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聖騎士と勇者

「――あなたは参戦しない、と」


 砦の中庭、鍛錬を終えた後にエリアスがミシェナへ話をすると、彼女はどこか不服そうな表情をした。


「それは国の決定?」

「ああ、そうだ」

「私が選ばれたのは、魔物との交戦経験があるからだと思うんだけど……それはあなたも一緒よね?」

「今回の討伐には聖騎士も参加するらしいから、俺の登場はその人物にとっては面倒に感じたのかもしれないな」

「別に聖騎士が複数いてもいいと思うけどね」

「聖騎士ともなると、政治的な立場も考慮しなければいけない……というわけだ。心底面倒だけどな」


 肩をすくめながらエリアスは語った後、


「さて、俺の出番はなくなり君は討伐隊に参加することになった。この砦にいる理由はないぞ」

「そうね。数日以内にここを出ることにする……けど、その前に一つやっておきたいことがあるのだけど」

「何だ?」

「一度、手合わせして欲しいのだけど」


 エリアスは彼女を見返す――単純な興味だろうと考えつつ、


「……それをしてどんな意味がある?」

「東部で戦い続けた聖騎士。その実力がどれほどのものか、知りたいの」

「そんな評価されるようなものではないと思うけどな……ただ、それをやらないと君の気が済まないという雰囲気はわかる。俺は別にいいけど」

「いつやる?」

「それも君が決めていい」

「なら、今からでも?」

「……その場合、一応ノーク殿に確認はしないといけないな」


 エリアスは答えつつ、新進気鋭の勇者がどれほどの実力か――それをしっかりと理解する良い機会だろうと考えた。


(話を聞く限り、彼女はなかなかの実力者……そんな勇者に対し俺はどのくらいの力があるのか。武を極めるのにどうすればいいか、一つの指標になりそうだ)


「ひとまずノーク殿に話をしてみる」

「ん、わかった」


 ――その後、エリアスはノークの許可をもらい、模擬戦闘という形で勇者ミシェナと戦うこととなった。






 時刻は昼過ぎ、エリアスとミシェナが戦うということで砦内は騒がしくなり、剣を交わす場として用意された中庭には、多数のギャラリーが押しかけた。


「大事になったな」

「それだけ興味があるってことでしょ」


 エリアスが自分を囲むように観戦する騎士や兵士に言及すると、ミシェナはさっぱりとした口調で応じた。


「聖騎士と勇者なんて対戦カード、普段じゃ見られないしまたとない娯楽でしょ」

「……闘技大会を観戦しているような気持ちってわけか。君の方はずいぶんと落ち着いているな。こういうこと、経験ありか?」

「そうね。名が売れてくると……しかもそいつが急に有名になったりすると、突っかかってくる人間が一人や二人出てくるものよ」


 結果、こんな風に輪となった観客の前で剣を披露した――勝敗をエリアスは聞かなかった。彼女の表情を見れば、突っかかってきた人間と戦ってどうなったのかは、明瞭であった。

 そんな中、フレンがエリアスとミシェナの間に立つと、


「審判は私が。危険だと判断すれば止めますので。エリアスさん、それでいいですね?」

「わかった」

「勝敗についてはお二方で決めてください」

「……それ、負けを認めなければどこまでも戦うことにならないか?」

「でしょうね」


 即答したフレンにエリアスは苦笑し、ミシェナを見据える。


(彼女の性格的に、手加減一つしたら不服に思っていつまでも勝負を続けることになるだろうな)


 ミシェナは勇者であり実力者。少しでも手を抜けば間違いなく気付くだろう。


(……フレンは、訓練だし俺が手を抜くかもしれないと、暗に警告しているわけだ)


 そう結論を出しつつ、エリアスは別のことを考える。


(安心しろフレン……俺は、加減なんてするつもりはない。勇者と刃を交えるまたとない機会だ。全力でやらせてもらう)


「では、用意を」


 フレンの言葉にエリアス達は剣を抜く。それに周囲の者達は一時沈黙する。

 双方剣を構え相手を真っ直ぐ見据える状況。それを確認したフレンは息を大きく吸い、


「――始め!」


 試合開始の号令が発せられた直後、先んじて動いたのはミシェナ。疾風のごとく間合いを詰めた彼女は、魔力を乗せた斬撃をエリアスの首筋を狙って放った。

 形式上模擬戦闘だが訓練の一環であることを忘れるほどの動き。しかしエリアスは極めて冷静に、彼女の動きを明確に捉えながら剣をかざし、その斬撃を防いだ。


 甲高い金属音が砦内に響く。直後、エリアスはミシェナの刃を受けながら剣に乗せた魔力量と、彼女自身の膂力を推察。一方でミシェナは防御の動きを見て、目を細めた。

 即座に彼女はエリアスと距離を置いた。先ほどの雷光のような突撃で体勢などをぐらつかせることができれば、という目論見だったのかもしれないが、当のエリアスは微動だにしなかった。


(まずは、俺の力を確認か)


 エリアスは胸中でミシェナの目論見を看破しつつ、次の行動に移す彼女を見た。さらに魔力を剣と両腕に乗せ、突撃を行う。

 それにエリアスは剣を構え応じた。再び激突する両者の刃。砦内に音が響き、その瞬間に周囲にいた兵士や騎士達が歓声を上げた。


 エリアスは即座にミシェナの剣を押し返し反撃に転じると、彼女はそれを見極めると剣で防いだ。そして、次の刃を放ったタイミングは双方同時。途端、これまで以上の轟音と共に、剣の応酬が始まった。

 傍から見ればどちらが攻めで守りなのかわからない。差し込まれたエリアスの剣をミシェナは弾くと即座に反撃。だがエリアスは斬撃の軌道を見極めていなすと、逆に剣を差し込む――その繰り返しが、凄まじい速度で行われる。


 瞬きを行う暇さえない、攻防が瞬時に入れ替わる激しい戦い。思考さえも置き去りに、エリアスとミシェナは、自身の剣術を頼りに相手を倒すべく、剣を放ち続けた。


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