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桜と星と初こいと《BL》  作者: 茶野森かのこ


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桜と星と初こいと31




午後の部が始まると、部活対抗の障害物競走が始まった。

演劇部は予定通り、シンデレラの物語になぞらえ、男性陣が衣装や小道具を着用し、首にはしっかりと、部員募集のプラカードを下げている。更に、同じレースを走る他の部活の生徒にも了承を得て、ネズミや小鳥、猫の耳等の扮装をお願いした。部活対抗戦は、体育祭の箸休め的な競技でもあるので、皆面白がって好意的に受け入れてくれたようだ。


速水と田島は、それぞれのレースで芝居をしながら障害物を乗り越えていく。仮装と共に、オーバー過ぎる演技と、女装やプラカードのせいか障害物に苦戦を強いられる彼らの姿は、ばっちりと生徒の心を掴んだようだ。


「よっし、ウケてる!(まき)ちゃん、後は頼んだからね!」


バシッと、部長の折川に背中を叩かれ、槙は弱々しく返事をしながらスタートラインに立った。他の教師も乗り気のようで、動物の耳や小鳥の嘴を着けてくれている姿に、槙は恐縮しきりだ。「楽しみましょうね!」なんて声を掛けられ、苦笑うしかない。


そして、スタートの合図と同時に、槙は黒いコートを脱ぎ捨て走り出した。大きなリボンを腰につけた青いキラキラのドレスに、さらさらのロングヘアーのウィッグを身に着けた槙のその姿、歓声が沸き起こったのも束の間、それはすぐにどよめきに変わる。槙は二歩目を踏み込んだ瞬間、盛大に転げたからだ。


「くそ!ヒールなんて聞いてないからな!もう!」


槙がそう叫ぶと、心配のどよめきが笑いに変わった。槙が脱げたヒールを手に掲げて生徒にアピールすると、「槙ちゃんがんば!」「綺麗だよ!」と、歓声と笑い声が飛び交う。笑ってくれる生徒に感謝だ。


「あー、おしろのぶとうかいにいけるのねー!」


と、完全に棒読みだが、こればかりはいくら練習しても上達出来なかった。

だが、今回の演劇部の目標は、部員を確保する事、その為に、見ている生徒を少しでも楽しませる事が目的だ。良くも悪くも、槙の障害物を乗り越えながらの棒芝居、その奮闘っぷりは、演劇部のアピールには一役買っているようだった。


この後、舞踏会で踊っている振りをして、城から飛び出して行く芝居に入るが、その時に片方の靴をコースに置いていく演出が控えている。有り難い事に、同じレースを走る教師達も障害物に苦戦を強いられており、槙の一人舞台とはならず、ほっとした。


しかし、網をくぐるのが厄介だ。ウィッグは取れかかるし、ドレスやプラカードは引っ掛かる、ほふく前進すらしんどいというのに。横並びの教師達も同じ思いだろう。悪戦苦闘していれば、「シンデレラ頑張って!」とコールが沸く。それを力にどうにか網をくぐり抜け、次の平均台に足をかけた、その時だ。


「え、」


太陽の光を目でとらえた次の瞬間、視界がぐらりと傾き、目の前が真っ暗になった。


あ、倒れる。


瞬時にそう思った。頭の中は冷静だったが、どうしてか手足を動かそうとしても、動いている感覚がしない。


暗闇が頭の中を支配していく中、歓声が悲鳴に変わる、扉が閉まるように、槙の頭の中で音が遮断されていく。

その閉じ行く意識の中、織人(おりと)が自分の名前を呼んだ気がしたが、それに応じる力は、槙にはなかった。





***



意識が薄れる中なのか、意識が途切れた後なのか、槙は遠い記憶の中にいた。



小さな織人の手が、丸めた背中を撫でてくれている。

丸い大きな瞳を今にも泣きそうに歪めて、涙を溢さないよう必死に耐えて、「大丈夫だよ、怖くないよ」と、必死に励ましてくれる。


俺がなんで泣いてるのか、知らないくせに。


心の中で悪態をついて、純粋な瞳を見ればまた涙が込み上げてきた。ただ心配して、慰めてくれる、こんな幼い子供が、味方でいてくれる。

清らかな瞳の向こうに文人(ふみと)の記憶が蘇り、槙は織人の小さな手を、両手で大事に大事に握りしめて泣き続けた。


窓の外には、まるで嘘のように満開の桜が散っていた。





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