第6話 冒険者登録に本名って情報リテラシー的にどうなの?
※作者はアホです。「誰もやってない事」が大好きです。思いついたら実証したくて止まりません。是非お付き合い頂いて、その暴走の顛末を見届けてくださいませ (≧▽≦)
SF空想科学 にて ベイビーアサルト 第一部を連載中。
そして ハイファンタジー(転生/転移)にて 第二部 ベイビーアサルト・マギアス を同時進行。
第一部での伏線を第二部で回収、またはその逆、もある仕組みです。
両方合わせてお楽しみください。
「登録名『テオ=ブロマ』様、お待たせ致しました。冒険者カードのご用意が出来ました」
ギルドの受付嬢から声がかかり、木造りのテーブルに肘を乗せていた女性が立ち上がる。手足が長く、美しい容姿だ。
「これで登録は終了っと」
女性はそう言って戻ってくると、正面に座る女性、仲谷 春が訊ねた。
「本当にその名前で良かったのですか? 咲見ゆめさん」
「ええ」
咲見ゆめ、と呼ばれてた女性はにっこりしながら頷く。訊ねた女性は笑いかけた。
「本当にその単語にこだわるんですね。『テオブロマ』、どんな意味なんでしょう?」
「ああ、はい」と咲見ゆめは前置きして、目じりを下げて内側から湧き出るような優しい笑みを浮かべた。
「‥‥欧圏の言葉で神の食べ物‥‥みたいな意味らしいんです。私の大切な思い出。そのキーワードなんですよ。私はUC-003に搭乗するのが内定してたので、軍の人に『自分の愛機なんだから、好きに名前を付けていいよ』と言われて。なんか、ふれあい体験乗艦の子供が付けた名前は、その後正式に軍が運用する時に引き継がれるそうなんです。その機体は撃破されないジンクスがあるとかで」
「‥‥そうだったんですね。それで、この世界の名乗りも『テオブロマ』にちなんで、と」
「はい。職業柄、本名と芸名を使い分けてたんで。この世界に来た時には咄嗟に『咲見ゆめ』って名乗りましたけど、今日から私は『冒険者 テオ=ブロマ』です。ふふ」
彼女は目を細めた。仲谷もつられて笑う。
「職業ですか‥‥‥‥ああ、アッチの世界では、『モデル』さんだったんですよね?」
「ああ~~、はい」ポリポリと顔を掻く。
「恥ずかしいんですけど一応、そうだったんですよね。みなと市ローカルのお仕事くらいしかしてなくって。‥‥‥‥ご、ごめんなさい。『くらい』って言い方はお仕事くれた方に失礼でした。ごめんなさい」
「咲見さん、私に謝らなくても。‥‥でも色々大変そうですね。その『みなと市ローカル』といえば、咲見暖斗さんが『ノスティモみなと』の9月号を船外持込してましたよ? あなたが表紙の!」
「ひぇっひぇっ!?」
それを聴いた咲見ゆめは、変な声を上げて目いっぱい背を仰け反らせた。
「‥‥‥‥ぬ、ぬっくんが私の本を!? 本当ですか仲谷さん‥‥‥‥一体何のために?」
仲谷は困惑顔だ。目を閉じて平静を装う。
「‥‥何のためにとかは知りません。‥‥というか答えられません」
「ま、ま、‥‥‥‥まさか」
「ちょっと! 変な方向に思考しないでください。‥‥‥‥誇らしげでしたよ。岸尾さんと一緒に、『実はこの子と幼馴染みなんだ――』って」
そう言われて、咲見ゆめは含羞んだ。
「地方のお仕事ばかり、って仰ってたけれど、国営放送の大河ドラマも決まってたそうじゃないですか?」
「え? 端役です。っていうか、誰からそれを?」
「岸尾さんです」
「あ~~。まきっち。まだオフレコだったのに。でも話しちゃった私が悪いか」
「スゴイですよね? あなたには剣術の素養があると思います」
咲見ゆめは両腕を伸ばして体の前で手のひらを出した。ひらひら動かしてNOのリアクションをする。
「とんでもない! ちょっとドラマで殺陣があったので練習してただけで。‥‥結局そのドラマもふれあい体験乗艦とカブって断っちゃいましたけどね」
仲谷は、コップに飲み物を注ぎながら恐縮した表情を見せる。
「‥‥それについては、重ね重ね申し訳無かったです。私が途中から出しゃばってあの体験乗艦の特別枠をいただいてしまったので」
「いえいえ。運営がちゃんと審査した上で選抜されたんだから私が文句とか、言う筋合いはないですよ‥‥」
そう平静を装って首を振るゆめをよそに、仲谷は淡々と続けた。
「いえいえそんな。でももう本当にそうするしかなかったんです。驚きましたよ。逢初さんがふれあい体験乗艦に乗って、みなと市を離れてしまうと知った時は。しかも、その旅路にこそ、私達の目的が組み込まれてる。もうそれはそれは必死に、艦に乗る手配をしました。手段を選んでいる余裕はありませんでした――――」
「本当にごめんなさい」
仲谷は机に額をつけて謝罪をした。
「えっと」
咲見ゆめは戸惑う。確かに「ふれあい体験乗艦」を楽しみにしていた。そのための準備に少なくない時間を使った。でも、そもそも自分は、「特別枠」という――1年以上かけて選抜された、一般応募とは違った――方法で試みている。この枠が、少なからず芸能の仕事をしている自分に有利に働く事を計算に入れながら。そんな「ズル」をしている自覚があった。だから――――。
だから、落ちた時正直ほっとした部分もあった。こんな抜け道、裏技みたいな方法で乗艦して、「彼」の顔をまっすぐ見る事ができるのか、と。
そうでなくてもまだ、――異世界に来てすら、未だに――「彼」に逢う決心がついてはいないのに。
(こんな私、むしろ、選ばれなくて正解だった)
そんな気までしてた。だから、今さら仲谷を責める気持ちは皆無だった。
それを伝えるニュアンスで、話題転換を試みたのだが。
「ぜんぜん、ぜんぜん! それは気にしてないから大丈夫ですよ~。それより、事実上私で内定してた『推薦枠』をGETできるなんて。仲谷さん、どんな魔法使ったんですか~?」
目の前の相手。必死に頭を下げる彼女をこれ以上謝らせないようにと、言ってみただけだった。謝られるのもこそばゆい。軽い言葉のつもりだった。
「‥‥‥‥」 仲谷春は顔を上げて、ポカン、とする。――――いつも冷静な彼女には似つかわしくないリアクション。
「‥‥‥‥どうしました?」と恐る恐るゆめは尋ねる。なんだか嫌な予感が走った。
「よくわかりましたね」と仲谷は答えた。
「は?」
「魔法ですよ」
「はい?」
「ですから、ふれあい体験乗艦の『特別枠』を手に入れるために魔法を使ったんです」
「‥‥‥‥え?」
「【魔法】、そう。私の【固有スキル】の【催眠】です」
咲見ゆめ‥‥‥‥は固まった。
「あ~~、‥‥‥‥はい」
もう、そう返事をするしかなかった。
ここまで、この作品を読んでいただき、本当にありがとうございます!!
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