第13話 第1部分の人物紹介から引っぱってるこのネタ、まだ需要あんの?③
「その姿でトイレ入れるのかなあ?」
暖斗とゆめは忍び足で外に出た。暖斗が小さめの【ライトニングボール】で明かりを灯す。
そのまま暖斗が、ドラゴン姿のゆめをまじまじと見ていた。
「‥‥あッ! 私‥‥この姿だと、村の外でないと無理」
「そうかあ。そうだよね。‥‥‥‥じゃあ、一緒に門のトコまで行こう。ドラゴンがひとりで歩いてたら誤解されるから、テイマーとかと同行してた方がいいんだよね?」
絋国でも、大きな猟犬が首輪もリードも無しでうろついていれば、通報案件だ。だが、飼い主がちゃんと管理しているのが見えれば、ただの散歩。
この世界でも魔物とテイマーの関係はそんな感じだと、ゆめも暖斗も知っていた。だからゆめドラゴンのために、暖斗が管理者役をやってくれる、という事だった。
やはり、暖斗は優しかった。
しかし現実はゆめに冷たい。ドラゴンの姿で用を足す、という事は、ケモノと同じ作法で、という事だ。それは、暖斗には思い至って欲しくはない。
「‥‥‥‥‥‥‥‥お待たせしました」
「スゴイね! ドラゴンそのものの口なのに、発音は人間と同じなんだね?」
ゆめはほっとした。暖斗の興味は他に向いているようだ。
「ぬっくん。私歯科衛生士のバイトやってて」
「へええ。え? ドコの歯医者?」
「歯並びとか舌とか、言葉の発音けっこう歯科と関係あるんだよ?」
「ゼツ? 歯医者さんって舌べろの事、舌って呼ぶんだ? へええ」
「院長先生が、準歯科衛生士の私にも、色々研修受けさせてくれるんだよ」
「研修かぁ。僕もパイロットの研修思い出すな。あ、ラポルトの時だよ。ひめちゃんと乗りたかったなあ。‥‥あ、ごめん。麻妃に『そこには触れるな。ひめ泣くから』って言われたたんだっけ」
多少、会話に噛み合わない部分があったかもしれない。姫の沢ゆめは夢中で言葉を綴った。緊張と感情の高鳴りで、正直何を話したのかは憶えていない。
ただ、夢見心地だった。
*****
「一中の咲見君てさあ。性格良さげだけどどうなの? カレを好きな子とか、いる?」
ゆめと同じ小屋敷小出身の、クラスメイトの言葉だ。絋国が男子優位といっても、女子間でのこういうこそこそ話は無くならない。
「姫の沢さんはモデルやってんだからぁ。もっと上狙えるでしょ?」
そう言ってきた彼女の彼氏は実家が太くて、サッカー部のエースだった。こんな言い方をしてはいるが、実質は彼氏マウントを取りに来ているのは明白だった。
モデルをやっているゆめに何かと突っかかってくる子で、自慢できる彼氏ができた途端に、こんな言い回しをしてくる。周囲からはこっそり「マウ子」と呼ばれていた。
「せっかくキレイに生まれてきたのに、もったいな~い」
ゆめは取り合わなかった。モデル業と体験乗艦の準備で忙殺されていたのと、ギリギリ暖斗へのディスりが無かったからだが。それにゆめが暖斗の事を好きなのは、麻妃を含む一部しか知らないはずだ。その辺も含めて、面倒そうだった。
*****
「待って! 何かいる!」
異変に気付いたのは暖斗だった。ゆめは後悔した。
暖斗との会話に夢中になって、村の入口に滞留してしまった。村の入口付近だったら、魔物とエンカウントする確率は若干発生してしまう。冒険者暮らしを多少経験したゆめの方が、そこに思い至るべきだった。
「じゃ、私が倒すよ!」
そう叫んだゆめの眼前に、大きく開いた少年の「右手」が映った。
「ひめちゃんは下がってて。僕が倒すよ」
その持ち上げた腕の、暖斗の背中の服越しに、発達した肩の筋肉と肩甲骨の隆起を見た。
「う、うん」
生返事をする。小学生時代には無い特徴、大人の男性へと変わっていく暖斗。
ぬっくんが、私を、守ってくれる?
「‥‥‥‥【ライトニングボール】」
暖斗の右手から光の玉が浮き出て、宙を漂う。バレーボールほどの大きさだ。
(ぬっくんは光属性? 雷かな? かっこ良!)
現れたモンスターは四つ足の獣系のようだった。この村付近の魔物なら、そんなに危険は無いはずだが。そして、暖斗の攻撃なら難なく撃退できるはずだ。
「はッ!」
暖斗が、正面に掌を突き出して光球を射出すると、勢いよく獣に向かって飛んでいく。が、獣は、光と衝突する瞬間、右へ跳んで避けてみせた。
「っと!」
暖斗が大きく手を振った。彼方へ外れて行くと思われた【ライトニングボール】は、僅かに向きを変え、獣へと命中した。
「ぐぎゃッ!?」
避けたはずなのに! とでも言いたげな獣が、断末魔の声を上げた。
「はは。追尾が上手くいった」
と、暖斗は安堵するが、倒れた獣の背後から新たな気配が現れる。
「ぬっくん! あと3匹はいるよ!」
「大丈夫! あと3発分の魔力はあるから――あ!」
言ったそばから暖斗は光球を外してしまう。
ゆめの脳裏に麻妃のセリフが浮かんだ。夕食時だ。
「ぬっくんがさあ。ひめっちが来るからって張り切って、うっかり魔力使い果たしたんだよ‥‥。丘の上から見えたのはたぶんその光。ったくこの中2は‥‥‥‥」
ゆめは暖斗に駆け寄る。
「ぬっくん! また赤ちゃんになっちゃウ! 魔力使い切ったらダメだョボッワァッハ~!!」
つい興奮してしまった。
暖斗の前髪を焦がしつつ、村の入口一帯と数匹のモンスターは、ゆめのドラゴンブレスで消し炭になっていた。
「‥‥‥‥」
焼けて短くなった前髪を気にしつつ、まだ煙の上る魔獣のいた場所から魔石を回収する。またギルドに持っていけば、金銭に変えられそうだ。
「‥‥‥‥たぶんモンスターは、『ノイウルフ』よ」
ゆめは恐る恐る、暖斗に話しかけた。水魔法で一帯を鎮火させながら。
「ひめちゃん、水魔法使えるんだ?」
「え? うん。わりと色んな系統を。仲谷さんが教えてくれるんで」
「剣もつかえるんだってね?」
「冒険者だと使えないと困るし、役者のお仕事で殺陣習ってたし」
「すごいや。ひめちゃん。でも僕は焼かないでね」
「‥‥‥‥すみません。自分がドラゴンだっていう設定が飛びました」
「‥‥‥‥お互い様かな。僕も赤ちゃんになっちゃう設定忘れてたし」
結局いい感じに着地した。
*****
家への帰り道。ふたり(正確にはひとりと一匹)は村の小径を歩く。
そこでゆめは、胸に秘めた疑問を思い切って暖斗にぶつける。
「ね? 教えて。ぬっくん」
「なに?」
「どうしてドラゴンの姿の私が、私だとわかったの? 私が村に来るって話だったから? それでも、まさかドラゴンを人間だとは思わないよね?」
「ああ、それなら」
暖斗はすんなりと答えた。
「‥‥‥‥目もとが、そのちょっと目じりが下がっておっとりした感じが、何となくひめちゃんだったから。あと首とかもすらっとしててひめちゃんだったし、こっちを警戒して怖がる感じとか全体的な雰囲気がひめちゃんだったから」
ゆめは驚く。
「‥‥‥‥ドラゴンだよ今の私。面影があったら逆にショックなくらいだよ?」
「でもやっぱり、立ち姿とか佇まいとか。ひめちゃんだって思ったんだよなあ」
絋国から、どれくらい離れているかもわからない、異世界。
そこで、龍の姿に身をやつした自分を、見つけてくれる王子様がいる。
「こんな人。絶対他にいないのに」
今度「マウ子」に会ったら、そう言ってやろう。あちらの世界に戻るアテは無いけど。




