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空にわらえば

作者: 大豆生田


心地よい風がすんすんと耳をなでる


今日はいいお天気だ。


翼を思いっきり広げてくるくると村の上を旋回していると、平和な村のみんなが見えてほっこりする。


「おーい、ルナ〜」


遠くから誰かが呼んでいるみたい。この声はきっとリィタだ。


「あ、リィタ! おはよう!」


リィタは、私が声をかけると翼を広げてさっと寄ってくる


「おはよう、村の上で何してるんだ?」


「んーと、お散歩かな」


「そうなのか、ていうか早くしないとお祈りの時間遅れるぞ?」


「あっ、そうだった!もう、お祈りの時間だよね」


「そうだよ、早くいこうぜ」


バサッと翼を広げて神殿までスイーっと飛ぶ。やっぱり空を飛ぶのって気持ちいいなぁ


神殿に着いて、他の御使いの子達と一緒に真ん中にある大きな水晶を囲む。


「みなさん、祈りを始めてください」


神殿のお姉さんのルイザさんが優しい声が聞こえると同時に、わたしたちは胸の中で人々の平和と幸せを祈るんだけど、祈りは変な感じがするから嫌だな。


胸のあたりがちょっともやもやっとして、その後にスッとそれがなくなる感じ。


わたしたちが祈り始めてからしばらくすると、黒く濁っていた水晶がほんのり光って元通りの透明になった。今日はいつもより少し、時間がかかったかな?


「はい、皆さんありがとうございました。また来週、お願いしますね」


と、ルイザさんが言う。


「ねぇ、リィタいまから、、」


いまからリィタと、昨日見つけた湖で遊びたいなと思ったんだけど、横にいたリィタがふらつく。


「大丈夫、リィタ?」


「あ、あぁ、大丈夫だ」


「どうやら、祈りで人間の世界の負を取り込みすぎたようですね」


「ルイザさん、リィタは大丈夫でしょうか」


「そうですね、しばらく時間を置けば良くなりますよ。でも、あまり負を取り込み過ぎると、本当に大変なことになってしまうので注意してくださいね」


「大変なこと?」


「はい。負を取り込み過ぎると、私達は御使いでは無くなってしまうそうです。邪悪で凶悪な下り人となってしまうそうですよ。」


「へぇ、そうだったんですね。はじめて聞きました。」


「リィタは、みんなより少し頑張り過ぎてしまうようですね。肩の力を抜いてみんなと一緒に祈っているということを意識しましょうね」


ニコッと笑うルイザさんは、まぶしいなぁ


「はい、わかりました。」


リィタはまだ少ししんどそうだ


「リィタ、歩ける?」


「うん、大丈夫。」


リィタは何か考えているのかな、ぼーっとしているような感じ


「帰ろっか!」


リィタが心配だし歩いてゆっくり帰ろう


「そうだな」


そして、私達はいつもよりゆっくりと歩き出す。


「そういえば、さっき何か言おうとしてなかったか?」


そうだ、綺麗な湖を見つけたからそこにリィタを案内したかったんだ。でも、


「何だったかなぁ、んー。また思い出したら言うね」


「そうか…じゃあ、また明日なー」


「うん! ばいばーい。」


手をぶんぶん振るとリィタもやれやれと言った顔で振り返してくれる。時間はまだ早いのに1人になっちゃった


「あの湖、まだ気になるし行ってみようかな」


勢いよく羽ばたいて空へ


夕焼けが世界を真っ赤にしてる


「ーー綺麗だな」


空を飛んで私はあの湖へ向かった。風が心地いい


夕焼け色になった翼をバサバサ仰いで風を切る。昨日見つけたばっかりの湖は、眩しく光を反射させていた


鳥の声を聞きながら、魔法を使って湖の上にそっと立つ


「わぁ、」


歩くとピチャピチャと足に水が当たって気持ちよくて、くせになりそう。水が跳ねてどこまでも波打っていく。



たくさん歩いて疲れた後に、ほとりで休憩しようと思っていると、


「こらこら、魔法をそんなに簡単に使うんじゃないわよ」


「あ、ママ! どうしてここにいるの?」


「ルナの魔法の力を追ってきたの。もう、心配したじゃないの、こんなところにいたのね。」


「そうだよ、ここすごくいいでしょ」


そう言って魔法で立ってる水面でくるりと回って見せる


「ルナは、どうしてそんなに魔法を使えるのよ。すごいけれど、その力に飲まれてしまわないように気をつけないとね」


「うん、気をつけるね」


なんとなく返事をして、そのまま今度は水の上でジャンプしてみる。楽しくて、つい顔が緩んじゃう


「ここでずっと魔法で遊んでたの?」


「うん。こうやって水面を歩くと気持ちいいんだぁ」


ママは、そう言ってる私の話を興味深そうに聞いてくれている。やってみたいのかな


「ママもやってみようよ」


「ママはいいよ、それにそんな器用に魔法を使えないわ」


「どうしてみんな魔法を使えないの?」


「えーとね、あっても私達御使いには必要ないから使わないのよ。だからみんな、そもそも魔法を使おうとしないの。」


「そっかぁ、すごく楽しいのになぁ」


「本当に使いすぎてはダメよ?さぁ、暗くなる前に帰りましょう」


少し呆れた様子でママがそう言う


「うん!」



帰り道、私はリィタのことが気になって、ママに下り人のことを聞いてみたいと思った


「ママ、下り人って聞いたことある?」


「下り人? えーと、そういえば私も祈りをしていた歳くらいの時に聞いたことがあるわよ。」


「どんな話だった?」


「そうね、確か、人間の負に飲み込まれた邪悪な下り人は、強大な魔法で御使いの国を滅ぼそうとした、という感じだったかな」


「それで、どうなったの?」


「下り人を御使い全員でやっつけたみたいよ」


「やっつける?」


「んー、御使いの世界から追い出したって言ってたかな?そんなに詳しくはママは知らないわね。」


「そうなんだ…」


この世界から追い出されたらどこに行くんだろう


「ママ、どうしたの? なんだか寂しそう」


「え?そう? きっとルナが寂しそうだったからね、うつっちゃったのかも」


なんだか寂しそうな、ママの手をぎゅっと握る


「そっかぁ、わたしは大丈夫だよ」


「ルナは本当に、優しくていい子ね」


ママの表情が和らいだのにつられて、私もいっしょにニッコリする




次の日、またいつもの水晶のところにやってきて祈りを始める


人々の幸福を、そしてみんなが幸せにずっと暮らせるようにと願う。すると、もやもやしたものが体に入ってきて、それがいつもみたいに消えなかった。


そして、それが大きくなって胸を締め付ける感じがする


「うぅっ、」


「おい、ルナ大丈夫か!」


リィタの顔が目に入る。なんとか耐えられたけど、リィタの心配そうな顔を見てると、わたしも辛い。


「うん、もう、大丈夫。」


なんとかもやもやが収まって良かった。


「最近、人々の負がすごい大きいですからね。次からは班の数を減らして、人数を多くして祈りましょう。」


ごめんなさいね、と言うルイザさんも辛そうな顔をしていた。


「いえ、わたしは全然大丈夫です!制御できるようにもっと頑張ります」


そういうと、ルイザさんの顔も少し緩んで、ホッとする。


「リィタも、大丈夫?」


「ああ、やっぱりいつもより少しキツかった気がするけど問題ない」


「本当? じゃあ、今日は帰り遊ぼ」


「いいけど、ルナは大丈夫なのか?」


「うん、わたしは全然平気だよ!」


「そうか、じゃあちょっと心配だけど…どこいくんだ?」


「おととい見つけた湖だよ」


リィタは、ちょっと疲れてるような感じがする


「行こ!」


そう言ってリィタの手を握って走り出す。きれいな、あの湖をリィタに見せられると思ってすごいわくわくしてる


「ルナ、湖ってどこにあるんだ?」


「えと、ここから太陽の方角にまっすぐだよ」


「遠くないのか?」


「すぐだよ。飛べば」


「飛ぶのって疲れるんだよな」


はぁ、と溜息を吐きながらリィタがそう言う、いやだったのかな


「やっぱり、今日は湖やめとく?」


「え、なんで?」


「いや、その…リィタがしんどそうだから」


それにリィタが楽しくないとわたしも楽しくないし


「ま、まぁ、そんなに早く行かないなら、大丈夫だ」


行こう、と今度はリィタに言われる。



しばらく飛んで、夕日に照らされた湖にたどり着く


「あ、あれが湖だよ」


ぱっと見つけた湖を指差す


その湖は昨日よりもキラキラしていて思わず見惚れちゃう


「おぉ、確かに綺麗な湖だな」


「そうでしょ、それに周りに咲いているお花も鳥もすごく綺麗なんだよ」


思わず胸を張って言う


リィタも湖にすごく見惚れているみたいだ


「それにねっ、」


わたしは昨日みたく湖に立って翼を広げ、


「湖の上のお散歩はすごく楽しいんだよ」


「…それができるのはルナだけな」


「いや、きっとリィタもできるよ!」


んー、とリィタが難しそうな顔をしている。なんだか面白い


「ほら、私の手を持って。足にね、祈りの時に使う力をぎゅっと溜めるの」


「ああ、やってみる」


「そう、それでそのままゆっくりと足を…」


リィタが足を踏み入れた瞬間、そのままリィタがドボンっと水に落ちる。


「きゃっ!」


手を持っていた私も一緒に引っ張られて落ちて、ぷはっ、と一緒に水面に顔をだしたリィタと目が合う


「ふっ、アハハハハっ」


おかしくて笑いが込み上げてくる。リィタも、おかしくって一緒になって笑う。


やっぱり、リィタといると楽しい


「よしっ、リィタ次は成功させるよ!」


「おう、まかせとけ」


胸をポンと叩くリィタ


「全然信用できないなぁ」


「おい、そこは信用してくれよぉ」


ハハハっと、また2人で笑い合う


「じゃあ、よろしくなルナ」


まかされた、と言ってリィタに手をとってもらい湖から上がった


「というか、足に魔法を貯めたらどうして立てるようになるんだ?」


「んーと、わかんない」


「え?、わからないのに立ててるのか」


「うん、とりあえず魔法が頑張れーって感じで私を支えてくれるの」


えぇ、と困った感じでリィタが私を見てる


どうやったらリィタにもできるように伝えられるんだろう


「とりあえず、やってみよう」


そう言ってまた、私はさっきみたいに湖にたって手を伸ばした


「こんどはゆっくりね」


リィタは、そろーりと足を伸ばしてゆっくり片足を置くと、


「おっ! 水がちょっと押し返してくる」


「おー、いい感じだね。そのままゆっくりと片足を、、」


また、ドボンと2人とも落ちた


「ぷはっ、ダメだったね」


「ちょっと惜しかったけどな。というか、これルナの手を借りる意味なくないか?!」


「あ、たしかに!」


おかしくってまた笑い合う。


そのあとも日が暮れそうになるまで練習してリィタは少しの間なら立てるようになった!



「ふぅ、疲れた」


「リィタすごい!今度は歩き方も教えてあげるね。」


「ルナは何もしてないような気がするけどなー」


「えー」


わたしが思わず不満そうな声を出すと、リィタはハハっと笑う


「でも、また魔法を教えてくれよな」


「うん!、約束ね」


リィタもなんだか嬉しそうだ




次の日のお祈りは、ルイザさんが言っていた通りいつもより多くの子達が集まっていた。


「みなさん、今日はいつもより多くの人達でお祈りしますが、負が大きくて水晶は真っ黒に染まっています。気を抜かずに、みんなで祈っているということを忘れないでくださいね」


そういってちょっと緊張した感じが漂ってる。


祈りを始めると、すぐにそれが大きくなって襲いかかってきた


みんなが苦しそうな顔をしてる。わたしも、もっと頑張らなきゃ…


いつもより強く祈ってしまった


リィタを、みんなを、助けられるように


するとぶわぁっと胸の中でもやもやが広がる


「ゔっっ…」


でも頑張る


乗り越えてまたリィタに魔法を教えてあげないと


「ーーあれっ?」


突然私の中のもやもやがスッとなくなる。すると、リィタの方が黒くもやもやと光りだす


「リィタ!」


リィタはすぐにその黒いもやもやに覆われた


「ルナ、離れてください!」


「いやだ、離して! リィタっ、ダメ!」


リィタはそのまま真っ黒に染められた、リィタがどんな顔をしているのかもわからない。


その真っ黒がリィタの中に入って行く


「ルイザさん、リィタは、、」


「…」


ルイザさんは黙っていて、何も返事してくれない。どうして? それじゃまるで、もうリィタが…


黒い物を完全に吸い込んだリィタは、いつもと変わらない普通のリィタ。けれど、すごく悲しそうな目をしている


「リィタ! 大丈…」


駆け寄ろうとした私をルイザさんが止める。


どうして?


「ルナ、もう彼は以前のリィタではありません…」


「どうして? リィタはリィタだよ」


「いえ、彼は下り人になってしまったんです。彼にはもう、この世界に居てもらうわけにはいきません。」


「じゃあ、どうするの?」


「御使いの、この世界から出て行ってもらいます。」


「で、でもリィタは何も悪いことはしてない! みんなを助けようとして頑張ったんだよ」


「えぇ、それは分かっています。ですが、、」


「なにも分かってない! だって、だってリィタは…」


泣いちゃダメだ。


絶対、絶対にリィタと一緒に帰る


「リィタは、優しくて、みんなのことを思ってて、あの黒いもやもやなんかで悪くなったりしないよ!」


「ルナ、それはあなたの気持ちでしょう。私達は御使いとして下り人を、、」


「リィタは、リィタだもん!」


ルイザさん、酷いよ…。どうして、リィタのことをそんな風に…


「ルナ、もういいよ」


「リィタ?」


「おれたちは、御使いだ。それに、おれはこの世界のみんなも、ルナのことも大好きだ。だから、御使いのみんなやルナが危険になる方が嫌だ。」


「リィタ、わたしは、、」


「ルナがおれのことを心配してくれてるのは分かってるよ。ありがとうな」


そう言って口元をにぃーっとして笑おうとするリィタ。でも、全然ちゃんと笑えてないよ…


「ルナ、リィタの言う通りです。辛いですけれど下り人が負によって得た力でたくさんの御使いを殺した過去は事実です。」


「うん…」


「そして、負の感情を持ってしまったリィタには、この世界を支配したり滅ぼそうとしたりする邪悪な考えの種が植えられてしまい、それはいつ芽を出すのかわからないのです。」


「でも、リィタは、きっとそんなこと考えないよ…」


「そうですね。けれど、その種が植えられたというだけで、私達とは違う生き物になってしまうのです。」


「追放されるとリィタはどうなっちゃうの」


「…追放されれば御使いとしての力は無くなり、人間の世界で生きて行くことになります。」


「もう、会えないの?」


「私達、御使いが行きていくことができるのはこの世界だけです。なので儀式によって力を失って追放された人に会うことはできないと思います。」


「どうしても、追放するの?」


「ルナ。あなたはお父さんやお母さん、御使いのみんなが嫌いですか?」


「そんなことないよ、大好き…だよ」


「その大好きな人が傷付き、死んでしまうかもしれないのですよ?」


「うん…」


「それに、リィタは追放されるといっても死んでしまうわけではありません。」


「人間の、世界で暮らすの?」


「そうです。そこでリィタが幸せになるように、私達が毎日祈り続けるのですよ。」


いつもみたいに、優しく笑うルイザさん


胸がぎゅっと苦しかったのが少しマシになった…のかな。だけど、わたしは祈りを通してリィタの幸せを願っても、それを見ることはきっと、できない


「あの、少しだけ時間をもらえませんか。」


リィタがそう言う、少しびっくりした


「そうですね…」


ルイザさんはちょっと何かを考えてる


「儀式に少し、時間がかかります。信じていますから一刻ほどしたらここに戻ってきてくださいね。」


「はい、ありがとうございます。」


そう言ってから、リィタはこっちに歩いてくるけれど、わたしは下を向いちゃう


「ルナ、行こう」


「どこに?」


「昨日のとこ、湖の」


昨日の、そうか、リィタはあそこを気に入ってくれてたんだ


「うん、わかった」


あと、たったの一刻でリィタは…


そう思うとなかなか足が前に進まない。


けれど、リィタがそう言うなら行こう


「…」


何か喋りたいなと思うけど、きっと悲しい言葉しか出てこない。そう思うと何も喋れない


湖までの道中を木漏れ日が光らせている。いつもだったら、綺麗だと思ったのかな


「ルナ」


湖についてようやく喋ったのはリィタだ


「もう一回、魔法を教えてくれ」


「…えっ?」


「ほら、また教えてくれるって、約束しただろ?」


「立つ練習?」


「そうそう」


「でも、1日でできるかなぁ」


「そうだな、ほら、でもやってみないとわかんないぜ?」


そうだ、昨日、わたしはリィタと約束した。だから、これから一緒に居られなくなるとしても、それでも教えてあげたい


「うん、じゃあ絶対に立てるように特訓だね」


「ああ、よろしく頼んだ」


「えーと、じゃあ昨日の続きだよ」


足に魔法を貯めて水面に立って、わたしは歩く


「お、おい、待ってくれよ」


そういってリィタもゆっくりと、ついてくる


あれ、付いてこれてるの?


リィタはそろりそろりと水面で歩いてくる


「リィタ、すごい!」


「なんだろう、昨日よりすごいやりやすいんだ」


「それって、あの、黒いやつのせい?」


「んー、どうだろう、でもこうやって歩けてるからまるもうけだな」


にぃっと笑うリィタ


「じゃあ、次は走ろ!」


「おーい、まてよ~」


走ろうとしてリィタは踏み出すけど、そのままドボンっと水しぶきを上げて落ちた


「走るには、まだ練習がいるみたいだね」


「ぷはっ、ルナは意地悪だなぁ」


「走れるように、頑張ろー」



そのあとも、走って落ちてを繰り返す。


たくさん走って疲れた後は、湖のほとりで少し休憩


「は〜、疲れたぁ」


「結構走れるようになったよね」


「そうだな」


「もうすぐ戻らなくっちゃね」


「あぁ…」


どんなに、楽しくってもこれが最後


そう思うと胸がギュッと苦しくって、寂しくって…


「ルナ、おれは負の力のせいだとしても、こうしてルナと一緒に湖で遊べて本当に良かった。」


そう言うリィタはすごく穏やかな顔をしていた。リィタは、本当にこれでいいのかな


「リィタは…寂しくないの?」


「それは、もちろん寂しいよ。でも、今まですっごく幸せだったし、みんなを守れるならって、思う」


「わたしも、すっごく幸せだったよ。でも、リィタが本当に追放されなくちゃいけないのかなって…」


「ルナはほんとにいつも優しいよな。でも、ルナもみんなもすっごく優しくて、大切だから守りたいって思うんだ。」


リィタがいつもは言わないようなことを言うから、少し恥ずかしいな


「て言っても、なんでおれだけ、とか、負の力とか別に大丈夫だろー、とかちょっと思っちゃってる自分もいるんだけどな」


えへへ、と笑うリィタ。だけど、やっぱり少し寂しそう


「リィタ…」


「でも、おれのせいで、もしみんなが傷ついたら、それが一番悲しいっておれは思ったんだ。」


「わたしもね、わたしも、リィタのことすごく大切だって思ってるよ。だから、リィタが追放されてどうなっちゃうんだろって、すっごく心配だし、リィタが寂しそうだと私もすごく寂しい。」


「ありがとな、ルナ。ルナがそう思ってくれてるだけで、すごく勇気が出てくる気がするよ」


リィタは、また、穏やかな表情をしたままそう言う


「そろそろ、時間だな。戻ろっか」


リィタはすごく、強くて優しい。けど、わたしはそんなリィタのために何もしてあげることができない。


わたしは、弱くてちっぽけだ…



神殿に戻るとルイザさんと、他の神殿の人たちが私たちを待っていた。


「よろしいですか、リィタ…」


「はい、お願いします」


リィタがそう言うと、ルイザさんと神殿の人たちはリィタを囲んで何かを唱え始めた


もう、本当にリィタと会えなくなるんだ


リィタの方を見ると、リィタもわたしの方を見てた。湖の時よりずっと辛そうで、それをひっこめるように無理矢理に笑っていた


いやだ、リィタのあんな顔見たくない


リィタはずっとこの先、一人で辛いのに、わたしは何もできない


何もできないままで本当にいいのだろうか、もしかしたら他に誰も傷付かない方法がないのかな


みんなも、リィタもあんなに辛そうなのに


そう思った瞬間、わたしの体はリィタの方に駆け出す


「リィタ!」


儀式をしている人たちの間に割って入って、リィタの手を握る


「行こ!」


おどろいてるリィタをよそに、わたしはリィタを抱っこして、そのままおもいっきり飛ぶ


「こらっ、待ちなさい、ルナ!!」


ルイザさん、ごめんなさい。


でも、わたしはまだ、諦めたくない


「ルナ?」


「ごめんね、リィタ、辛そうなみんなやリィタを見てたら、やっぱりおかしいって思っちゃった」


「でも、おれは…」


「うん、リィタはみんなのために追放されようとした。でも、もし他の方法があったら、きっと後からすごく後悔する。」


みんなが、悲しくなるこんな方法は、きっと間違ってるよ


だから、わたしはみんなが笑顔になれる方法をさがしたいって、心からそう思う


「あ、あそこいいかも!」


森の木々を抜けた先に、ひっそりとした小屋があった。


「ここに、隠れよう」


この世界は、広くない。しばらく、真っ直ぐ飛べば、すぐに世界の端についちゃう


わたしたちは、世界の端からそれ以上先へは進めない。


御使いが住む平和な世界は、大きくなくても大丈夫だから神様が作らなかったとママは言っていた。


だから、隠れないとすぐに見つかっちゃう


「ーーリィタ?」


「ルナ、これから、どうするんだ?」


「わからない、でも、探せば何かきっと見つかるよ」


「とりあえず、入ろっ」


リィタの手を取って家に入る


「こんなとこ、あったんだな」


「そうだね、わたしも初めて知ったよ」


ふと、目の前を見るとちょうど二人分の椅子と机があった


「リィタ座ろー、疲れたし」


「うん」


「ふー、よしっ、作戦会議だよ!」


「こうなった、ルナは誰にも止められないな」


そう言って、ハハハっと笑うリィタ


わたしは、リィタの覚悟を無駄にしちゃったのかも…しれない


でも、その選択をきっと、後悔はしてない


「んー、これからどうしよう」


「方法を探すのか?」


「うん、だけどなんの手掛かりもないよぉ」


「おれの中にある負は、あのでっかい水晶か、来たんだよな」


「うん、そうだね」


「じゃあ、それを水晶に戻したりはできないかな」


「それだ! 早速、やってみよう」


「おい、待て待て。いま戻ってもすぐに見つかって捕まえられるって」


「あ、それもそうだね」


少し落ち着かなくっちゃな


「とりあえず、少しでもできそうな案があったら出していこう」


案かぁ、何かあるかな


黒いもやもやを外に出す方法も思いつかないし、みんなを説得する方法も思いつかないなぁ。あ、でも、みんなを頑張って説得するっていうのも一つの案なのかも


「んー、じゃあ例えばみんなを説得する、とかどうかな」


「でも、どうやって説得するかだよなぁ」


「やっぱりそっかぁ」



そのあともわたしたちは思いつく限りの案をたくさん出した。


結局、その中の、水晶に黒いもやもやを戻せないかっていうのと、魔法を使い切ることで黒いもやもやが無くならないか、という二つの案を試してみようということになった。



「もう、すっかり外は夜みたいだね」


「そうだな。明日は早朝からでることになるから早めに休もう」


「いっぱい魔法使って、もやもやを外に出すんだよね!」


「そうだけど、別に遊ぶわけじゃないからな」


「わかってるよぉ、でも、よかった」


「え、なにが?」


「いや、その、リィタはわたしに無理矢理、連れて来られたのすごく嫌だったのかなって思ってたから」


「そうだな」


「えっ、」


「でも、ルナの言う通り、後から方法が見つかったらきっと後悔するって思ったんだ。だから、諦めなくて良かったって今は思ってる」


よかったぁ


「そっか、じゃあ明日から頑張ろー!」


「そうだな」


わたしは自分の気持ちをただ、押しつけちゃっていると思ってたから、リィタがそう言ってくれることはとっても嬉しいな



次の日、目が覚めたらすぐにリィタに急かされて、その小屋とお別れする


「眠たいなぁ」


ふぁーっとあくびが溢れる


「あっ!」


森の中を歩いていたら、木に囲まれた少し広い場所を見つけた


「あそこ、いいかもな」


「うん、行こっ!」


「ここだったら、見つかりにくそうだな」


「だね、じゃあ早速、」


んーと、一番魔法を消費するのってなんだろう


「リィタ、ちょっとみててね」


地面に手を当てて、魔法を両手に流していく


動け〜、動け〜


「おっ! すげぇ、地面がうねうねしてる」


「魔力をたくさん流せば、もっと大きくうねうねさせたり、範囲を大きくしたりできるよ」


きっと、いまのリィタなら広い範囲でこれをできるはずだ。だけど、目立っちゃいけないから薄く伸ばして使ってもら…


「でも、これどこで使えるんだ?」


「えーと、ただ遊んでたらできたから、使い道とかわかんない」


「さすが、ルナだな…」


そういいつつ、リィタは地面に手を当てる


「そうそう、それで魔法を手に流して、動け〜、動け〜って感じだよ」


「えぇ、」


こまってるリィタ。


んー、もう少しわかりやすい言葉ないかなぁ


「えーと、魔法を地面に流して包む感じ、かな?」


「それでも、わかんないなぁ」


不満を言うリィタだけど、それ以上はなんて言ったらいいかわかんないや


「とりあえず、やってみるよ」


「うん、やってみよう」


んー、と魔法を溜めて唸るリィタはちょっとおかしくって笑っちゃいそう


「はぁ〜、だめだ。まず魔法が地面に伝わんないんだよなぁ」


水の上は、結構すぐにできたけどやっぱりこれは、ちょっと難しいのかな


「あ、じゃあ、水の上ではできたんだし、足でやってみるっていうのはどうかな?」


「水の上に立ったときと同じようにやるのか?」


「そうそう、水の時よりも強く、力を込めてね」


「わかった、やってみる」


「…どう?」


「んー、さっきよりはいけそう? かも」


「すごいねぇ、リィタは足専門なのかも」


「というか、これだったらもっと見つかりにくい森の中でも良くないか?」


「あ、たしかに!」



そのあとも、森の中でリィタと一緒に練習してて、何も変わらないこんな日々が続いたらいいのになぁってすごく思う。


「おっ!」


しばらくすると、地面がうねうねと動き出してきた


「できてるよリィタ!」


「なるほどこんな感じでやるのか」


「もう少しおおきくできる?」


「うん、やってみる」


ふんっ、とリィタが言うと地面が大きく盛り上がる


「きゃっ!」


盛り上がった地面に飛ばされちゃった。びっくりしたぁ


「ルナ!」


「へーきへーき、ちょっとびっくりしちゃっただけだよ」


これが人間だったら怪我とか、血が出たりしてたのかな


「ごめん…ほんとにごめん」


「大丈夫だよ! ほら、私たち御使いだし。」


そうやって元気そうに手をぶんぶん回す


「あっ…」


すると、突然リィタが何かに気づいたような声を上げる


「どうしたの、リィタ?」


「ルイザさんだ」


魔法に夢中でまったく気付かなかった。


わたしたちはルイザさんたちに囲まれていた


「ルナ、ようやく見つけました」


「ルイザさん、わたしたちはあの黒いモヤモヤをなんとかできないか色々試しているんです。」


「はい、知っています。私達も少し様子を伺っていましたが、やはりリィタのその魔力は危険です。」


「でも、わたしは怪我してないよ、ほら!」


「いいえ、負の魔力を込めれば御使いを傷つけることもできるのですよ。」


「そんな…」


「ルナ、私達を困らせないでください」


「…リィタ行こ!」


くるっと振り返ってリィタの手を取る


「待ちなさい!」


すると、ルイザさんの手には弓のようなものが構えられていた


「えっ…」


「動くと打ちます」


ルイザさんはすごく悲しそうに唇をぎゅっと噛みしめる


「こんなこと、させないでください…」


こんなルイザさんの顔は初めてみた


悪いことをしたような気持ちで、胸が苦しくなる


でも、


「リィタは渡しません!」


リィタの前に立ってそう言い切ると同時に矢が放たれた


「!!」


矢は私の肩を掠め、肩の傷から魔力が溢れ出る


「なんでっ…」


御使いは傷つかないし、傷つけられないのに


「これが、負の力の恐ろしさです」


そう言うルイザさんが放った弓矢の先端には、あの黒いもやもやが込められていた。


ツーンとした刺激が、肩に走る。


これが、痛いっていうことなのか


すごく辛くて、怖い。力が抜けて、片膝をついてしまう


「なんでだよ…」


声を上げたのは、リィタだ


「なんで、ルナが傷つかなきゃならんないんだよ!」


黒いもやもやがリィタを包もうとして、それと同時に地面がうねうねと動き始める


「リィタっ、だめ!」


またリィタの手を取り、ルイザさんたちが動揺している間に急いで空へ飛んだ


「リィタ! わたしは大丈夫だよ」


「ルナ、でも肩から魔力が…」


「もうほとんど治まったよ、すこし掠めただけだから。」


それより早くここを離れなくちゃ…


「ーーここなら、もう大丈夫かな」


ほとんど、世界の端まで来ちゃった。


目の前にある小川の先は海になっていて、多分そこから先には進めない


「ルナ、おれはさっき自分の感情を抑えきれなかった。」


「リィタは、何もしてないよ」


「いや、あのままルナが止めてくれなかったら、きっとあの黒いものに取り込まれて、ルイザさんやみんなを傷つけていた。」


「でも、リィタはその気持ちを自分で抑えたじゃん」


「抑えれたけど、次はどうなるか分からない…それに、おれのせいでルナも傷ついた。おれは…おれはもうこの世界には」


リィタに、また黒いもやもやがうっすら出てる


「大丈夫だよ、リィタ」


辛そうな顔をしたリィタをぎゅっと抱きしめる。


「きっと、大丈夫だから」


辛くても、方法を探し続けよう、もう誰にも傷ついて欲しくないから


「でもおれはまた誰かを傷つけてしまうかもしれない」


「そのときは、またわたしが止めるよ」


「でも、おれのせいで、ルナも」


「大丈夫、わたしはリィタといれてすっごく嬉しいから。」


「理由になって…ない…よ」


リィタは何かを堪えるようにそう言うと、いつもの優しい表情に戻っていった。黒いもやもやは、すっかりなくなったみたい


ありがと、と言って笑うリィタを見ると、本当にお別れしたくないって思う。だから、方法を探さなくちゃいけない


ふと、見えた海がすごくキラキラしていた


「ねぇ、海の方行ってみない?」


「うん、行ってみようか」


すっごく久しぶりに海に来たけど、やっぱり海っていいなぁ


「綺麗だな」


「うん、そうだね」


どこまでも続いているように見える海だけれど、これ以上はわたしたちは進めない


飛んで進もうとしても、押し戻されてしまうのだ


「なぁ、人間の世界ってどんなところなんだろうな」


「どうなんだろうね、でもあの黒いもやもやが人間の世界にはたくさんあるんだよね」


「そうだな、でも、おれたちはその黒いもやもやがどこから来るのかとか、祈って浄化したらどうなるのかとか、知れないんだよな」


「えぇいっ!」


わたしがすくいあげた海の水は思いっきりリィタの顔にかかる


「うわぁっ、なにするんだよルナ!」


「えっへへ、リィタが怒ったぁ」


「おりゃぁ!」


「うぁっ、やったなぁ」


わたしは魔法も使ってできるだけ多くの海の水を


「とりゃあ!」


かける


「う、うわぁぁ!」


リィタにドボンっと大量の水がかかる


「アッハハハ、リィタびしょびしょだね」


「くそぉ」


仕返しを期待したけれど、リィタはもうやめちゃうみたい



それから、しばらく海でいろいろあそんでたら、ルイザさんたちが飛んでくる気配がした。


「はっ、リィタこっち!」


リィタを連れ急いで森に入る


「ふぅ、あぶなかったぁ」


「ルイザさんたちか?」


「うん、ちょっと気をつけてたから今度は気づけたよ」


「そうなのか」


「あっ、そうだ今のうちに戻って、黒いもやもやを水晶に戻せないか試す?」


「ルイザさんたちはしばらく戻らないだろうし、やってみる価値はあるかもな」


「よし、じゃあ行こ!」


上は見つかっちゃいそうだから、しばらくは森の中から行こう


「森から急いで行こう」


「あぁ」


翼を広げて、二人で森を進む。


上よりはどうしても遅いけど、まさか神殿に戻るとは思っていないだろうからきっと大丈夫だ


「神殿までは、さすがにちょっと遠くないか?」


「たしかにそうだね、急ごう!」


そういって、わたしたちはできる限りスピードをあげる



しばらく、飛んでたら森の出口が見えて来た


「森を抜けたら、空から急いで行こう」


いつもだったら楽しんでる周りの景色も、今は綺麗って思えないな。


とにかく、わたしたちは急いで神殿に向かう。


向かう途中で、隣で飛んでるリィタの顔を見ると、なんだかリィタが暗い顔をしていた。疲れたのかな、一旦止まろう


「どうしたんだ?」


止まったら、リィタの顔から暗さは無くなっていた。気のせいだったのかな


「いや、リィタ、疲れてないかなって」


「全然大丈夫だ、いまはとにかく急ごうぜ」


「うん、そうだね」


そっから、ひたすら飛続ける


「あ、見えて来たよ!」


「ルナ、止まって」


すると今度はリィタが止まる


「目立つからここからは下からいこう」


「うん、そうだね」


「村を回って、裏から神殿に入ろう」


「わかった」


そこからは、慎重に神殿に向かう


「神殿の裏には誰もいなさそうだね」


「そうだな、いまのうちにこっそり入ろう」


「うん」


儀式が終わった後なのか、水晶らもうすでに浄化されて透明になっている


「ちょうどよかったね、でもどうやって戻そうか」


「うーん、検討もつかないなぁ、とりあえずいつもみたいに祈ってみるか?」


「うん、とりあえずなにかやってみようよ」


「そうだな、いつもみたいに祈ってみるよ」


「……どう?」


「全くだめだ、何も感じない。」


やっぱりいつものやり方じゃだめかぁ、どうしたら戻せるんだろう。いつもは、みんなの幸せを祈って浄化させるから…


「あっ!」


「うわぁっ、なんだよ急に」


「いつもは、幸せを願ってるから、今度は人々の不幸を願ってみたら負が戻せたりしない?」 


「なるほど…でも不幸って具体的にはどんなことを願えばいいんだ」


「それは、わかんないなぁ」


「そうか…」


「あの黒いのはどういう時に出るの?」


「んー、なんだろうなぁ、怒った時とかかな」


「あと、すごく悲しそうな時にもあのもやもや出てたよね」


「あぁ、感情で出てくるのかもな」


「じゃあ、悲しいこと、考える?」


「それは…いやだ、またあれに飲み込まれそうになるのは、怖い」


「そうだよね、ごめんね」


「いや、なんでルナが謝るんだよ」


「また、辛い思いさせちゃったかなって、やっぱり悲しい気持ちはいやだもんね」


そうだ、水晶にリィタの幸せを願ってみよう


「…ルナ?」


「んー、やっぱり私が祈ってもだめみたい」


えへへっと、笑ってリィタの顔を見ると、また寂しそうな顔をしてた


「ルナ、ごめんな」


「え、なんで?」


「ルナはいろいろ頑張ってくれてるのに、おれ、何もできなくって、怪我もさせちゃって、」


「そうだね」


「…」


「でも、わたしがリィタに幸せでいて欲しいって思ったのは、わたしのわがままなんだよきっと。」


あのとき、もうリィタは決心していた。でも、そのリィタを無理やり連れてきたのは、わたしの、わがままなんだ


「だから、わがままに付き合わせてるわたしも、ごめんね。」


「ルナは、優しすぎるよ…」


「えっ」


「ありがとな、いろいろ」


「うん、ありがと!」


そう言ってやっとお互い笑顔になる。


なんだか、久しぶりに笑い合った気がするなぁ



そのあとも、僅かな希望にかけていろいろ挑戦したけど、わたしたちの祈りは、全然届かなかった


「そろそろ、戻ろうか」


「そうだね。日が暮れる前に村の外れまで出ないとだし」



神殿の裏からこっそり抜け出して、村の外れへと出た。


長かった1日が終わろうとしてる


もし、全部が解決して大丈夫になったら、今日のこともいい思い出になるのかな


村にはもう戻れない。リィタは、何も悪いことしてないのに、村の中にはもう居場所がない


だから、そんなリィタを放って一人になんてできないよ


「ねぇ、リィタ」


「ん?」


「わたしは、リィタと一緒に入れてすごく楽しいんだ」


だから、諦められない


「リィタを連れ回してきたのも、ただ、そうしたいって思ったから、体が勝手に動いちゃうっていうか、我慢する方が大変っていうか、」


なんて言えばいいんだろう


「ルナ、おれはさ、諦めたくないとは思っていたんだけど、みんなを守りたいって気持ちの方が大きかった。」


「うん」


「だから、追放されてでも、みんなが傷つかない方が大事だって思ってた。」


「そうだよね…」


「でも、ルナと一緒にいて、ルナとずっと一緒に…この世界でずっと生きていきたいって、そう思っちゃうようになったんだ」


「わたしも、リィタにずっと居て欲しいよ!」


リィタはニッコリしてありがとう、と言って続ける


「だからこそ、ルナにはずっと幸せでいて欲しいってそう思う。そんなルナが、自分のわがままだって言っておれを助けようとしてくれたのが、すごく、嬉しかった。」


「リィタ…わたしもね、」


なんだろう、この気持ち…。すごく、あったかい。


わたしも、嬉しいのかな


「わたしも、リィタに幸せでいて欲しい。それに、一緒に居られてすっごく嬉しいよ」


「うん…ありがとう」


そういって、リィタのあったかい体がふわっとわたしを包む


あったかくて、体がぽわぁってなって、怪我をしてるわけでもないのに、胸がぎゅっと痛くなる


「リィタ…泣いてるの?」


リィタの震えが、体から伝わってくる


「いや…、泣いて…ない」


「じゃあ、泣き止むまでこうしてるね」



わたしは、リィタの泣き顔をみることなく、しばらくリィタに包まれていた。


幸せで、暖かい時間はあっという間に過ぎ、それから野営の準備なんかをして、辺りはすっかり真っ暗になってしまった。


「こんな森の中だけど、眠たくなってきちゃったなぁ」


あしたも早く起きるなら、早く寝なくっちゃ


「ルナは先に眠っててもいいぜ、おれは少し、眠れそうにない…」


「そう、じゃあ先に…」


わたしは疲れでそのまま深い眠りに落ちた…




「ーーはっ!」


目が覚めると、リィタがいなかった。森のどこを探しても、湖の方を探してもいなかった。


きっと、リィタは神殿にいる。そう思い、急いで神殿に向かう


リィタは自分から神殿に向かったの、かな


わたしや、みんなが幸せでいて欲しいって思って


だとしたら、わたしはリィタの邪魔をしているだけなのかな…



神殿に着くと、リィタの儀式が既に始まっていた。


「リィタ!」


駆け寄ろうするけど、ルイザさんに止められる


「ルナ、リィタは自分で決心してここにいるんですよ」


「うん…」


「ルナ、聞いて」


リィタの声がする。


でももう、二度とその声を聞けなくなってしまう


「勝手に抜け出してきて…ごめん。でもさ、きっとこうしないとルナは、優しいからさ、おれを止めようとしてくれるだろ」


リィタが話してる間も、リィタを囲む御使いは魔法を唱えて儀式を進めてる


「それに、おれもルナとずっと一緒に居たいから、ルナの言う通りにしちゃう。」


「だったら、諦めないで探そうよ…わたしに、優しくさせてよ」


また、わたしのわがままだ


「そうしたい、けど黒いやつはだんだん大きくなって、自分を保てなくなってしまう気がした。だから、傷つける前に…ルナを好きでいられる間に、この世界とお別れしようと思ったんだ。」


「リィ…タ、や…やだよ」


涙がリィタの顔を見えなくする


「この世界で、ルナに…出会えたから、生きててよかったって…思えた」


潤ったリィタの声はわたしの胸を、肩の怪我よりもずっと強く痛めつけた。


初めて見る、リィタの泣き顔も、涙でよく見えない


リィタの周りがほわぁっと白く光出す


「ほんとに…ありがとう。」


わたしだって、リィタにはたくさんありがとうって言わなきゃ


リィタの幸せを願ってるだけじゃなくてわたしは…


白い光が眩しくリィタを包みこんでいく


「大好きだよ、ルナ」


リィタの言葉に胸が熱くなる。


そうだ、わたしは


「わたしもっ…」


翼を開いて、足に魔法をこめ、全力でリィタのもとへ飛ぶ


「わたしも、リィタのこと大好き!」


届けっ、届け!


「だから、ずっと一緒に居たい!」


これはわたしのわがままだ。


これからの人生をリィタと歩いていきたい。


こんな気持ちでわがままになるのは、御使いとしておかしいのかも知れない。でも、それでも、わたしの中の一番がリィタだって、気付いたから。


「ーーー!!」


白い光が、より一層強くなり、わたしとリィタを包み込む


死んじゃうのかな


このまま目が覚めなくなってしまったらどうしよう


でも、なんだか、すごく安心できる


リィタと一緒ならなんでも乗り越えられた


だから、きっと大丈夫って、そう思える




「ーーナっ、ルナ!」


目が覚めたらリィタの顔が見えた


「ここ、どこ?」


「多分、人間の世界じゃない…かな」


わたしの質問に、いつもと変わらないリィタがそう答える


「あれっ、翼…無くなってる」


「そうだな、でもおれは苦しかった黒いやつも無くなって、やっと自由になれた」


そう答えるのは、やっぱりいつもと変わりないリィタ


「リィタ…!」


思いっきりリィタに抱きつく


「うわぁっ!」


「もう、ずっと一緒だよ!も、もう絶対バラバラに…な…ならな…」


嬉しい気持ちがわたしの言葉をさえぎって、代わりに涙が溢れた


「あぁ、もうずっと一緒だ」


リィタの手は暖かくって、優しくわたしを包んでくれた


「好き…だよ、リィタ」


いままでにない感情がたくさん込み上げてくる


リィタに出会えてほんとによかった


翼は無くなっちゃったけど、いままでで一番自由で


リィタと二人なら、どこまでも飛んでいけそうな気がした

ご拝読、本当にありがとうございました!

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