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正直すぎる



【ラーナ様

お手紙ありがとうございます。子の居ない私ではラーナ様のお気持ちの全てをお察しすることは叶いませんが、確かに受け止めました。ですが私はそれでも、ご子息の意志を一番に考えたいと思うのです。ラーナ様のお気持ちをそのままのご子息にお伝えしたところ、離れた手を再び取ることは難しいとのこと。私自身お二人のために何かして差し上げたいとは存じますが、共に暮らしているご子息が、ラーナ様とお会いすることで生活が変わることを恐れておられるので、お会いになるのは些か難しいかと存じます。子を想うお心をお持ちなら、どうかご子息の穏やかな生活を離れた場所で祈ってくださいますよう、お願い申し上げます。

アンキス侯爵家 ハーラニエール】



丁寧に、言葉を選びに選んで、書き上げた手紙。ロイの言葉は刺激的すぎたので、まろやかに柔らかに変換して綴った渾身の一通だ。ロイの母親からの返事を待っている間は、今にも泣きそうな状態のオーレライを前にしているかのような心地だった。


つまり、気が気じゃなかった。


それから二週間後。手紙の配達受領を示す印璽にある場所からして、私の手紙が届いてから間もなく返事を書いたのだろう。



「はあ?」



キルスが顔を顰めながら内容を検め、普段は耳にしないような反応が声になっていた。険しさを増す表情に不安になり、検め終え渡された手紙を恐る恐る開く。


読んでいく内に、私もキルスと同じ顔をしてしまっていただろうと思う。それほど、理解に苦しむ内容だった。



【慈悲深き第一夫人へ

筆を持つのも難しいほど忙しい身でありますので、簡単な言葉で書かせていただきます。私の願いをお受けいただきありがとうございます。息子が今の生活を気に入っているのなら、私は会えるだけで満足です。一度会えれば、息子も私もその一時を胸に生きていけます。ぜひ慈悲深き夫人にもお会いして今後について話せればと思いますので、領地へ向かうときにはまた手紙を出します。本当にありがとう。

貴女の理解者 ラーナ】



「…この方、正気?」



ラーナは文字を書けるのだから、正しく読めるはずだ。それなのに噛み合わない上に一方的な返事を前に、私は胸やら頭やらがドクドクと脈打つのを感じていた。


整理しよう。


私はロイの意志を尊重すること、その結果会わせる事ができないと書いた。


確かに私は相手の心情に寄り添う文章を冒頭に入れたことは憶えているが、それでも“会うことは難しいだろう”と書いているのだから、肯定と取られているラーナの手紙は可怪しい。


更に言えば会わないことで関わることも控えようと文章で促した筈なのに、その意図も汲まれることなく顔を合わせて【今後について話せれば】と求められている。



「キルス、どう思う?」


「次子様のお言葉を借りて『イかれてる』というのが適切な反応かと。」


「そ、いえ…思い込みが…その、ね?」


「御本人は目の前に居られません。ハッキリと申し上げても宜しいかと。この女ヤバいです。」


「正直すぎるわ。」



キルスが素直に言葉にしてくれるから、私はそれを宥めることで平静を保つよう努められる。


けれど本心は大いに、キルスの反応と同意見だ。



「来るわよね?」


「来ますね。しかも早いうちに。」



ラーナの中では領地へ赴くことが確定している。日取りも向こうの都合で、強いて幸いなことを挙げるとすれば領地へ向かうときに手紙を送ってくれるそうなので、前触れとして猶予が得られていることだろうか。


書き終わりに“理解者”と書くのなら、手紙の内容が正しく伝わっていて欲しかった。



「どうしましょう。先ずはロイ様、その後にイルエント様とクエンスト様、ゴーランとアマレナにも、子供達には…」



当人と大人たちには確実に報せた上で意見を伺うとして、ロイの母親であるラーナが襲来することを子供たちに話すのは抵抗がある。


ノクトールは幼いという年齢は過ぎているので大丈夫だとして、その下の子達は親の存在をどう思っているのだろうか。


会いたい、会いたくない、会えない、どの感情であれ、私が伝え方を誤れば、傷つけてしまう。



「慎重に、けれど迅速に。子供達についてもロイ様と相談した方が良さそうだわ。」



怒りを向けられることは覚悟の上だ。自分の手紙によって事が起きようとしているのだから。


キルスにはロイへ部屋への訪問の先触れを頼み、少ししてから私もロイの部屋があるらしい3階へ向かう。


一度も行ったことのない部屋へ行くのは、楽しい出来事であって欲しかったが。


ロイの部屋は階段を上がってすぐに見え、ノクトールに教えてもらっていたその部屋の前には先に行かせたキルスと、不機嫌な様子のロイ御本人が立っていた。



「アイツからの手紙のことだろ。場所を変える。」



それだけ言うと、ロイは私の横を通り過ぎて廊下を進む。


進路で予想していた通り、ロイは最奥にあるイルエントが居るであろう執務室の扉を叩かずに開いた。



「ロイ様、如何致しましたか?」


「イルに用がある。こいつ…あー、義理の…あの女も良いか。」



開かれたままの扉から声だけが聞こえる。許可を得られていない場所に、拒絶のために扉の前でだけクエンストに用件を話すことを許されていた場所へ入るには、まだ私の勇気が足りなかった。



「おい、さっさと入れ。」



ロイが苛立たし気に顔を出し、顎で中を示す。思わず“いいの?”と口を開きそうになりながら、余計なことを言って締め出されるのも話を進められないのも得策ではないので黙ってロイの背に着いていく。



「夫人がロイ様とお越しになるとは思いませんでした。」



にこやかな表情を崩さず、茶器を手にしたクエンストが私へ声を掛ける。


始めて入る部屋と顔を全く合わせないイルエントに緊張していたのだけれど、私の緊張を嘲笑うように、現在の部屋の主は居なかった。



「イルなら隣だぞ。よっぽどお前と顔を合わせたくないらしいなあ?」


「夫人、ご無礼をお許しください。イルエント様は恥ずかしが…いえ、失礼いたしました。あの通り、会話は主に聞こえておりますのでご安心ください。」



クエンストの取り繕う言葉を遮るためか、部屋の一角にあった扉の向こうから叩きつけるような激しい音が鳴った。苦笑いで説明を重ねたクエンストだったが、言い終えた後にも扉は殴られた。



「これがイルとお前の距離ってことだ。」


「承知しております。」



全てが気に入らないかのように、ロイの言葉に肯定する私の言葉の後にも扉は音を鳴らす。一際激しいその音に驚いて思わず肩を跳ねさせてしまったが、ロイが嗤っただけで会話として続きはしなかった。



「…夫人、それでお話をお聞かせいただけますか?」


「本当は当事者であるロイ様の後にと思っておりましたが、こうしてロイ様のご意向で執務室を訪問することになりましたので…」


「面倒くせぇ前置きは良い。要件だけ言え。」



本当にロイは短気というか、貴族が肌に合わない性格のようだ。


ロイの言葉に従うため、一度咳払いで言葉を切ってから私は先程の手紙をテーブルに置いた。



「ロイ様の母君との手紙のやり取りで問題が起き、それについてご相談しに参りました。」



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