朝の異変
討伐初日は何事もなく終え、エリアスはそのまま何事もなく就寝した。
そして、異変が起きたのは――討伐隊が魔物の掃討を開始した翌日のことだった。
突然、エリアスは鐘の音によってベッドの上で目を覚ました。それが魔物の出現を知らせるものであると瞬時に理解すると、飛び起きて支度を素早く行い、部屋を抜け出し外へ出た。
砦の主であるノークも起床し既に部下に指示を出している。そこへエリアスは近づき、
「状況は?」
「……砦の周辺に数体の魔物を確認した。全て以前現れた赤い狼だ」
「全て、ですか?」
「そうだ。今のところ砦の周辺をうろついているだけだが。門を閉ざしているため、入ってくることはない」
エリアスはそれを聞いてまず魔物について確認しようと考えた。すぐさま物見の櫓へと走り、外を確認する。
そして砦の周りをうろつく魔物の姿を確認。そこで一度ノークの下へ戻ると、その場にはフレンも来ていた。
「魔物について肉眼で確認しました。気になる点が二つ。一つは砦の周辺にいるだけで、何もしてこない点」
「砦の中の人間を狙っているのかもしれないが……」
と、ノークが発言。エリアスはそれに同意しつつ、
「だとすれば、親玉から指示を受けているはず……下手をすると魔物がさらに拡散し、人里まで下りる危険性が」
「それは、まずいな」
深刻な顔をしてノークは言う。
「すぐに連絡を行う必要がある。しかし、魔物がいて外には――」
「そこで、二点目です。どうやら外にいる魔物は、先日出現した個体と比べ小さい様子」
「……小さい?」
聞き返したノークにエリアスは首肯する。
「ええ、おそらく討伐隊の影響を受けて親玉が新たに作成したが、魔力量が少なく小さい個体しか作れなかったのでは、と推察します」
「とすると、数はいるが対処は可能だと?」
「間近で魔力量を計測したわけではないので確証はありませんが……」
ノークはそこで口元に手を当てた。
「……どちらにせよ、対処をしなければ砦から出ることはできないな」
「自分が先陣を切ります」
「わかった、討伐する人員はこちらですぐ選抜する」
ノークが動き出す。それに合わせてエリアスも動こうとして、
「……フレンはどうする?」
「さすがに待機しておきます……ちなみにですが、ここに魔物がいるということは討伐隊はどうなっているのですか?」
「……探ってみたところ、あっちも大変な状況みたいだ」
「助力に行った方がいいと?」
「おそらく俺が行かなくても対処はできるだろう。精鋭部隊だからな。ただ、魔物が拡散している以上、討ち漏らした個体がこちらまで来る危険性が高い」
「なるほど、であれば助力に行くのがベストでしょうか」
「俺が参戦してどのくらい変わるのか、という話になるけどな」
嘆息しつつ、エリアスは肩を軽く回す。
「まあいい、ひとまずは砦の周辺にいる魔物からだ。行ってくる」
「はい」
会話を交わし、エリアスは砦の入口へ。まだ門は開いていないが、ノークの指示によって騎士や兵士は集まりつつあり、戦闘態勢はすぐにとれた。
「エリアス殿」
と、ノークもやってきて声を掛ける。
「指揮を任せても構わないか?」
「わかりました」
頷いた直後、ノークが手を振り門が僅かに開く。
「選抜された者達は俺に続いて門から出てくれ! ノーク殿、ひとまず出たら一度門を閉めてください」
「わかった」
エリアスは騎士や兵士を伴い外へ。彼らの表情は引き締まっており、戦意も高い。
(前回の遭遇では動揺したが、今はしっかり備えをしているから、精神的にも問題はなさそうだな)
エリアスはそう考えつつ、魔物を肉眼で捉える。直後、周辺にいた魔物が吠えた。
「来る……魔法を扱える者はいるか?」
その言葉に幾人かの騎士が前に出る。
「魔物が接近してきたら光弾か何かを撃ってくれ。当たらなくてもいい、突撃の動きを鈍らせれば」
騎士数名は頷き、詠唱が始まる。直後、狼が砦へ向け突撃を開始した。
だが、それよりも先に魔法が完成する。声と共に発射された光弾は、正確に魔物を狙ったもの。
素早い魔物はそれを回避した――が、突撃する個体の中には直撃するのもいた。そうした魔物は魔法により倒れ伏す。それを見たエリアスは、
「前に出現した魔物と比べ、防御力も低いな。魔法を当てれば倒せる……」
呟いた中、一体の魔物が魔法をかわし迫る。エリアスは即座に魔物へ応じるべく足を前に出し――突撃に対し、一閃した。
剣戟は魔物の体へ直撃し、両断。エリアスは手応えを感じると共に、先ほど呟いた通り防御力が低いと確信する。
「孤立しないよう数人で組み魔物を迎え撃て! 突撃さえ阻止すれば、剣や槍で倒せる!」
そうエリアスは声を発しながら迫る魔物をさらに倒す。そこで砦周辺に存在する森の奥から新手が。ただしそれらは全て小さく、能力が低い個体ばかり。
騎士はそれを見て応戦した。魔法で牽制し動きを鈍らせ、近づいてきた個体へ兵士が槍を突き立てた。魔物はそれで小さなうなり声を上げ、体勢を崩す。そこへ追撃とばかりに騎士の剣が入り、倒れ伏した。
「よし、いけるぞ!」
騎士が叫びながら、連携によって魔物を対処する。その一方でエリアスは単独で魔物を倒していく。
(明らかに弱い魔物……危険度一といったレベルだが、問題は数か)
さらに森の奥から魔物が現れる。だが騎士達は倒せるとわかったためか、声を上げ士気を維持しながら迎え撃つ。
(これは、討伐隊の様子を一度見に行かないとまずいかもしれないな……!)
胸中でそう呟きながら、エリアスはなおも剣を振るい続けた。