聖騎士の見解
討伐隊と魔物オルダーのにらみ合いは一分ほど続き、やがて魔物は姿を消した。騎士達は索敵を行い魔物がいなくなったのを確認後、撤収準備を始めた。
エリアスはじっと魔物がいた場所を見据えた後、やがて近づいてくるフレンへと声を掛ける。
「索敵魔法の範囲から逃れたな……おそらく、人間が放つ魔力を完璧に理解できている」
「五十年、という長きにわたり生き続けているのであれば、相応の知性があってしかるべきですね」
「正直二、三十年も生きればそこから先は大して変わらないと思うけどな……ともあれ強敵だ。強敵だが……」
そこから先は言わなかった。エリアスがフレンを見ると、彼女は黙って頷く。
「……砦に戻ったら話し合いだな」
エリアスは呟きつつ、
「とりあえず役目は果たしたから、戻るとするか」
「撤収作業は参加しなくてよろしいですか?」
「俺達は飛び入りで参加したし、別にいいだろ……いや、ここで手伝って殊勝な態度を見せた方がいいのか?」
「大して変わらないと思いますけどね」
「ま、いいや。時間もあるし手伝うか。フレンは聞き込みでもしていてくれ」
「わかりました」
フレンは指示に従い、エリアスは騎士達がいる場所へ足を向けた。
そして討伐隊が撤収作業を済ませ、砦へと帰還していく。エリアスとフレンも自分の砦へと戻り、ノークへ報告を済ませた後に部屋へと戻った。
エリアスが自室へ一息ついているとやがてフレンがやってくる。狭い室内で話をすることになったのだが、
「そういえばエリアスさん、ミシェナさんは? この砦へ来ると仰っていませんでしたか?」
「ちゃんと仕事完了の報告をしないと報酬がもらえないからだろう……ま、数日以内には来るんじゃないか?」
「そうですか……では本題に入りましょう。魔物オルダーについて。名前があることからわかる通り、あれは魔物ではなく『魔獣』という区分になっています」
――魔物の強さなどは危険度によって判定されるが、国が注意している魔物については名前が付けられ、同時に魔物を超えた存在と定義し別称として扱われる。
「討伐隊が撤収作業をしている間に聞き込みをしたところ、あの魔物は幾度となく開拓を行う人間の近くにやってきては、攻撃を仕掛けているとのことです」
「これまで討伐はしなかったのか?」
「本格的に討伐隊を結成し戦ったことが五十年の歴史で三度ほど。魔獣オルダーが生きていることからわかるとおり討伐には失敗しており、犠牲者も出ているとのこと」
「北部では要注意な存在……というわけだな」
「はい、北部には魔獣という形で認定されている存在が合計で三体いるのですが、その内の一体がオルダーというわけです」
(生き延び続けたことで知能は高く、能力も高いというわけだ)
エリアスは口元に手を当て考える。それを見たフレンは、
「……ここで確認ですが」
「ああ」
「魔獣オルダーについて……エリアスさんとしては危険度という評価をする場合は、どれほどだと考えますか?」
「あくまで感じられる魔力だけの評価だ。その能力などが厄介であれば危険度以上の凶悪さだって持っているとは思うが……」
そう前置きをした後、エリアスは核心部分に触れる。
「魔力量だけを踏まえると、危険度三といったところか」
「今回討伐した魔物と同じですか」
「抱える魔力量の規模だけを踏まえると危険度四はない。それと、討伐した赤い狼は群れを成すことを含めての能力だが、魔獣オルダーは単独で危険度三の力を持っている……という解釈でいい」
ここでエリアスは小さく肩をすくめ、
「五十年も生きながらえ、三度の討伐を行ったのなら情報はたくさんあるはずだ」
「はい……仕事だけが増えていきますね」
「魔獣オルダーは俺が調べるよ。ひとまずフレンは、北部と東部に関する情報を集めてくれ」
「わかりました……もしオルダーと戦った場合、エリアスさんは勝てると思いますか?」
「能力を調べていないからなんとも言えないが……あの見た目から考えてなぜ討伐できていないか推測はできる。それが正しいと仮定した場合――」
エリアスは一拍置いて、結論を述べる。
「倒すことは可能だ。ただし、不確定要素が多く失敗する可能性はある。それを確実にするためには、相応の準備が必要だし、多少なりとも人手がいる」
「しかし、私達には協力者などいませんからね……」
「そうだな、東部であれば部下と一緒に戦えば対処できる。だがここでは無理だ……この砦の人員なら手伝ってくれるかもしれないが、能力が足らないし危険すぎる」
「条件としては、ミシェナさんくらいの実力がある人、数人でしょうか……」
「そうだな。ただ、オルダーが姿を現したことで四度目の討伐が行われるかもしれない」
「だとするなら、人員はそちらに集中しますね」
「ああ、俺達が独自に動くというのは厳しいだろう……まあ、魔獣オルダーの様子からして積極的に攻撃を仕掛けてくるタイプではなさそうだし、すぐに戦うということはなさそうだ。とりあえず俺達は情報集めと足場固めだな」
「……ミシェナさんがこの砦に来るのであれば、協力者として手を貸してもらうべきでしょうか?」
「そこは何とも言えないな。場合によっては彼女も討伐隊に加わるだろうし」
エリアスは頭をかきつつ、フレンへ続けた。
「ここまで魔物の存在から後回しにしていた仕事を進める。それによって、今後の立ち回りを考えていくことにしよう――」