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21話

そんな蓮華の言葉を聞いた華淋は冷静な口調で答える。

「蓮華様……時間が惜しいので話は後程、聞かせてもらいます」

張勲も華淋と同じ様に馬に鞭を打つと駆け出したのだ。

そんな二人の姿を呆然と見送った蓮華に呂布が話し掛けてきた。

「どうしたの?」

その問い掛けに対して蓮華は下を向いたまま答える事が出来なかったのである。

そんな二人の戦いを止める事も出来なかった事に加え、自分は結局二人の力を信頼する事が出来なかったのであった事を悔やんでしまったからだ。

呂布はそんな蓮華の姿に異変を感じとったのである。

そして、華琳と張勲の姿は本陣からは完全に見えなくなり、ここには蓮華と呂布の二人だけになったのだ。

しばらくの沈黙が続いたが、それに耐えきれなくなったのか呂布が口を開く。

「どうして二人を行かせたの?」

そんな問い掛けに対して蓮華はゆっくりと視線を上げると言ったのである。

「二人を信じていない訳ではない……でも……」

その言葉を言った後、蓮華は再び下を向いた。そんな蓮華の姿に呂布は首を傾げる。

「とにかく、孟徳将軍が戻ってくるのを待つしかあるまい」

その時、数人の女性が駆け込んで来た。

「申し上げます!華淋様が追撃に出られました!」

「何だって!?」

その報告を受けた呂布は慌てて天幕を出ると馬に跨って華琳の後を追ったのである。

そんな呂布に続く形で高順が大声で言った。

「お前らは張勲を警戒しておけ!あいつは危険な奴だって事を忘れるなよ!」

そんな高順の言葉に配下の武将達は無言で頷くとその場に残る。

ただ一人、呂布は首を横に振ると馬に跨った。

「あ?一体どうした?誰が追撃に行くんだ?」

呂布の行動を見た高順は不可思議な表情を浮かべたまま問い掛けた。

すると呂布は驚く程のスピードを出しながら一気に駆け出したのだ。

「あ!おい!ちょっと待てよ!」

そんな呂布の予想外の行動に慌てて後を追う高順であったが、既に呂布の背中は小さくなっていた。

「くっそ、一体どうなってやがる?」

呂布に追い付いた高順はその言葉を聞くと同時に冷静さを取り戻すとため息交じりに口を開く。

「分からないわ……孟徳様は何故、そんな事を命令したのかしら……」

呂布は無言で馬を走らせながら考えていた。

(多分、孟徳の考えが分からないのは俺だけではないはず。でも華淋殿ならまだ分かる)

そんな呂布を乗せ、馬は長安に続く道をひた走っていた。

「華淋殿!孟徳殿が、どんな考えなのか教えてあげましょう!」

そう言って張勲は兵を動かすと前方に見えた孟徳軍へ向け進軍を開始したのであった。

「このままじゃ長安は陥落してしまいますわ……」

蓮華のその言葉に対して華琳は首を横に振る。

「いえ、今は大丈夫でしょ」

「え!?」

戸惑う蓮華に対して華琳は続ける。

「曹操軍は公孫讃という将を中心に兵を動かした。彼女なら多少の被害は無視してでも長安を守るはず」

「た、確かに公孫讃殿は今の漢を動かせる人物ですから……しかし……」

「何を恐れているの?孟徳の事?」

そんな華琳の言葉に蓮華は拳を握り締める。

(そうだ……私は孟徳を信じる事ができない)

そんな蓮華の表情を見た華琳が言葉を掛ける。

「ねぇ、貴女が信じているのは誰?」

突然の問い掛けに蓮華は驚き、目を見開いたまま華琳の目を真っ直ぐに見据える。

「な、何を?」

「とぼけても無駄よ」

そう言った華琳は孟徳軍に向けていた視線を蓮華へと移すと更に続けた。

「今の貴女も十分に魅力的な瞳を持っている……でも、今ほどの力強さは無いわね」

そう言ってニッコリと微笑む華琳に蓮華は驚いた顔を見せる。

(どういう事だ?孟徳を信じ切っているからこそ疑う必要すらないと言うのに……)

そんな蓮華に対して華琳は力強く口を開く。

「良い?私の家臣になると言った以上、貴女にも野望というものを持って欲しいと思うの」

「野心ですか?」

その言葉に蓮華は考え込む様子を見せる。

(私の中に孟徳を疑う気持ちがないとするなら何に対して疑っているのだろう?)

そんな蓮華の問い掛けに対して華琳は再び笑顔で答える。

「余計な事を考えているみたいね?ただ単純に孟徳を信じる事と疑う事は違うわよ」

「!?」

驚いた顔を見せる蓮華に対して華琳は首を横に振る。

「私は貴女を簡単に御せると思っていたの?私をそう簡単に騙せるはずないでしょ?」

そう言うと華琳はわざとらしく笑ったのである。

その頃、孟徳軍はというと……

張勲の指示によってすぐに出陣の準備に取り掛かるのだが……そんな中、一人の兵士が声を上げた。

「偵察から報告です!」

そう言って早馬と共に戻って来た兵士は他の兵士に対して言った。

「報告です!曹操軍と思われる部隊は長安に向かっています!」

「何だと!?」

その言葉を聞いた曹操軍の将らしき人物は、周囲の状況などお構いなしに怒りに任せて叫び声を上げた。

そして孟徳が居る天幕の方を見ながら更に声を荒らげる。

「我らの主君を見捨てて逃げるとは不忠な輩どもだ!」

それに対して曹仁や成廉が口を出す。

「孟徳様を疑うと言うのか!?貴様!!」

そんな怒号が上がる中、孟徳は無言で天幕より姿を現した。

「騒ぐな!」

決して大きな声ではないものの、その圧力に兵士と曹仁達は押し黙るしかなかった。

孟徳は周囲に視線を向けると問い掛けた。

「私の為に残ってくれるのはどれくらいいる?」

その問いに答える様に各部隊の武将が一歩前に進み出た。

それは関羽を始め、張飛や呂布といったかつての魏の名将達であった。

「私は華琳様の武や義ではなく、お人柄に惹かれました」

関羽はそう言うと拱手の姿勢を見せた。

それに釣られた様に次々と魏の武将達が孟徳の前に跪く。

そんな武将達に対して満足気な様子を見せる孟徳に向かって曹仁が問い掛けた。

「それで、これからどうすると言うのだ?逃げるのか?それとも迎え撃つのか?」

その問いに対して孟徳は目の前に跪く武将達に視線を向けた後、曹仁に視線を移すと笑顔を向けた。

「どうせ曹操軍に負けるようなら、もっと早く逃げた方が良いって事でしょう?」

そんな孟徳の言葉に曹仁は一瞬で頭に血が上る。

「おのれぇ!曹操軍など、すぐに叩きのめしてやるわ!」

そう言って剣を抜く曹仁に対して孟徳が微笑む。

「ならば曹仁は残って部隊を指揮してもらおうかしら?私は曹操軍が到着する前に逃げさせてもらうわね」

そんな孟徳の発言に曹仁が剣を振り上げながら孟徳に向かって走り出そうとしたのだが、それを関羽が取り押さえたのである。

「今はそのような事をしている暇はありません」

「どけ!関羽!!こいつを斬る!!」

そんな曹仁に華雄が続いた。

「お怒りはもっともですが……今は孟徳様がおっしゃった様に曹操軍を叩破し、その後逃げると言う事でどうだろうか?」

華雄はそう言うと曹仁に拱手の姿勢を取り跪く。

その姿に曹仁は驚いた表情を浮かべる。

「お、お前ら!」

動揺する曹仁を無視して孟徳が号令を下す。

「急ぎ迎撃の準備を!準備が出来次第、総攻撃を仕掛ける!」

『おぉぉ!』という声に合わせ魏の武将や兵達も声を上げたのだった。

孟徳の声に呼応するかの様に指示を飛ばすと慌ただしい足音を立てて各部隊に分かれて走り始める。

そんな様子を見ていた華琳に対し孟徳は曹操軍がやって来る方向に視線を向ける。

「しかし、流石は曹操ね……あの少ない部隊でここにやって来るなんて」

「……そうだな」

そっけない返事をする華琳であったが、孟徳は微笑む。

「あら?素直じゃないわね」

そんな孟徳の言葉に華琳は少し驚いた表情を浮かべたが直ぐに冷静になると逆に孟徳に問い掛けたのであった。

「まったく……お前って奴は油断も隙も無いな」

その問い掛けに孟徳は笑顔のまま答える。

「褒め言葉として受け取っておくわ」

そんなやり取りをしていた二人の元にある兵士が駆け寄り跪くと報告を始めた。

「孟徳様、先遣隊として朱儁将軍の部隊がこちらへ向かっており、今、合流したとの事です!」

その報告を受けた華琳は顎に手を当てて頷くと孟徳に問い掛けた。

「どう思う?」

その華琳の質問に直ぐに言葉を返せない孟徳であったが暫くの沈黙の後、口を開く。

「どうもこうもないでしょ?それより私達は逃げた方が良いんじゃない?」

そんな孟徳の答えを聞いた華琳は軽く首を横に振った後、笑みを浮かべて答える。

「朱儁が合流するなら私達の勝ちよ」

その言葉に対して孟徳は少し苛ついた声で問い掛ける。

「どういう事?撤退しない気なの?」

それに対して華琳は少しだけ笑みを浮かべると答えたのであった。

「たかが将軍如きに遅れを取る気はないわ。そして孟徳、貴方には部隊を二つに分ける許可を出すから長安の部隊と朱儁の援軍を分断させなさい」

「まさか、敵味方の兵の命を大切にしろという孟徳の指示を破るのか?」

その問いに孟徳は小さく笑みを浮かべると何も答えなかった。

「全く……お前は相変わらずだな」

そんなやり取りをしている二人の所に伝令の兵士がやってくる。

「申し上げます!曹操軍の先遣隊を視認しました!」

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