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桜と星と初こいと《BL》  作者: 茶野森かのこ


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桜と星と初こいと14



「なんで俺なんだよ、俺なんか誘う必要ないだろ。部員が欲しいなら、あんた目当ての女子が嫌でも寄ってくるだろ」

「いや、俺は演劇部の顧問じゃない…って、そうか、お前、部活の事とかあんま知らないのか」


織人(おりと)は学校をサボりがちだし、アルバイトもある、そもそも部活に入る気もないので、学校の部活事情は気にも止めていない。

眉を寄せる織人に、恋矢(れんや)は再びその肩を抱くと、そっと織人に顔を寄せた。


(まき)ちゃんが、演劇部の顧問になったんだよ」

「え?あいつ、手芸部の顧問じゃないのか?」


部活事情を知らずとも、槙の事だけはしっかり把握している織人に、恋矢は苦笑った。


「まぁ、槙ちゃんは手芸出来ないから、顧問って言っても、管理とか事務的な事する位だからさ。で、それならうちの部活も居るだけで良いから顧問やってって、演劇部に泣きつかれたみたいよ」

「そんなんで良いのか?」

「演劇部は、三年が卒業して一度廃部になってるからさ。だから、部員としては、演劇部の復活が一番の目標みたい。せっかく部員を集められたんだ、仮でもなんでも良いから、とにかく顧問の教師が必要だったんだよ」

「廃部になる前の顧問じゃ駄目なのか?」

「卒業生と一緒に勇退されただろ。お前、本当に学校に興味なさすぎ」


呆れ口調に言われたが、織人はどこ吹く風だ。織人にとってこの学校で大事なものは、最早、槙一択である。


「まぁ、そんな訳で、槙ちゃんは今、演劇部の顧問でもあるんだよ。手芸部の部長も、それなら演劇の衣装を作りたいって言ってるみたいだし、部活同士の相性は良いかもね」

「…つーかそれなら、槙よりカズの方が向いてるんじゃねぇの。後々の事考えたら、指導出来る奴の方が良いだろ」

「俺はダンス部があるから」


咲蘭(さくらん)高校が誇るダンス部は、部員数だけはナンバーワンの部活だ。恋矢は過去にダンス経験があるのか、なかなか筋が良いという。最初は恋矢目的で入った部員達も、やっていく内に向上心が芽生えてくるのか、大会での初勝利に向け熱い練習が繰り広げられている、とは恋矢の言葉だ。


「…だからって、あいつ大丈夫なのかよ」


それでも、織人が思うのは槙の事だ。ただ居るだけの顧問だって、仕事が無い訳じゃない、監督しなきゃならないだろうし、そうしたら今より仕事が増える筈だ、心配もする。

何より槙は、文人(ふみと)の墓参りを終えたばかり。桜が散っても、まだ文人に心を囚われているなら、精神的に参る事もあるんじゃないのか。


思考する織人をどう思ったのか、恋矢はふと唇に笑みを乗せると、再び顔を近づけた。


「もしかしたらだよ?部員足んなくて、槙ちゃんが女の子の相手役やるかも。もしさ、女の子が槙ちゃんに惚れ、」

「……」

「冗談だよ、睨むなって」

「…どのみち、俺の入部は無理だ」


アルバイトがあるし、今はそれ以外にもやらなくてはならない事がある。それは恋矢も分かっているのか、今度は潔く身を引いたようだ。


「はいはい。でも、いつでも部員は歓迎みたいだからさ。槙ちゃんも、織人がいると安心するだろうし」


ぽん、と肩を叩かれ、織人はやはり顔を顰めながら恋矢を見上げた。


「…あんたさ、何でそんなに応援してくれんの」

「今のを応援と思うなら、お前は本当に純粋だな」

「は!?」


ケラケラ笑う恋矢に、もしかしてただ面白がっていただけだったのかと、織人は勘違いに顔を赤く染め、恋矢を睨みつけた。しかし、恋矢としても、織人は年の離れた昔馴染み、織人の睨みなど、全く効いていないようだ。


「ふふ、まぁ織人の為っていうなら、どっちかって言うと槙ちゃんの為だね。もう槙ちゃんのあんな姿見たくないからさ」


人をからかっているかと思いきや、急にそんな事を言う。どこか力なく笑うその表情からは、槙の事を思っている様子が窺える。

だが、槙を思って紡がれたその言葉は、織人を少し複雑な気持ちにさせた。



織人は、槙の事を分かっているかと聞かれたら、分からない事の方が多いんじゃないかと思う。

織人だって槙を見てきたが、それは、槙と同い年の恋矢から見たものとは、きっと違う。


自分は子供だったから、槙の背中を擦るので精一杯だった。槙の悲しみの理由もほとんど分からずに、ただ、槙が笑ってくれれば良いとだけ考えていた。槙を悲しませる文人は、敵だとすら思っていた。

だから、文人なんか早く忘れてしまえばいい、そう思っていたけど、それが槙の為なのか、最近よく分からないでいる。


織人は、何も知らないからだ。文人の事も、文人を思ってきた槙の事も。


昔、文人について聞いた事があったが、槙は何も話そうとしなかった。話したくないならいい、それが槙の為だと思っていたが、本当は聞くのが怖かった。

寄り添おうとした所で役不足だと思われたら、もう、槙の側にいる事も出来ない気がした。

だから、何も知らないまま、ただ槙に気持ちを押しつけて、文人の事なんか放り出してしまえなんて。


そんな事、出来ないから槙はずっと苦しんでいるのに。



ぎゅっと拳を握ると、恋矢がふっと笑う気配がした。


「…まぁ、俺が言うと道徳的によくないけど、学生の頃から見てきてるからさ。早く卒業して大人になってくれよ、くらいには思うね」


またからかいだろうかと、織人は胡乱な目を向けた。変に言い返しても笑われそうなので、織人は溜め息と共に視線を逸らし、込み上げた言葉を飲み込んだ。


「…あんたの言い方ってまどろっこしいよな」

「頭良いんだから、汲み取って」


織人の精一杯の抵抗も、恋矢はひらりとかわすように、じゃあねと手を振って去っていく。その背中には、結局全て見透かされているような気がして、織人は小さく舌打ちした。


「…俺だって、早く大人になりてぇよ」


ぽつり零れた言葉は誰に届く事なく、地面に転がった。






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