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第12話 異世界☆歯科衛生士③ 職業モノでこれって初出じゃない? 誰か教えて?

 





「で、姫の沢がやったのって、一体なんなんだ?」


「あ~ね。治療薬パパッと開発してパパッと治す! とか期待したんだけど?」




 ここはオートウム村の居酒屋。もちろん飲酒はしてないよ? 私が、隣村で歯周病と戦った話をしてるところ。


「ゆめさんはそんな、魔法みたいな方法はとりませんでした。もっと現実的で、地道な方法です」


 仲谷さんにそう言ってもらって、正直超うれしかったけど、‥‥いいのかな?



 ガチで魔法がある世界のガチで魔法使える人の、『そんな魔法みたいな』発言。



「‥‥‥‥。逢初さんと重なる。医療って、そんなドラマやマンガみたいな話じゃないんだよね?」



「うん。ありがとう。そうなの。とっても地味で、とっても地道なんだよね」



 多賀さんの言葉に、私はそう頷きながら、続きを語りだした。




 *****




 このヤナーアッラーヤ村、はちみつが特産で裕福なだけあって、みんないい物を食べてる。それに甘い物も常食してる。まるで絋国みたいに。


 それがまるで良くない。


 この世界って、産業革命前くらいの文化水準だって七道さんが言ってたよね。その頃だと、毎日の食事も堅い食べ物を良く噛んで食べてたから、口腔内で咀嚼された食物が、歯肉をマッサージしてくれる。


 でも、この村ではそれがないし、驚いた事に歯を磨く習慣も根付いてない。


 だからみんな歯周病。症状は、歯肉が腫れて、人によっては歯牙が抜けてきてる。今、みんなでゴハン食べてるからやめとくけど、ゴハン時の話題にはできない、なかなかにシビアなコンディションだったよ。


 まず私がやったのは、現状把握。本当はプローブという目盛りのついた器具を使うんだけど、探針(エクスプローラー)で代用しちゃう。この、棒の先に「へ」の字に曲がった針を持つ器具で、歯と歯肉の間にある溝の深さ――いわゆる『歯周ポケット』の深さを計って、部位ごと、患者さんごとに記録していく。歯周病は「部位特異的」に進行するから、全体的に大丈夫っぽくても油断はできない。


 それから、TBI ――ティース ブラッシング インフォメーション。歯みがき指導だ。さいわい今までに立ち寄った村で歯ブラシは発見してたから、そこから必要量を買い出ししてもらう。中度、重度の歯周病の人は、もう歯ブラシだけで痛がったりするから、なるべく柔らかい毛を、そして先端の尖ったシステマ毛(これも動物毛で既にゲット済)を調達できた。


 次に補綴(ほてつ)。本当は歯科医師でないといけないんだけど、異世界だし、懇願されたのでできる限りでやる。あ、補綴(ほてつ)っていうのは、無くなった歯の部分を他の何かで補うことだよ。

 まあ、詰め物とか差し歯、入れ歯も補綴だね。歯科補綴。これはすぐにはできない。まず準備を進めていくよ。



 それから、スケーリング、根面デブライドメント。準歯科衛生士の私の、本業となる作業。鍛冶屋さんに作ってもらった鉄製の器具、グレーシーキュレットやスケーラーで、口腔内の歯についた歯石(プラーク)を取っていく。キュレットやスケーラーとかは、持ち手の棒の先に「し」を逆さにしたり、「?」みたいな形の、ちょっとだけ刃が付いた器具。これを歯石に引っ掛けて削ぐ。岩にこびりついたフジツボを延々取っていくみたいな作業だね。で、歯肉縁下――歯ぐきの下に隠れているプラークも除去していった。



 村には2週間ほど滞在したよ。それだけ患者だらけだった。




 *****




「で、首尾はどうだったんだ?」


 例のビールっぽい液体をグビグビ飲みながら、七道さんが私に訊いてきた。居酒屋での談義は続いている。わたしは答えた。


「うん。最初に診た患者さんを中心に、手応えが出てきた所だったよ」



「‥‥‥‥。でも、歯とか磨かない人なんているの?」


「文明しだいなんじゃない~?」


 多賀さんと網代さん、ふたりともそれぞれマイペースだ。



「恥ずかしながら、この世界ではそもそもそんなに衛生観念が育っておりません。歯みがきの習慣も、村によってまちまちでしょう‥‥‥‥」


 ちょっと仲谷さんが肩を落としてるので、わたしがフォローを入れる。


「しょうがないよ。決まったカリキュラムの学校とかもないんだし。村の風習とかで歯みがき習慣がなくなっちゃう事も。あのヤナーアッラーヤ村は、まさにそのケースだったのよ」



 七道さんが、ジョッキをドン、と置いた。


「どういうこった? 歯みがきの習慣が、無くなる?」


「そうなの。あの養蜂業の盛んな村ならでは、だったのよ。――――説明するね。あの村も、昔はこの村と同じような物を食べて、歯みがきもしてたみたいなんだけど――」


「――養蜂で豊かになっていく内に、食べる物は甘くて柔らかい物ばかりに、そして、養蜂業ならではの、ある物が流行したの」


「なんだそれ」


「プロポリスっていうの。知ってる? 蜜蜂の巣の入口に、蜂が作る物質。スゴイ殺菌効果があって、それで蜂の巣の中に菌が入らない様にしてるんだって」


「あ~~。健康食品とかであるヤツでしょ? 親戚の人とか飲んでんじゃね? たしか」


「うん。絋国でも生産されてるし、流通してます。で、そのプロポリスの殺菌作用に目を付けたヤナーアッラーヤ村の人々は、ちょっと昔に歯みがきの代わりにそれで口をキレイにする風習になって、歯みがきが廃れたんだって」


「じゃあ、それで問題ね~ハズだろ? なんで歯周病ばっかになったんだ?」


「プロポリス自体に、化膿止めの軟膏や、そういう健康食品としてのニーズが出て来てしまって、売れるようになっちゃったんだって。そしたらハチミツばっか余って、プロポリスは売り切れるようになって‥‥‥‥。村の人に行き届かなくなっちゃったんだって。元々すごい味とニオイするしね。プロポリスって」


「‥‥‥‥結果、ヤナーアッラーヤ村では、歯みがきもせず、プロポリスの殺菌もせず、という風習になってしまったようです。ここ10年くらいの事みたいです。この国でも絋国の様な公衆衛生を根付かせたいと考えていますので、ゆめさんの準歯科衛生士としての活躍には、期待している所です」



「ふ~~ん。なるほどなあ」


 と、3人は納得した様子だった。うまく仲谷さんが話をまとめてくれた所でわたしも、あの戦争に勝利をもたらした、栄光のラポルト16、その「メンテ3人組」に、用意していたお願い事の話題を持ち出す。




「え? 私らに? 私らあの村で、できる事なんて無かったぞ?」

 普通の驚かれたよ。でもそれは想定の範囲内。





 彼女達は意外そうだった。でも、あるんです。切実に。





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