18話
そんな張飛の言葉を肯定する様に呂布や関羽が大暴れしているのだ。
俺は張飛の言葉を聞きながら呂布と関羽の動きを見て納得したのである。
「そうか……そういう事か」
その呟きに李儒も気が付き、そして笑みを浮かべたのである。
そんな俺達に対して張勲は鼻で笑ってから言った。
「劉将軍……まさか今の状況が見えていないのですか?これは貴方が思っている以上に厄介な事になっていますよ」
そんな張勲の言葉に俺と張飛は顔を見合わせて笑ったのであった。
その様子を驚きながら見ていた太尉袁術は張勲に怒鳴り付ける。
「一体何だと言うのだ?呂布達の方が優勢ではないか!」
その言葉に張勲は不敵な笑みを浮かべたまま言ったのである。
「では、何故呂布殿が仮面を外していないのでしょうか?」
そう言われて初めて気が付いたのか、袁術の表情が変わったのであった。
太尉袁術は自分の兵を見ると既に半数近くの兵士が逃げ出している状況であったからである。
そんな状況に袁術と張勲を睨みつける袁紹の元へ黄巾党の兵士が飛び込んで来たのだ。
「申し上げます。張超様、曹操軍の夏侯淵将軍が総大将を討ち取りました」
その報告に袁紹は激しく動揺して顔を引きつらせながら張勲を怒鳴りつけたのであった。
「貴様!最初から私を罠に掛けるつもりでここに来ていたな!」
そんな袁紹に張勲は冷静な口調で答える。
「黄巾党の兵士とはいえ、人の命を大切にしないアナタのやり方を見過ごす事は出来ないと言っているだけですよ」
「貴様!何を言っているのだ?我が軍は何の問題も無く進んでいるではないか?」
袁紹の言葉に呆れた様な溜め息を張勲が吐いた。
「戦局が変わった事にすら気が付いていないとは、これでよく太師と呼ばれていられたものですね」
そんな皮肉に激高した袁紹は剣を抜いて斬りかかろうとした時、太師の兵が止めに入ったのである。
「何をしておる?」
「張勲殿には手を出さないで下さい。我らの負けでございます」
その言葉に驚いた袁紹は動きを止めるが、張勲はお構いなく話し掛けてきた。
「どうします?まだ戦いを続けますか?これ以上は無意味だと思いますがね」
すると、少しの沈黙の後、太師の兵から声が聞こえた。
「私は太師の独断を許せぬ。必ず報いを受けさせてやる!」
その太師の声を聞きながらも張勲は余裕の笑みを浮かべて答える。
「どう報いを受けると言うのか説明をして頂けますかな?」
「黙れ!」
そう言って張超は剣を振り下ろそうとすると、横から張勲に襲い掛かる人物がいたのである。
その一撃で張超が斬り伏せられたと思った瞬間に振り下ろされた剣は動きを止めたのだ。
今まで一言も声を発しなかった男が張遼の攻撃を止めたのだから当然である。
そんな呂布の行動に誰もが驚いたが、一番驚いていたのはその張遼であった。
(何が起きたのか全く分からなかった……気が付いたら、目の前に呂布殿がいたのだ)
すると呂布は掴んでいた張遼の剣を突き放すと、そのままの勢いで張遼を斬ると蹴り飛ばしたのであった。
その様子を見ていた太尉袁術は驚きのあまり声を失っていたが、そんな様子もお構いなく、太師の兵が斬り掛かっていったのだが一撃で倒されてしまったのだ。
その出来事で太師の兵達の大半は黄巾党の兵に紛れるように逃げ出したのである。
その様子を見て驚きながら太師の袁術は張勲に詰め寄ってきた。
「この責任はどうとってくれるのだ!私が流した血を無駄にさせよって!」
そんな罵りに張勲は太師である袁術に頭を下げた後に言う。
「では、私が責任を持って黄巾党を倒させていただきましょう……ただし条件がございます」
「何だ!何でも申してみよ!」
そんな太師の言葉に張勲はニヤッと笑うと答える。
「我ら董卓軍と呂布将軍達の連合軍と一戦して頂きたい。勝敗はどうでも良いのですが、それを終えてから軍を引いてもらいたいのです」
そんな張勲の条件を聞いて太師の袁術は頷き答える。
「その条件を飲もう!」
そんな太師の言葉に満足そうに笑った張勲だったが、更に続きを答える。
「当然ですが、負けた場合にはしっかりと責任を果たして貰いますからね」
張勲の言葉にムッとした表情を浮かべる袁術であったが、改めて確認するように張勲に言ったのだ。
「一戦と言ったな?一体何の為に戦わせるつもりだ?」
そんな太師の質問に答える事無く張勲は呂布の元に近付いてきた。
そんな張勲に呂布が警戒していると関羽が太師の前に立ちはだかる。
「何のつもりだ?お前は敵に背中を見せて良いのか?」
そんな関羽の問い掛けに張勲は冷ややかな視線を送り答える。
「私は戦局をよくする為に此処にいるのです。呂布将軍と戦うなど私の本意ではありません」
「ふざけるな!」
そう関羽が叫ぶと呂布も関羽の言いたい事が分かったのか張勲を睨んだのだ。
そんな俺達の様子に黄巾党の兵は動揺し始めたが、それでも太師袁術の号令で一斉に襲って来きたのである。張飛は俺と呂布を見ると叫んだのである。
「呂布将軍!!俺は貴方に試合で勝ってあなたの裸をみる!!」
「何言ってんだ!!お前!?」
そんな俺の驚きの言葉を無視して張飛は兵の群れの中に飛び込んでいったのだ。
関羽も続くように黄巾党に飛び込むとあっという間に乱戦になってしまう。
「呂布殿、俺も行きやすぜ!」
張遼も叫びながら乱戦に突っ込んでいった事で俺は再び太師袁術の方に視線を向けると、既に太師の軍の中に太師の姿が見えなくなっていたのである。それでも残った黄巾党の兵士達が武器を振りかざしながら呂布の陣地へと攻め込んでくる。
その様子に太師の軍が引いて行くと思い込んでいる袁術軍の兵達は先程より士気が下がっていた為か、呂布の兵士達が次々と黄巾党の兵を倒していき黄巾党の兵が逃げ出す者も出始めた頃だった。
突然、騒ぎの声や武器の音が止み静寂に包まれると太師の軍の方から激しい音と光を放ちながら爆発が起こったのである。
そして太師袁術の声が戦場全体に響き渡ったのだ。
「聞けぇーーー!勇敢なる黄巾党の兵士よ!天は我らに味方した。今こそその思いの時が来た、立ち上がれ!」
そんな太師の声を聞き袁術軍の兵達は歓喜の声を上げて士気が戻り始めたのである。
「呂布殿!!」
俺と同じく状況に驚きの表情を浮かべる呂布に対して太師の軍から指揮官と思われる男が現れた。
その男は水色の髪色の長髪に瞳は紫であった。歳はまだ若く17~18位である。
「お主は誰だ?」
「私こそが太師袁術様にお仕えする参謀の一人、楊奉でございます。呂布将軍、我等と共にこの戦に勝利いたしましょうぞ!」
その言葉に呂布は溜め息をつくと首を横に振る。
「悪いが断らせて貰う」
そんな呂布の言葉に驚きの表情を浮かべる楊奉にさらに続ける。
「敵の罠に嵌ったからと言って簡単に撤退する様な人間に信用は出来んし、我等は数で劣っているのだ。こちらの数が少なくなればどうなるか……すぐにでも軍を引かせろ」
呂布の言葉に楊奉は悔しそうな表情を浮かべるが、それでも我等を逃がす為に敵へと飛び込んでいった。
「申し上げます!曹孟徳の軍が押してきます!!」
その報告を聞いた太師袁術の軍は完全に士気が下がってしまい撤退を始めた為か、一気に戦局が変わる事となる。
その様子を見ていた太師の袁術は怒鳴り声を上げる。
「誰だ!あの様な策を考えたのは!?」
その答えに太師の軍から一人の男が姿を見せたのだ。
「黄巾党の首魁の一人で名を何進と申します」
そう言って頭を下げた男の髪は銀で瞳はグレーであった。
そんな男に対して太師の袁術は指示を出すと何進が口を開いたのである。
「呂布将軍のおっしゃる通りです。我々も此処に留まり続ける事は不可能ですので……」
すると、そんな袁術に対して呂布は何かを投げ渡した。
それを見た何進は驚きながらも確認する。
「これは?」
「我等の戦いに参加した者にはくれてやる」
呂布の言葉を聞いた何進が思わず笑みを浮かべた時であった、袁術が叫ぶ。
「な、何を笑っているか!」
「いいえ……呂布将軍の器の大きさに感動したのですよ」
そんな二人の会話を聞きながら太師の袁術は何かを叫び続けたのだが、突然背後に現れた張遼により斬られる事になった。
黄巾党との戦いは袁紹軍の降伏によって幕を閉じる事となる。
呂布が与えた武器を手にして張飛率いる関羽の兵が我先にと呂布目掛けて駆け寄って来た。
その様子を見た何進は俺に近付いて来ると言ったのである。
「楊奉がまた会いたいと言っていましたよ」
そんな何進の言葉に俺が戸惑っていると、何進は再び笑みを浮かべて俺の肩をポンと叩くと去って行ったのだ。
◇◇◇◇◇◇
黄巾党の黄巾の乱は終わり、夏侯惇、曹仁、顔良といった実力者も曹操の元に着いたのだが、袁術が最後に仕掛けた策によって数多くの死者や行方不明者を出して敗戦と言う結果で幕を閉じる事になった。
そんな敗戦から数日後の事である。
俺は街の中央にある広場に訪れると大勢の人達が集まっていたのであった。
「おぉ!これは見事な白鳥ではないか!」
俺の隣にいた曹操が嬉しそうに言うと目の前に白い着物を着た少女が登場したのである。
「この少女の舞いはそれは見事なものであろう」
そう言う曹操の言葉に少女は頷くと華麗な踊りを披露され、観客である俺達の目はその踊りに釘付けになっていたのであった。
そんな少女の踊りを見ていると頭の中に声が聞こえてきたのである。