3話
クレアのメイドに真面目そうで賢そうな雰囲気をしているが、実はそんなに真面目じゃなく余り賢くもないルミーというメイドが、レイラのメイドに一見優しそうだが、性格は残虐なメリーというメイドがそれぞれついている。
また、二人のまとめ役で、どちらかが忙しい時に手伝う係りの、ニトという面倒臭がりのメイドがいる。
この三人でクレアとレイラのお世話をしている。
だが、クレアとレイラが学園に入学してから、メイド三人は入学する前より、忙しくなってしまい、疲れのせいか大きなミスを起こしてしまった。
そのせいで、三人は今、会議をしていた。
「さて、媚薬を間違ってレイラお嬢様の飲み物に入れてしまったと、そう言うことだよね」
フムフムと、状況を確認しながら、ルミーが間違って入れてしまったということを再度尋ねるニト。
「はぃ~、間違って入れてしまったんです~。どうしたら良いのかな二人とも!」
今にも泣きそうな声で打開策を求めるルミー。
「どうしたら良いって、もうどうすることも出来ないじゃん。そもそも何で間違うかな?ねぇバカなの?」
ルミーの痛切な頼みを容赦なく切り捨て、挙句の果てにバカにするメリー。ルミーには全然優しくないのである。
「まあまあメリー、落ち着こうよ。とりあえずどうなって、レイラお嬢様の飲み物に媚薬を入れちゃたのか、教えてくれないかな?」
この場を優しく取り持とうとするニト。ニトは二人の長女みたいな存在だ。
「はい~」と言ってから、詳しい経緯を語りだした。
クレアとレイラが二人きりでお茶会を家の庭でやることになっていて、ニトとメリーもその手伝いをしていた。
その庭は大きな桜の木があり、小さな池もある。そこでのお茶会だからきっと良い雰囲気になるんだろうなーと、みんなは考えて、張りきって仕事をしていた。
三人の中で一番力持ちなメリーが白くて庭の雰囲気に合いそうな椅子やテーブルを引っ張り出してきて、セッティングした。
料理上手なニトがお茶に合いそうなお菓子を作り、ニト自信も満足のいく、良い出来映えの美味しそうなお菓子を作った。
ここまでは良い。問題はこの後からだ。
ルミーはキッチンに行き、魔力石ポットでお湯を沸かし始めた。その間に指定された茶葉を探していた。発見した茶葉の隣には小さな瓶が置かれていて、その小瓶には使用禁止と書かれた紙がついていた。
なぜ使用禁止なのか気になり、興味本位で開けてみると、花のような良い匂いがした。
だからそれをルミーは高いから使っちゃいけないんだと思い、今回は大切な時だから、匂い付けに使っちゃおうと、考えて二人の紅茶に淹れた。
紅茶に淹れると、匂いもそんなにしなかったので匂いがつくまで淹れていると、中身がどんどんなくなり、片方だけに多く入ってしまった。
ミスったなぁーと思ったけど、どっちにしろ匂いがつかなかったので、まあいいやと考えて、さっさと持っていくことにした。
そのとき匂いがつかないなら、あの小瓶の中身は何だろうと考えていれば良かったが、もう後の祭りである。例え、そんなことに気づいたとしても、普段から思考を放棄しているルミーは、まあいいやですんでしまうだろうが。
紅茶を持っていくと、桜の木の下で仲良く談笑している二人が見えて、思わず頬が緩んでしまう。
「準備が出来ましたよー!」と呼ぶと、仲良くこちらに向かってくる。
二人とも髪を整えて、お気に入りの服を着ている。
クレアの服を決める時、何回も「これはどう?こっちは?」などと服を見せられ、とても可愛いや、似合ってるとしか、言うことが出来なくて、
「参考にならない」とクレアから言われてしまった。きっとメリーもそうだったんだろうなと、自分のセンスを棚に上げて考えた。
そうしてる内に、二人とも紅茶に口をつけて飲んだ。飲んでしまった。
飲んだすぐ後にレイラの様子がおかしくなってきた。さっきまで、平然とクレアと会話していたが、だんだん受け答えが出来なくなり、顔がみるみる内に赤くなって、呼吸の回数も多くなっていった。
異変に気付いたクレアが「大丈夫?」と、問いかけるも、返答が返ってこず、ただクレアを情熱的にみつめていた。
ルミーが「あれ、おかしいぞ?」と考えていると、レイラがおぼつかない足取りでクレアの方に向かい、クレアが「本当に大丈夫?」とレイラを支えようと立ち上がる。
その瞬間レイラがクレアを押し倒し、クレアの服を乱暴に脱がせようとしている。
急なレイラの行動にクレアはビックリし、一瞬動きが止まっていたが、レイラの顔を見て、ただ事じゃないと判断し、必死に逃げようとしている。
だが、レイラの力が強過ぎて手を上手くどけれない。それとも満更でもないために、そこまで強く体が抵抗出来ないのか。
多分どちらもだろうが、今はそれどころではない。ここは外。つまり、他の人にも見られる訳だ。
見られるのは普通に嫌だし、何よりこれを誰かに見られ、その情報が伝わると非常に不味い。でも今、レイラに何か言ったところで止めてくれるとは思わない。だからポカンとしているルミーに命じた。
「ルミー!レイラ止めるの手伝って!」
一瞬戸惑っていたが、クレアに呼ばれ慌てて駆けつけ、レイラの脇に「失礼します!」と言って手を入れる。
ルミーの背は小さいレイラより大分大きいので、結構簡単に持ち上げられたが、レイラの抵抗が思いの外強かったのか、よろけてしまい、レイラを支えきれなくなりそうだ。だが、その間にクレアが立ち上がり、レイラの足を持ち、ルミーにクレアの部屋に運ぶように伝えた。
誰かに見つからないといいなと思いながら、二人は必死にレイラを運ぶ。二人はレイラが暴れて、体力の限界も来ていたが、体力の尽きる前に何とかクレアの部屋に運ぶことができた。
「レイラの面倒は私が見るから、ルミーはテーブルとかを片付けてちょうだい」
クレアは少し顔を赤くして少し早口で言うと部屋に入っていった。その直後、高い興奮した声が聞こえてきた。ルミーは顔を真っ赤にして、命じられた片付けに向かった。
ニトとメリーは仕事が終わり部屋に戻ってお喋りしていた。
「ルミー何かやらかしてないかな?」
「流石に大丈夫でしょう。お茶を淹れるだけの簡単なお仕事だし」
そんなことも出来ないならメイド失格だとでも言うように返すメリー。
それもそうかとニトが頷いていると、ドアが開きルミーが入ってくる。
何やら恥ずかしそうな顔をしてベッドにダイブする。どうしたのか尋ねたところ、今の現状ということだ。
「それでどうすんの?」
「それが分かったら苦労しませんよ!!」
疲れた顔をして叫ぶルミー。
「相談しておいて怒らないでくれる。元々はルミーが悪いんじゃない」
ド正論をかますメリー。ルミーのメンタルをとことん追い詰める天才だ。
「まあまあ、悪気はなかったみたいだし、ちゃんと話せば分かってくれるはずだよ」
ニトの優しい言葉によって嬉しくて、ニトに抱き付くルミー。ニトは重たそうに「離れて苦しい」とルミーの背中を軽く叩く。
「離れなさい。嫌がってるわよ」
「ふん。優しくないルミーの言うことなんか聞かないもん」
そう言って更に強く抱き締める。本当にニトが苦しそうに、ルミーの背中を叩く。
「速く離れなさい。怒るわよ」
そうメリーが言っても「嫉妬してるの?ニト取られて寂しいの、メリーちゃん?」と返して、さらにニトにキスするルミー。ニトは突然キスされ、目を白黒させて驚いている。
これに怒ったメリーが自分のベッドから降りて、ルミーの背中を足で蹴った。
「痛い!何するんだメリー!」
ルミーはメリーを睨み付けていると、メリーがさっきから固まっていたニトに抱きついた。
「ニトは私のなの!勝手に抱きついたり、キスしたりしないでくれる!」
怒ってルミーに言った後、ニトのお腹辺りに気持ち良さそうに頭を擦りつけた。やっぱりニト可愛いし、ニトの匂いも好きだなぁと思いながら抱き締める。
「ニトはメリーのじゃないよ。ルミーのだもん!」
再び抱きつこうとするルミーは、ニトに抱きつくメリーを剥がそうとして、メリーの脇に手を入れる。本日二回目なので簡単にいけると思ったが、レイラの時より、力が強かった。
絶対に離そうとしないメリーと、絶対に離させようとするルミー。ニトは何で巻き込まれているんだっけと、一人考えていた。
結局、疲れたニトが止めるまでこの攻防は続き、明日事情を話して謝ろうということになった。
「今日は疲れたなー。もう早く寝よう」
ニトの言葉に、二人も疲れた顔で頷いている。
「じゃあ、蝋燭の火消すからね」
一瞬で暗くなる室内。入ってくるのはカーテンから漏れる少しの月明かりくらい。
ニトは本当に疲れたなぁーと思いながら月明かりを見て、ぼんやりしていた。そこに雰囲気を破壊するようなルミーのいびき。思わずニトは笑ってしまった。
そこへメリーがベッドに入ってくる。どうかしたの?と、問いかけてきたメリーに何でもないと首を横に振る。
いつもメリーはルミーが寝てからニトのベッドに入ってくる。メリーはルミーに言わないようにとお願いしてくる。ルミーにバレたら恥ずかしいからそうお願いしてくるのだろうと、ニトは思っている。
「ニト、今日はごめんね。迷惑かけちゃたし」
「大丈夫だよ。こっちこそごめんね。すぐ止められなくて」
「元々私とルミーが悪かったんだからあやまらないで。それに抱きついちゃってごめんなさい。嫌だった?」
「そんなことないよ。ちょっと驚いたけど嬉しかったよ。まあルミーのキスはいくら何でもやり過ぎな気がするけど」
ニトがそう言うと一瞬悲しげな顔をした後、ニコニコし始めた。
「それならよかった。嫌われたんじゃないか心配だったんだ」
「こんなことで嫌いにならないよ。メリーとルミーどっちも大好きだからね」
メリーはニトをじっと見つめた後、恥ずかしそうに「私もニトのこと好き」と言って顔を近付けてきた。
「ルミーのことも好きじゃないの?」
そう聞くとがっかりした顔になって、少し顔を離した。
「ルミーは優しくないし、からかってくるからそんな好きじゃない」
「うーん、そっか。まあ仲良くしてね。それじゃあおやすみ、メリー」
「おやすみなさい」
ニトはルミーと同じくぐっすり眠りについた。
ニトはいつも優しくベッドに入れてくれて、ベッド半分を空けて、眠たそうに「おやすみ」と言う。メリーはニトがいつも優しくしてくれるのがとても嬉しい。
そしてニトがぐっすり眠りに付いた後、起こさないようにキスしたり、身体を触ったりする。そうすることで、メリーは一日の疲れやストレスは全部発散される。
本当はニトに相手をして欲しいが、ニトへの恋愛感情を知られて嫌われるのが怖いから望むだけ。
もしバレて、ベッドで一緒に寝てくれなくなったり、優しくしてくれなくなったら、死ねる自信がある。そのときはニトを一緒に連れていこう。地獄でも一緒にいられるならばそこは天国になる。
……とにかくニトはメリーの命より大切な人なのだ。それなのにルミーがニトに抱きつき、キスまでした。許せない。一生の不覚だ。二度とニトに触らせたくない。だけどニトは、ルミーも大好きだと言った。だからルミーは仕方がないから許す。だけどキスなんか二度とさせない。絶対邪魔する。
それより大事なことがあった!ニトは抱きつかれたことを嬉しいと言った。つまり、抱きついてだんだんとハードルを下げていくことにより、ニトがメリーの身体に興味を持ち、一緒に夜の営みもしてくれるようになるのだ。凄く良い計画だ。
ニコニコしながら隣を見る。可愛いらしい顔をして寝ているニトがいる。
メリーは上書きの濃厚なキスをして、ニトに抱きついて眠った。
翌朝目が覚めたニトはメリーに抱きつかれて寝ていたことを知り、少し驚いたが、メリーが幸せそうに寝息をたてて寝ているのを見て、ま、いっかと思った。あと何故か唇が湿っているのを疑問に思った。