請け負う。他の面々は罠を仕込むために動いて欲しいから、討伐が開始されるまでにこの資料を確認し、魔法を習得して欲しい」
エリアスは資料を勇者達へ渡す。彼らはそれを一読し――やがて男性勇者が声を上げた。