戦場へ
砦周辺に出現した魔物は総合計で十二体。その全てを倒し、索敵魔法で気配がないことを確認後、エリアス達は砦の中へ戻った。
「助かった、本当にありがとう」
ノークはエリアスへ礼を述べる。その額には汗が浮き出ており、相当緊張していたのだと理解できた。
「砦の周りに魔物がいなくなったことで、周辺に伝令を送る。まずは情報を共有し、魔物がどこにいるのかを確かめる」
「はい、それが望ましいでしょう……それと、ですが」
エリアスはここでノークに討伐隊の近況を伝える。
「完全に情勢を把握できているわけではありませんが、魔物がこの砦周辺にいることから、混乱しているのは明白でしょう。よって、状況を確認する必要があるかと」
「ふむ、そうだな……討伐隊側から連絡が来る可能性は低いだろうからな……仮に来たとしても、混乱しているのであれば情報が回ってくるまで時間を要する」
ノークはどうすべきか考え始めた――エリアスの扱いに関して思うところはあるはずだが、それ以上に緊急事態であることを踏まえれば、
「……わかった。一度討伐隊の状況を確認してくれ」
「はい」
「随伴する人員は必要か?」
「フレンがいれば問題はありません。騎士や兵士は砦の防備に回してください」
「うむ、頼んだぞ」
――エリアスはすぐに準備を整え、フレンと共に砦を出た。それと共に再度索敵を行い、
「魔物はいないな。撃破したので全部みたいだ」
「しかし、数が多かったですね。一体や二体ならまだしも、十以上とは」
「討伐隊に攻撃され、魔物が暴走しているのかもしれない」
エリアスの言葉にフレンは厳しい表情を示し、
「東部で戦っていた時も似たようなケースがありましたね」
「ああ、危機が迫った段階で大暴れを始める……普通なら見境なく暴れるといった反応だが、今回の魔物の親玉は多数の配下を生み出す、という行動に出たわけだ」
「討伐隊は対処したはずですが、彼らの手を逃れ山を下った魔物が出た、というわけですね。個体辺りの強さは減っているみたいですが、人里まで下りるとなったら災害に匹敵します」
「今ならまだ対処は間に合う……とにかく討伐隊の状況を確認しないと。フレン、急ぐぞ」
言葉と共に、エリアス達は駆ける。魔力で身体能力を向上させ、驚くべき速度で戦場へ接近していく。
その時、轟音が鳴った。誰かが魔法を使用した――しかもその場所は、明らかに討伐隊がいる方角。
「親玉がいよいよ出てきたか?」
「かもしれません……エリアスさん、前方に魔物が」
エリアスも肉眼で捕らえた。赤い狼かつ、砦周辺で戦った個体と同様に小さい。数は合計二体であり、
「あれなら楽に対処できる。速度を維持しながら倒すから、フレンは俺の後ろへ」
「はい」
彼女が後方に回った直後、エリアスは速度を上げ魔物へ肉薄。狼は気付いて応戦しようという構えを見せたが、攻撃態勢に入るより先に剣が放たれた。
斬撃は正確に魔物の首を捉え、両断。頭部を失った魔物はあっさりと倒れ伏して動かなくなった。
「このまま突き進む!」
エリアスはフレンへ向け一方的に告げながら、さらに速度を上げる。そこで討伐隊がいる場所に、大きな魔力があることに気付いた。
「総大将が前線に出ている様子……討伐隊の気配を察して? それとも、魔物が少なくなったから? あるいは――」
エリアスが推測する中でも突き進む速度は変わらず――やがて、目標としていた渓谷前へと到達した。
討伐隊がいる場所へ到着した時、エリアスは瞬時に状況を理解する。そこは混沌とした戦場だった。
ミシェナを含めた勇者や騎士が魔物に応戦している光景が最初に見えた。それも小さな個体であり危険度一相当だろうと考えることはできたのだが、問題はその数だった。
渓谷の手前、戦場からやや距離を置いた場所に総大将と思しき赤い狼がいた。他の個体と比べ一回り大きいそれは、小さなうなり声と共に魔力を発する。その魔力が地面に落ちると発光し、形を成して赤い狼となる。
それに対し討伐軍は向かっていこうとしている様子だったが、相次いで出現する魔物に阻まれその対処に追われていた。生まれた魔物を一撃で倒すことはできる様子だが、親玉の生成速度が上らしく、騎士達が奮戦しているにも関わらず戦場に魔物が増えつつあった。
「――ミシェナ!」
エリアスはそこで名を呼びながら彼女へ近寄る。それと共に近づく魔物を一蹴しつつ、
「どうやら、相当面倒な事態に陥っているな」
「……エリアス! どうしてここへ?」
「砦近くに魔物が来たんだよ。討ち漏らした魔物だと思うが」
「――ああ、そういうことか。今朝、いよいよ渓谷へ入るという段階で、先んじて魔物が現れた。渓谷手前に大きい個体がいるでしょう? 魔物を生成しているところから見ても、あれが魔物の親玉」
「今朝になって出現したのか」
「そういうこと……でも、どうして現れたのかは不明だけど」
エリアスは魔物を見る。なおも配下を作り続けるその様子は、何者かに追い立てられているようにも見受けられる。
(奥地からここまで来たのは別の魔物に追い立てられたのか? 昨日の段階でそれをされているとしたら、ここまで来るのも理解できる)
そして、討伐隊を交戦し暴走状態となった――と、ここでエリアスは気付く。
「魔物を生成するごとに、弱くなっている……?」
「気付いたようね。生み出す魔物が小さくなっているように、確実に魔力が減っている。近づけば生成速度が増すため、ひとまず落ち着くまで耐えるということにしたんだけど……」
「討ち漏らした魔物が出てしまったと」
エリアスは状況を理解し、ならばどうすべきか――思考し、やがて一つの結論を出した。