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討伐隊

 魔物が出現した渓谷から距離を置いた時点で、魔物が後続から来なくなった。結果、エリアスとミシェナは目に見える魔物を討伐した後、一息ついた。


「縄張りからは離れたみたいだな」

「……思ったことなんだけど」


 ミシェナは渓谷のある方角へ目を向けながら発言する。


「あの魔物、際限なく出現していたように思えるんだけど……」

「さすがに限度というものはあるはずだよ。ただ、山の奥地からここまでやってきた個体、と考えると群れの数が相当多いという解釈ができる」

「討伐隊を編成するにしても、結構大規模になりそうね」


 そうミシェナは発言しつつ、エリアスへ向き直る。


「もし討伐するとなったら、あなたも参戦するの?」

「どうだろうな。俺とフレンはあくまで砦の近辺に現れた魔物の調査をしていただけだ。この流れで討伐隊に加わるかは、上の人間が決めるからわからないな」

「あなたに権限はないの?」

「北部へ来て二日目だぞ? 聖騎士だからといって俺に人事権持たせようと考える人間はいないだろ」


 エリアスの言及にミシェナは「確かに」と同意しつつ、


「でも、魔物の頭数が多ければ苦戦は免れない……私はあの魔物を一撃で倒せるあなたがいる方が心強いのだけれど」

「評価してくれてありがとう……君も参加する気ではあるのか?」

「要請があったら。ま、そこは偉い人が決めるだろうし、どうなるかわからないけど」


 と、ここでミシェナはエリアスとフレンを交互に見た。


「ねえ、あなた達の砦に行っていい?」

「……別に構わないけど、砦ではおとなしくするつもりだから、面白いことは何もないぞ。それに、君は同行していた騎士達に雇われていたんじゃないのか?」

「連絡しておけば大丈夫。依頼そのものは達成されたし」


 彼女は仲間に「いいよね?」と確認を取り、彼らは頷いた。ただ戦士は苦笑していたので、突発的な行動に多少なりとも困惑はしている様子。


(……ま、仲間割れするような雰囲気ではなさそうだから、大丈夫か)


 エリアスはここまでの会話でミシェナ達の態度を観察していた。なおかつ、目に魔力を少し集めて気配を見る。

 それにより、彼女達の間に取り巻く魔力は穏やかなものであり――勇者ミシェナは仲間と良好な関係を築けていることを確認した。砦に戻っても、騒動を起こすことはないと結論を出した後、


「君達の扱いは俺じゃなくて砦を守る聖騎士に委ねられる。待遇が悪くても文句は言うなよ」

「はいはい、わかっているよ」


 当然とばかりに応じるミシェナにエリアスは小さく肩をすくめつつ、


「それじゃあ戻ろう。当面、同じ魔物が現れる可能性は高いが……それの対処も、国にしっかりやってもらわないといけないな――」






 エリアス達が行った調査の結果、国はまだ見えていない赤き狼の魔物――その親玉を危険度三に認定し、正式に討伐隊を結成すると表明した。

 討伐の中核を担う人員は、ミシェナと共に行動していた騎士が所属していた砦が担い、最前線部隊ではない。しかし群れの数がまだ不明であること、さらに群れを成す個体の能力が危険度二に位置するという評価から、最前線で戦う騎士や戦士も動員するという話だった。


「――国としても、かなり面倒な相手だと考えているようです」


 フレンが語る。場所はエリアスの自室。情報を集め終わった彼女が報告を行う。

 現在は調査から三日経過している。エリアス自身は国が思った以上に結論を出すのが早いと思いつつ、北部の最前線だと方針を決めるのが早いのかもしれない、と胸中で考えた。


「参戦する騎士や戦士に関する情報も収集しましたが、確認しますか?」

「ああ……といっても、人名を見てもわからないだろうな」


 と言いつつも、エリアスは資料を確認。列挙された名前を見て、


「結構人数が多いな……」

「今回の討伐隊は総勢三十名ほどになります。最前線からも人を割くようで、危険度二クラスの魔物を一蹴できる実力者ばかりだと」

「調査段階では不明点が多かったが、不気味さから気合いを入れることにしたのか。ん、ミシェナの名前も入っているな」

「調査を行ったのが彼女なので、実力もあり交戦経験もあるため選ばれたのでしょう」


 その中で、エリアスの名前はない――まあこれは当然か、などと自身は考えつつ、


「後はお任せしよう」

「……ノーク様に直談判すれば、討伐隊に参戦できると思いますが」

「面倒事になりそうだからパス……なんだが」


 エリアスはチラッと窓の外を見やる。中庭が見えるのだが、そこで騎士や兵士相手に鍛錬をしているミシェナの姿が映った。


「この内容を話したら彼女は不服に思うかもしれないな」

「……彼女が直談判するという可能性が?」


 フレンの問いにエリアスは「かもしれない」と応じる――調査後、ミシェナがやってきたことを砦の主であるノークは歓迎し、騎士や兵士と汗を流している。

 その一方でエリアスの待遇を目の当たりにして、なんだが不満そうだった――なぜ彼女が不満なのか首を傾げるところだが、そういった反応を見る限り、討伐隊にエリアスが入っていない事実に反発する可能性がある。


「エリアスさん、確認ですが要請がない限り討伐隊には参加しないということでいいですか?」

「ああ、そう解釈していい」

「けれど、勇者ミシェナが場合によっては動くかもしれない」

「一度、話をしてみるか。それで反応を窺ってみる」

「騒動にならないといいのですが」

「なんとかしてみるさ」


 そう言ってエリアスは立ち上がる。


「ということで、早速行動してみるよ」

「可能な限り穏便にお願いします」

「努力はしてみる」

「……しかし、なぜ勇者ミシェナはこうまでエリアスさんの肩を持つのでしょう?」

「戦いぶりを見て気に入ったんだろ。名前しか知らない騎士や勇者より、共に剣を振るった人間に親近感を抱くのは、無理らしからぬ話だ」


 答えながらエリアスは部屋を出て行こうとする。だがその前に、


「他の情報についてはどうなっている?」

「まだ完全には……しかし、どうやら優れた勇者の基準としては危険度二、あるいは危険度三の中でも低位な魔物を単独で倒せる、というのが一般的な評価基準らしいです」

「なるほど、な」


 エリアスは納得したような表情を示した後、


「もう少し詳細を調べてくれ。あと、東部の情報が届いていないことについては調べたか?」

「そこはまだです」

「ん、わかった。引き続き情報集めを頼む」


 言って、エリアスは部屋を出た。


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