勇者の来訪
「エリアスさん、魔獣オルダーを独力で倒すということ自体は可能ですか?」
「不可能ではないと思うが……まずはオルダーの能力を調べてから、だな。まあ、独力にこだわらなくてもいいさ。ミシェナと組んで倒したとかでも、一定の評価はされると思うし、多少なりとも俺の発言力が上がると思う」
「……名声などに興味がないにしても、ここは動く必要があると考えましたか」
「まあな……不正云々を見逃すのもあれだし、どちらかというともう一つの理由が大きい」
「もう一つの……理由?」
聞き返したフレンにエリアスは「ああ」と返事をしつつ、
「東部の情勢が王都に届いていないということはつまり、俺の元部下がちゃんとした評価や報酬をもらっていないということだ」
「……そうですね」
「俺としてはそっちの方が気になる。東部では今も、命を賭して危険度の高い魔物と戦っているはずだ。俺としてはそういったことについてちゃんと評価してもらいたい」
それには同意なのか、フレンは小さく頷いた――東部を離れ北部で活動を始めたが、共に戦った仲間達を今のままにしておくわけにはいかない。
「というわけで、富や名声に興味はないが、実績がないと話を通すこともできないようなので、頑張るぞ」
「わかりました……とはいえ、魔獣オルダーの討伐について、エリアスさんが参戦する手はずはありますか?」
「現状では皆無だな。フレンは何か候補あるか?」
「うーん……そもそも討伐が行われるかどうかもわかりませんからね。ひとまず、実際に討伐隊を編成しているかどうかを含め、調べることにしましょうか」
「わかった、頼む」
エリアスの言葉にフレンは頷き、改めて行動を開始した。
話し合いから数日後、エリアスのいる砦に勇者ミシェナがやってきた。
以前と大きく異なる点は、仲間の有無。前回訪れた時は彼らが同行していたのだが、今回はいなかった。
「……仲間はどうしたんだ?」
出迎えた際、一人であるのを見て取りエリアスが問うとミシェナは、
「前回の仕事でパーティーは解散したよ」
「……雰囲気は悪くなかっただろ」
「私が魔獣狩りに参戦するかも、と言ったところでリタイアを申し出た」
(……なるほど)
エリアスは頷きつつ彼女の話を聞く。
(確か開拓歴五年以上……それなりに経験を積んでいる戦士達であっても、魔獣オルダーという存在は実力が足らないと避けるわけか)
「一人になったわけだが、それでも魔獣狩りに参戦するのか?」
問い掛けにミシェナは笑みを浮かべる。
「一応、声は掛けられているよ。仲間がリタイアしたと言ったら、単独でも新たにパーティーを結成しても構わないと言われた」
「つまり、今は仲間探しをしているわけか――」
と、エリアスが言ったところで彼女がニコニコしているのを見る。
「……もしかして、俺か?」
「騎士であっても問題ないかは確認したよ。別に構わないって」
(展開が早いな……)
エリアスとしては望んだ形ではあるため、本音ならば「わかった」と即答するところだったが、
(俺の今まで見せた反応から考えると、即答したら何事かと怪しまれる危険性もあるな――)
「騎士がいいと許可はもらったのかもしれないが、相手が聖騎士だとは予想していないだろ」
「まあまあ。一応仲間になってくれる人がいないか探してみるけど、ほぼほぼ私の中ではあなたで決まり。手を貸してくれる?」
「……断って死なれたら後味が悪すぎるな。魔獣という存在の危険さは俺も理解している。絶対に無茶はしないと約束してもらえるなら」
「約束する」
「軽いな……」
エリアスの言葉にミシェナは笑う。
「あはは、というわけでよろしくね」
「……ただ、俺がどうなるかは現時点で不明だ。聖騎士ということで討伐隊に組み込まれたりしたら、自由に動くことはできなくなるぞ」
「うーん、本当に採用されるの?」
疑うような眼差しでミシェナは問う。
「この砦における扱いとかで、あなたの立場はなんとなく理解できたし、討伐に参加できるかわからないでしょう?」
「……まあ、な」
「……私は政治闘争とかよくわからないけど、たぶん平民から聖騎士になったことで貴族とかに嫌がらせされているんでしょ?」
エリアスは何も答えなかった。その代わりどうとでも取れるように肩をすくめたのだが、ミシェナは同意だと受け取ったらしく、
「なら、魔獣を討伐した功績を得られる今回みたいな戦いには参加できないだろうなー、と私は思った」
「参加しないから、同行者に選んでも問題はないだろうと」
「そうそう」
「……勇者に請われて参戦する場合、俺の世間的な評価はどんなものになるんだろうな」
「そこは結果で押し切っちゃえばいいんだよ」
「無茶言うなあ」
ぼやくように言うエリアスにミシェナはなおも笑顔。どうやら彼女の反応としては、エリアスの態度も想定内で、満足のいく結果になったらしい。
(……ひとまず、この流れで参戦することになりそうだな)
エリアスはそう心の中で呟きつつ、
「とりあえずノーク殿に挨拶をしてくれ」
「わかった。あ、もし良かったら日々の訓練とか付き合って欲しいんだけど」
「……どのくらい居座る気だ?」
「魔獣討伐が始まるまで」
「討伐が正式に決まったわけじゃないと思うんだけどな……」
そんな会話を行いつつ、エリアス達は砦の中へと入った。