第12話 異世界☆歯科衛生士① 魔法の設定語り回だよ。
「取りあえずメシにしようぜ? 座長が出してくれんだろ?」
七道さんがどっかりと椅子に座りながら、汗を拭く多賀さんに訊ねる。
「‥‥‥‥。はい。話は通してあるので、外で、と。王宮付の仲谷さんにまかないは出せない、と」
そう。仲谷さんはお姫様! エイリア姫の側近なのだ。だから、この国の人からはいくらか敬意を払われるみたいだ。
「まかないも美味いんだけどな。どれ、せっかく外食できるんだから、ゴチになるか」
「師匠。急に言わない。戸締りとかあんだから」
せわしなく動いて窓の鍵をかけていく、弟子ふたり。そんなふたりに「まかせた」とだけ声をかけて、七道さんは私たちを連れて、外へ出た。
思えばかなり長話をしてしまった。もう夕暮れだ。――異世界なので、当然重子力エンジンはなくって、だから夜になっても電灯は点かない。松明とか光魔法はあるけどね。
だから、夜が来ちゃう前に夕食になる。そういえば、絋国でも大昔はそうやって夕方にごはんを食べてたから、「夕ごはん」なんだよって、国語の雑学大好き先生から教わったなあ。
「外食」は、村の真ん中にある食堂、というか、飲み屋というか。とにかくそこだった。
「おやっさ~ん」
右手を軽く上げながら七道さんが入ると、その店の店長っぽい人が、あごで空いてる席を指し示した。強面、ヒゲのおじさんだ。
すぐに、戸締りを終えた残りのふたりも追いついて、木製のテーブルに5人つく事になった。
「ここのメシはうめ~よな。なんかラポルト思い出すよ」
オーダーをしながら七道さんがそう呟く。
「そりゃあ師匠。仲谷さんが作ってたんだから、そうでしょ~?」
なるほど。私の代わりにラポルトで調理をしていた仲谷さん。そりゃ故郷の味付けをしていれば、ここ、異世界と同じ系統の味になるよね。
「‥‥‥‥。『斜め上の味付師』。甘くて辛い感じが新鮮だった」
「そうですね。私達は子供の頃から、家の手伝いで調理を憶えます。甘辛いのはこの地方の特徴、いえこの国の特徴、でしょうか?」
「私ら知らずに、異世界料理を堪能してたんだよな。笑える話だ。‥‥‥‥道理でちょっと変わった味付けだと思ったよ。いや、美味かったんだけど、な」
そう言われると、私も俄然おなかがすいてきちゃう。
「あ~あ。私もラポルトで食べたかったなあ。‥‥‥‥あ、でも、私が選ばれたら仲谷さんが落選してるって事だから、どっちみち無理かぁ」
「‥‥‥‥そうですね。ゆめさん。代わりにここで是非、異世界料理を堪能してください。姫様の警護のためとはいえ、【催眠】でむりやり推薦枠獲得を操作した負い目もありますし」
‥‥‥‥なんか今、酷すぎる衝撃の事実を、さらっとカミングアウトされたような気が‥‥‥‥。
それにここの支払いは仲谷さんがするワケじゃないし!
なんかもやもやしたまま、運ばれてきた料理を口にした。もう既に、仲谷さんとの旅でこの地方の料理の味は知ってるんだけど、ね。
「‥‥‥‥あ、でも美味しい。確かに」
「だろ? この店のはうめ~んだよ。――ああ、仲谷のも美味かったぞ」
「いえ。お気遣いご無用。だって『あちらの世界』で準調理師の資格を申請したのは、ラポルト退艦後でしたから」
「‥‥‥‥!」
ラポルトにいた時はつまり、無免許、だったと。
残り4人で顔を見合わせる。それ、言わない方がいいんじゃないかな‥‥‥‥。
*****
「で、さっきはどこまで話したっけ」
七道さんが、煮込んだ豆みたいのをつまみながら、黄金色の飲み物をグビッと飲み干す。
‥‥まさかそれビールじゃないよね?
「‥‥‥‥。ヒールの話です」
そうだった。ビール、‥‥じゃなくてヒール、治癒魔法の話だよ。
私と仲谷さんが視線を交差させて、軽く頷いた仲谷さんが話しだした。
「実はココにたどり着く前に、一件寄り道をしておりまして」
「ココの隣り村だよ。ヤナーアッラーヤ村」
「あ~。あ~しらが興行してた村じゃん」
「――そこで七道さん達の情報を得たので、ここに来れた訳ですが」
「なるほどな。それで?」
スープをすくいながら話す七道さん。そこで私が説明する。
「知ってるなら話が早いよね? その村、お年寄りが多くて、病気の人も多くて」
「ああそうだったな。地場産品が多くて裕福だったから、異世界にしては長寿の村だった。おひねりも多かったぜ☆!!」
「‥‥‥‥。おじいちゃんからの『是非私の孫娘に』って申し出多数。甘い物の差し入れが多くて困った」
さすが踊り子チームのセンター多賀さんだ。大人気。
「でも長寿ゆえに、『あっちの医学』でいう、生活習慣病の方ばかり」
「そうなんだよ。で、仲谷さんが【治癒魔法】をしてあげたんだけど」
「‥‥‥‥ここで先ほどのお話に戻ります。【治癒魔法】は、その人の抵抗力、自然治癒力を高める魔法です。身体能力強化に近いでしょうか? なので、欠損した身体、内臓破裂みたいな物は、延命はできても救命までは。原因のある病気に対しても同じです」
「やっぱそうなのか。じゃあ大怪我とかやべ~な。こんな魔法がすべて、みたいな世界なのにな」
ちょっと引き気味の七道さん達に、私と仲谷さんで魔法解説をしていく。
「【古代語魔法】でしたら、膨大な魔力と引き換えに対処可能かと。臨時で内臓の代替品を作ったり、失った腕が生えたりしますが――――」
「――それね。紘国の医学で説明できそうなの。トカゲのしっぽが生えてくるみたいに。上位ヒールは生命細胞を初期化してるみたいなのよ」
「‥‥‥‥。IPS細胞みたいに?」
「そう。そうすると辻褄あう。でも、そんな魔法は滅多になくて」
「‥‥‥‥そうなんです。この世界出身の、魔法に長けた私がノーマルの【治癒魔法】を用いても、やはりヤナーアッラーヤ村の方々の症状は、若干しか改善しませんでした」
「あ~ね。結論そこね。じゃあやっぱ。異世界での大怪我NGっと」
私達はちょっと無言になった。やはり異世界。医療がそんなに発達してる訳じゃない。魔法も思ったほど万能じゃない。
普通に生きてく分には困らないけど、いざという時ちょっと不安だよね。
「‥‥‥‥で、その村どうしたんだ? 何かしら解決してきたんだろ? 仲谷がココに来たって事は、その村の問題を解決済って事だ。仲谷はそういう奴だ」
沈んだ空気を振り払うような、七道さんの発言。「姫の沢は知らんがな」と付け加えながら。
「ええ。そうなんです。少し時間はかかりましたが‥‥」
仲谷さんはそう言いながら、手の先を私に向けた。
「その問題を解決したのは、実はこの、姫の沢ゆめさん、なんです」




