二の②
公園に待ち人は見当たらない。代わりに、並んだ木の内の一本の枝に、彩り豊かな装飾が施されている。折り紙でつくった輪っかが括り付けられて、目立つようにしてある。僕はとりあえず、それに近寄る。
輪っかを取り外す。が、特に変わった点は無い。次に、枝を探ってみる。僕の額くらいの高さに位置するその太い木の幹を、抱くようにして触れてみる。それでも、何も無い。すると、この飾りはひょっとして劇とは無関係なのか。しばらく呆然としてみても、何も無いようだから、結局去る。一体何なのだろう、これは。こうなると、困る。いくら僕が劇を忠実にこなそうと考えても、台本が分からないのでは、どうしようもない。
徒労を身に覚えて、やっと帰り路を辿ろうと思うとき、遮蔽が現れる。たぶん今日という日は、その繰り返しでできている。
今度塞いだのは、部活の先輩であった。とうとう先輩まで駆り出してきたか、と感想を抱く。相手が先輩だから、僕も多少襟を正さなくてはいけない。
「ちわ」
低姿勢を示す挨拶をする。先輩は応と答える。
「二年は俺を舐めてんのか」
僕はいまいち要領を得ないが、とにかく「いえ」と答えておく。
「そんなことはないです」
「輪っか、持ってるか」
「輪っか……」
「折り紙で作った輪っかだよ!」
先輩が少々苛立った声で言うので、途端に考えが巡り出し、先程の公園に放置されていた飾りを思い出す。
「あっ、はい!」
ちょうど手に持っていたものを差し出す。途中、どこかに屑かごでもあれば、廃棄しようと思っていた。木の枝に括りつけ直すのも面倒であったし、公園の砂の上に捨て置くのも憚られた。その心がけ故に、先輩の前で窮せずに済んだ。
「よし、ほらこれ」
先輩がくれたのは、丸型のミステリーマークである。
「ああ、あとその折り紙もいらねえから、どっかに放っておけ」
先輩が背を向けて、僕は「失礼します」と頭を下げた。先輩は軽く振り返って右手をあげる。作家に、どのくらい出演料をもらったか知らん。アイスか、はたまたジュース一本か。
丸はうすい赤の布生地でできている。僕はポケットに無造作に仕舞ってあった星と四角の縫い物を、手に取って見る。簡易なつくりとは言え、これだけを用意するのにも大分手間がいる。裁縫の上手い奴など、僕の周りにいたか分からない。誰がこの、ミステリーマークと言うやつをわざわざこしらえたのだろう。こしらえる労力に免じて、僕はやはり劇を最後まで手伝ってやることにする。