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魔獣討伐

 王都――ひいてはルーンデル王国が魔獣オルダーの討伐を正式に表明したのは、エリアス達が話し合いをして三日後のことだった。

 理由としては、野放しにしておけば赤き狼のように他の魔物が開拓する領域に現れる可能性があるため。それは間違いなく人間の活動に弊害をもたらし、場合によっては町や村にも被害が出る可能性がある――秩序を維持すべく、魔獣討伐を行う。そういう意志を明確に示した。


 結果、北部にいる騎士や勇者達は動き始めた。名うての勇者は早々にオルダー討伐に参加することを表明し、国も討伐隊のメンバーを正式に集め始めた。

 魔獣オルダーを発見してから五十年――それだけ長きにわたり生き残り続けた存在は、北部の人間にとって相当な脅威だと見なされ、今回の討伐が大規模なものになると誰もが予想した。


 その影響はエリアス達がいる砦にも明確に出てきており、討伐へ向け物資などが到着し、最前線へ送るよう指示され、その任務にエリアスも参加した――


「……討伐が始まるわけですが、その一方で平和ですね」


 荷物を背負い歩みを進めるエリアスに、同行するフレンは言及する。


「任務に就いていますが、今まで魔物に遭遇することもなかった」

「北部に来てわかったが、魔物が跋扈するのは最前線だけ、ということなんだろう」


 そう言いつつエリアスは周囲を見る。他にも荷物を背に負う同じ砦の兵士や騎士が、五人ほどいる。


「これは北部戦線のノウハウがしっかりとしているためだろう」

「ノウハウ?」

「ルーンデル王国は、山脈地帯に資源があるため多数の人を動員して開拓を進めている。けど、広い山岳地帯を人が制圧し、自分達の領域とするのはかなり大変だ。開拓しても塗り絵をするように人類の領域が広がるわけじゃない。守りが手薄になれば当然、魔物が押し寄せ陣地を塗り替えされる恐れがあるからな」

「魔物を寄らせないようにするため、後方の砦などを上手く配置し、秩序を保っていると」

「そういうことだ。平和な場所が多いということは開拓に成功している証左でもある」


 会話の間にエリアス達は目的地へ到達。最前線に程近い砦に辿り着き、荷物を渡して作戦は終了。

 その砦内では、人が多く動き回っていた。魔獣オルダーを討伐するために準備を進めている拠点らしく、騎士や兵士の顔は引き締まっている。


(さすがに前線だと顔つきも違うか)


 エリアスはそう思いつつ、元来た道を引き返す。


「今後もこのような仕事が多そうですね」

「ま、それだけ討伐に気合いを入れているというわけだ」

「そういえば、ミシェナさんから連絡とかありましたか?」

「いや、まだ何も。俺に会いたい人がいるってことは、つまりその人を連れてくる可能性があるってことだろ? 時間は掛かるんじゃないか?」

「エリアスさんとしては、どのようにお考えですか?」


 質問にエリアスは彼女を見返す。


「お考え、って何だ?」

「ミシェナさんがどのような人を連れてくるのかわかりませんが、エリアスさんの話を聞く限りそれなりに高い身分の方なのは予想できます。そうした方と交流することで、他の聖騎士などに目を付けられる可能性もゼロではありませんが」

「まあ、その辺りは仕方がないさ……今後、東部の情勢を国へ伝えるには、色々な人の力も借りる必要があるだろうし」

「ミシェナさんが連れてきた方に事情を説明し協力を仰ぐと?」

「そこまで考えていないが、可能性としてはゼロじゃない」


 エリアスは肩をすくめる。


「どういうやり方を行うにしても選択肢は多い方がいいのは事実だ」

「確かにそうですね……エリアスさん」


 と、ここでフレンは声のトーンを落とす。


「魔獣討伐についてですが、相当大がかりな準備を進めています。東部で魔物と戦う場合でも、これだけの人が動員されたケースはありませんでしたが……ここまで多くなると、逆に統制が難しくなるような気もしますが」

「これは魔獣オルダーの特性が関係しているだろうな」


 そう発言したエリアスに対し、フレンは眉をひそめた。


「特性、ですか?」

「移動能力が極めて高いため、魔獣オルダーが北部のどの場所にいるのかわからない……よって、北部全体に物資を送り、準備を整える。当然、討伐に加わる騎士や勇者の人数も多くなるわけだが……それだけのリソースを注いでも、今回の戦いで絶対に勝つという気概が国にはあるんだろ」

「そこまで、どうしてやるのでしょう?」

「砦の兵士や騎士から聞いたところによると、魔獣オルダー自体が他の魔物と比べ特別な存在であるのが大きな理由みたいだ。長らく北部の開拓を苦しめてきた……そして今、国――というより貴族達が、お抱えの聖騎士や勇者を利用し、その功績を得て成り上がろうとしている」

「北部で象徴的な存在である事実から、それを倒した勇士はかなり評価される、というわけですね」

「そうだ……俺達にとっても東部の情勢を伝えるのに利用できる好機だが――」


 と、エリアスは口が止まる。


「……とはいえ、だ。フレン、さすがに犠牲者が出そうな状況とかになったら、方針を変えるぞ」

「つまり、私達が討伐できなくとも構わない、と」

「今回の討伐で色々と人と接することになる。それを利用し、東部の状況を伝えることも不可能じゃないからな……あくまで討伐を無事終えることを優先する。ま、北部は開拓最前線だし、今後も国へ上奏できるチャンスは出てくるだろうからな――」


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