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最前線の砦

 エリアスが輸送指示を受けた物資は、懐に入れることができる程度の大きさを持つ木箱だった。中身は当然わからないが漏れ出る魔力からやはり大規模魔法を用いるための触媒だろうとエリアスは推測しつつ、目的地である最前線の砦へ向けフレンと共に移動を開始した。

 ちなみに刻限は二日後。それなりに距離もあるため余裕のある時間を設定したのかもしれないが、エリアスとフレンの足であれば、日帰りで用を済ませることは可能だった。


 二人は無人の野を駆けるように森の中を進んでいく。その道中で魔物を幾度か捕捉するが、まとう魔力を見てか全ての個体が逃げていった。


「魔物の能力も危険度一程度に留まっているな。ちゃんと開拓が進んでいる証拠だ」

「とはいえ勇者や騎士が周辺にいるわけでもないですね」

「さすがに見張りを置くにもコストが掛かるし、開拓によって厄介な魔物がいなくなれば問題ない、ということなんだろう」


 会話をしている間に森を抜け、エリアス達は目的の砦へと到達。重厚な城壁に囲まれた砦は、最前線であるが故に威圧感を放ち鎮座している。山へと続く場所に建造されたそれは、相当な費用を注ぎ建てられたものであることは容易に想像でき、エリアスは改めてルーンデル王国が持つ開拓の執念を感じ取った。

 砦の中に入り、運んできた物資を渡す。受け取った騎士は「感謝する」と短い礼を告げ、建物の中へ入って行った。


「……さて、仕事は終わりだな」

「砦の中を少し見回ってみますか?」

「そうだな。ただ、雰囲気的に不用意に話し掛けない方がよさそうだ」


 忙しなく動き回る騎士や兵士は緊張感を持っており、作業に没頭している。なおかつ滞在する勇者達も彼らの雰囲気に当てられたか何かしら仕事をしており、とても人員を探すといって話し掛けられる様子ではない。

「思った以上に力が入っているな」

「それだけ魔獣オルダーは脅威、というわけですね」

「仕方がない。ここはひとまず諦めるとしよう。ミシェナが連れてくる人物とも話をしてみて――」


 そこまで言った時だった。カンカンカンと鐘の音が砦内に響く。

 魔物の襲撃だとエリアスが直感した矢先、騎士や兵士達の動きは迅速だった。開拓最前線ともなれば、動きがまったく違う――すぐさま状況報告が行われ、騎士が部下達へ指示を出す。


「どうしますか?」


 フレンが問い掛ける。


「さっさと砦を出た方がよさそうですが」

「……いや、判断が少し遅かったみたいだ」


 見れば、砦の入口にある門が閉まり始めていた。つまりエリアス達は閉じ込められたわけだが――


「……お二方」


 ふいに呼ばれた。エリアスが視線を転じると、一人の男性騎士が立っていた。


「輸送任務を受けてここにやってきた方々ですね?」

「はい」


 エリアスが返事をすると騎士はすぐさま砦を手で示した。


「索敵魔法の範囲内に魔物が出現したため、門を封鎖しました。ひとまず中で待機をお願いします」

「……わかりました」


 エリアスは同意し、フレンと共に砦の中へ。そこで兵士や騎士達が忙しなく動いている様子があった。


「活気がある、とは違いますがこれが開拓最前線というわけですね」


 フレンが感想を述べる。エリアスは首肯によって彼女に賛同しつつ、


「雰囲気としては、東部でもあった討伐開始前みたいだな」

「私も同じ事を思いました……エリアスさん、どうしますか?」

「俺達は騎士であっても部外者だから、魔物を討伐するまで待つべきなんだが……せっかくだし、戦いぶりを拝見したいかな」

「とはいえ、現状では移動も難しそうですよ」


 やがて、どこからか鬨の声が聞こえた。戦闘が始まったらしく、魔力も感じ取ることができた。


「……気になるけど、仕方がないか」


 穏便に待つしかない――そんな結論が出た時、さらに状況が変化した。

 再び鐘の音が鳴り響いた。明らかに魔物がさらに出現したことを知らせるものではあったが、その音色が普段とは異なっている。


 その瞬間、砦内にいた兵士や騎士がザワザワとし始める。どうやら状況が悪くなるような知らせだったらしい。


「何が起こったか聞いてみるか」


 エリアスは呟き、近くにいた兵士へ話し掛けた。


「俺達は後方の砦から来たんだが、先ほどの鐘の音は何が起こった?」

「あれは、脅威となる存在が出現した場合です。危険度の高い魔物が出た場合や、あるいは名前が付けられている魔物が現れたなど」

「……名前」


 もしや、魔獣オルダーが――そこで、外からさらなる鬨の声が。加えて魔法による爆発音なども聞こえ始める。

 エリアスとしては確認できないのがもどかしいが、さすがにここで動いても騎士に止められる。後で事情を聞くとしよう――と内心で考えている間に、外から騎士がやってきた。


 その人物は上官に当たる騎士へ何かを報告し――警戒を解くよう指示を出した。対処できたらしい。

 やがて門が開く。それを確認したエリアスは、


「行くか」

「はい」


 フレンと共に歩き出す。そして、砦へと帰還する騎士の一人へ声を掛け、


「もしよければ、どんな魔物が出たのか詳細を聞かせてもらえないか?」


 ――相手は聖騎士の称号を見て無碍にはできないと思ったか、口を開いた。


「……魔物が砦近辺までやってきただけではなく、やや遠くに魔獣オルダーの姿を確認しました」


 どうやら本命の敵が――それでエリアスは「ありがとう」と告げ、砦の外へ歩き出した。


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