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桜と星と初こいと《BL》  作者: 茶野森かのこ


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桜と星と初こいと51



***



ひなは(まき)の家を出た後、咲蘭(さくらん)高校に向かった。学校の門前には恋矢(れんや)が待っていて、ひなに付き添ってくれたらしい。学校での話は、恋矢が教えてくれた。


ひなは、文人(ふみと)の娘である事は伏せた状態で、槙に関する話はデマカセだと、自分の憂さ晴らしの為に、悪戯に噂を広めてしまったと学校に謝罪した。

何故、槙の事を知っていたのかについては、塾の帰りに、夜に遊び歩いてる生徒に声を掛けている姿を見かけていたり、咲蘭高校の知り合いから話を聞いて、槙が良い先生みたいなのが自分には面白くなかったと、理由をつけた。

槙を知った理由は嘘だが、槙が良い先生に見えて面白くなかったのは、正直なところだろう。

少し無理矢理な部分もあったが、恋矢が上手くフォローをしてくれたようで、ひなの謝罪を学校は受け入れた。

ひなには、本人が反省してるのもあり、また再び話が大きくなっても困るので、注意で終わらせたようだ。


だが、ひなが勇気を出して頭を下げてくれても、これまでの槙に関する話が無かった事にはならない。


一度生まれた疑念は簡単には消せない、それが教師という立場なら尚更だ。生徒が例え許せても、生徒の親は許せない。不透明な過去を持つ教師に、大事な子供を預けるなんて出来ないだろう。


槙の過去に起きた事は、例え真実ではない部分があろうとも、起きた事は事実だ。今だって、調べれば分かるかもしれない。当時未成年だった槙は、新聞や雑誌に名前が伏せられていたが、ヤクザである久瀬ノ戸(くぜのと)の事は載っていたし、文人の不倫相手が槙だと知る人間が、どこにも居ない訳じゃない。

ネットには槙だと分かるような情報も晒されていたし、全てが隠されているわけではなかった。


何より、例えそれが事実でなくても、それが嘘だったと信じられる人がどれ程いるだろう。一度信じてしまえば、その思いは簡単には覆らない。失った信用を取り戻すのは容易ではないし、そんな教師を雇う学校にも責任は求められる。


槙も、織人(おりと)が守られた今、何がなんでも自分の信用を取り戻そうとは思えなかった。不誠実かもしれないが、噂を否定すれば嘘になる。文人との思い出を、文人への思いを、罰を背負うと決めた事も。

ひなが許してくれても、全て忘れては幸せになれない。受け入れなくては、前へは進めない。


だが、前へ進む事は本当に正しいのだろうか。

槙は、そんな風に思うようになっていた。



***



生徒達には挨拶も出来ず、槙は夏休み中に学校を去る事になった。もとより、槙を辞めさせるべきだと保護者からの意見もあった、疑惑のある教師だ、当然の事だろう。

同僚達も、内心ほっとしているかもしれない。

槙は生徒達に慕われていたし、学校は噂話を理由にだけでは槙を切る事が出来ず、何かキッカケを待っていたのかもしれない。問題を起こした犯人が分かり、槙は責任を負って辞める事が出来る。この学校は、そういう方針だ。




職を失い、アパートも出る事になった槙は、暫くは母親の暮らすアパートに居候させて貰う事になった。

咲蘭高校とは少し離れている為、噂がここまで届く事はないようで、母親はその性分もあり、相変わらず忙しく毎日を送っているようだった。


久瀬ノ戸の家を出て、一人で槙を育てる決意をした母は、いつだって強く頼もしかった。ヤクザの娘だと近所で噂が回った時も、槙が文人の事で騒動になった時も、この母はいつも揺らがなかった。更に、田所家への謝罪にも一人で何度も訪れていたと後から知った時は、申し訳なさに頭が上げられなかった。


今回の事も、母は特別驚く事もなかった。ただ表情には出さないが、どこかほっとしたようにも感じられる。槙は職を失ったが、田所家と和解とまではいかなくても、話が出来たからだ。

そんな母の姿を見ていたら、ずっと不安を負わせていたんだと改めて思い知り、槙は親不孝な自分を呪った。


母は、そう、と頷きながら槙の話を聞いて、それから、「ちゃんと生きないとね」と、槙の手を強く握りしめた。たった一言だったが、そこには一言では言い尽くせない思いが詰まっているように思えて、槙はただ頷き返すので精一杯だった。


沢山の人を傷つけて、それでも生かされてきた、槙の事情を知っても、側にいてくれた人がいる。だから槙は、過去を抱えて、罪を背負って前に進もうと思えていたのだ。


その中で、どうあっても自分と向き合って見守っていてくれたのは、間違いなく唯一の家族で。なのに、まだ迷いの中にいる槙は、こんな息子でごめんと、唇を噛みしめる事しか出来ず、その細い手を握り返すばかりだった。





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