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怠慢と妨害

 赤き狼の討伐と魔獣オルダーの出現によって、北部の開拓最前線は大きな選択に迫られた。


 今回の騒動に関しては様々な考察が成されたが、国は「魔獣オルダーが活動した結果、赤き狼が縄張りを追いやられ、山奥から人間が開拓する領域に来たのだろう」と結論を出した。オルダーは活発的に動くことがあり、今回もそのようなケースだろう、と推測された。


 そして、活動的になったタイミングで討伐しようという話題が出てくる――今回も同様であった。北部の最前線にいる騎士達の調査によると、オルダーは人間がまだ開拓していない領域と、現在進行形で開拓している場所を動き回っている。その余波で他の魔物が動くとなれば、開拓にも支障が出る。

 今まで仕留めきれなかった魔獣を、ここで討つべきではないか――そんな考えを国側は持っているようだったが、相手はこれまで討伐できなかった存在。どうすべきかと王都では議論がされているらしい。


 その一方で、開拓の最前線はオルダー討伐に向け既に動き出していた。どうやら名前が付く凶悪な存在に対しては相応の武功を得られるとのことで、活発に動いているオルダーを仕留めるべく、騎士や勇者達が血気盛んに動き回っているらしい。


 その中でエリアスは情報を集める――赤き狼の討伐についても調べたが、エリアスに関する報告は見当たらなかった。指揮官はエリアスの存在を黙殺したらしい。

 とはいえ、これはエリアスにとって想定内であったため、特に驚きはない――そして、フレンの方もある程度情報を集め終えたため、話をすることになった。


「まず、東部に関してですが」

「ああ」

「結論から言うと、怠慢と妨害の合わせ技によって王都に情報が届いていません」

「……何だそれ?」


 聞き返したエリアスにフレンはこれ見よがしにため息を吐いた。


「東部の情勢が伝わっていない要因は二つあります。まず王都側にいる東部開拓の監督者がロクに国へ報告をしていないこと」

「それが怠慢か」

「はい。さらに言えば、東部に出現する魔物について、報告書の内容はあまりに誇張されていると考え、詳細を伝えていないらしいです」

「……報告書の内容が真実だとすれば北部の魔物より東部の魔物の方が強い。しかしそんなことはあり得ないとか考えたのか?」

「かも、しれません……とにかく、情報が歪められて国へ伝わっていない」

「なるほど、たぶん王都にいる東部の監督者は騒動が起こっても波風立てないようにして、責任を取らないよう動いていたか」

「それもありますし、純粋に仕事をしなかったという点もあるかと。東部は開拓しませんから、やる気が無かった」

「ある意味、政治的に情報が届いていなかったよりも面倒だな、対策のしようがない……ただ、それ以外にも理由があると」

「はい、とはいっても怠慢だけで全ての情報が伝わっていない、という事態はあり得ない。この事実に加え、東部の情勢について国への報告をしない存在が別にいる。しかもそれは、東部の監督者と対立している人間で、政治的な権力もある」

「つまりそれが妨害か……」


 頭をかきながらエリアスは呟く。


「その合わせ技によって、東部の情勢がまったく伝わっていない」

「魔物が出現している事実はちゃんと報告されています。それがだいぶ過小評価されているようです」

「……なるほど。どうするか」

「どうするか、とは?」


 問い返したフレンにエリアスは視線を向けつつ、


「そういう事情なら、一つ確認したいんだが……王都側に『ロージス』の情報はあったか?」


 その質問にフレンは押し黙る。それが答えだった。


「なるほど、そういう情報も届いていないのか」

「……確かに、言われてみればまずいかもしれませんね」

「ああいう存在が出てくる危険性は、低いかもしれない。だが、知っていなければまずいのは事実」

「……私達にやれることは、とにかく国側にちゃんと情報が届くよう動くことくらいですが」

「厳しいな。東部の状況を語ったとしても、世間的な評価が低い以上は俺の主張をちゃんと理解する人間がどの程度いるか」


 そう言いながらエリアスはため息をつく。


「ただ、是正はしなければいけない」

「……具体的にどうしますか?」

「選択肢は二つ。現在東部を管轄しているジェイツさんに報告を行って、東部側から状況を是正するようお願いする」

「問題は解消されるでしょうか? 私としては正式な報告書を王都へ直接持って行ってももみ消されるように思いますが」

「まあその可能性が高いな」


 エリアスは言う。フレンは険しい顔を見せつつ、


「ならば、成功率は低いですね」

「ああ、ならもう一つの選択肢……例えば、俺がオルダーという魔物を独力で成敗したとする。その状況で東部で鍛えた力だと主張し、そこから東部の情勢を伝えれば、王都側も聞く耳を多少持ってくれるんじゃないか?」

「なるほど……他には情報が届いていないことを色々な方にそれとなく説明し、国側で不正を調査してもらうとかも良いかもしれませんね」

「ああ、その手法もありだな」


 同意するエリアス。するとここでフレンは口を開く。内容は、オルダーに関するものだった。


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