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第11話 七道仮説⑤ 【ヒール】は万能ではありません。治癒魔法の否定から始まる異世界生活

 





「じゃあ私が説明すっか。仲谷を見習って平易にね」


 答えたのは七道さんだった。


「結局推論の域なんだけどな。暖斗くんのMKはその回路内の『踊る電子のふるまい』か、『重力素粒子そのもの』、またはその両方、に働きかけてるんだ、と考えてる」


「ほうほう」


「MK能力者の脳内微弱電流、――つまり電子がその仕事をやってんのか? それともさっき言った電子に近しいMK素粒子が存在してるのか? ここじゃあ調べる術は無い。けど、たぶんMK能力者のその『何かしら』で、回路内の電子に強化(バフ)がかかってんのは間違いないよな。‥‥‥‥暖斗くんの『フラッシュブート』、『プロテシス曲芸(サーカス)』‥‥‥‥結果からの推察でしかね~けど」



「咲見さん凄かったんですよ? ゆめさん」


「ふえぇ~~。見たかった」


「もう最後の最後はアレだったしな! 『おま誰!?』って」


「ええ。壮絶のひと言です」


「いぃいぃいぃいぃなあぁぁ!! ぬっくんの雄姿いいぃぃぃ! う~~」



「姫の沢。どっから声だしてんだ?」



「あ、ですけど ゆめさん。私、最後の戦いの時は、関係者に【催眠】をかけまくっていて、大変だったんですよ? だから直接咲見さんの雄姿なんて見るヒマなんか」


「そうだぞ? 私らもデッキでシートベルトで固定されてだなー。それどころじゃあ無かった。子恋が無茶苦茶しやがるから。全部後から聞いたハナシだ」



 私は呟いた。え? じゃあ結局ぬっくんの活躍見た人いるの?


「ユメが壊れるからやめて」




 *****




 ちょっと寄り道したけれど、私達は本来の魔法の話に戻っていた。そもそも、この世界の魔法の正体に、七道さんが肉迫したのが会話のキッカケだったはずだ。



「うん。重力子回路の事は、こんな私でも大分わかりました。で、魔法とすごく似てるって事も。う~ん。でもまだわからない事もあるんだよね」



 私がこう切り出すと、仲谷さんが訊き返してくれた。


「なんでしょう? ゆめさん」


「治癒系の魔法とか。神聖魔法とか。あれはどうなの? 信仰する神様が力を貸してくれるからこその奇跡、とか聖職者様は言ってたけど」


「ああ、そうですね。特定の神を信仰する者は、その神のご加護があって、特殊な魔法が使える、若しくはその効果が高い、と」


「‥‥‥‥それにはまず神の実在を証明しなきゃだぞ?」


「ええ。仰る通りです。七道さん。ですが、『あちらの世界』でもそうだった様に、『こちら』でもその神の実在は誰も証明できていません。――そもそもが信じる事、から始まるのが宗教ですから、信仰は各々の心の中にあります」


「だよなあ。信じるヤツがわざわざ証明する事はねえ。だってもう信じてんだから。疑って疑って客観的に再現しようとする科学とは真逆だ」


「でも、先ほどの『MK能力イコール魔法操作力』、であるならば、一説は立ちます」


「ほんと? 今日の仲谷さんスゴくない?」



「‥‥‥‥信仰の篤い者は、余念が無い分脳波が太いと思われます。その効果で、信仰系の魔法は効果が高いかと」


「‥‥‥‥いいのか仲谷? それだとこの世界の神の存在否定しちまってるぜ?」


「どうでしょう? 私もあなた方の世界の知識に毒されてしまったかも。神の実在は一旦置いておくとして、ただやはり疑問は残ります。例えば治癒系の魔法【ヒール】など。これは神への強い信仰心を持つ者、僧侶や神官が得意とします」


「そういう連中は信仰心カンストで精神力最強じゃあね~か。MK発動にはうってつけだろな。脳内電流作りまくりだ」


「しかし、【ヒール】の魔法にも限度があります。欠損した部位などは、簡単には治りません。長い期間が必要なんです」


「そうなんだよね~」


「なんだ? 姫の沢知識あんのか?」



「七道さん。この世界の回復魔法は万能ではありません。あくまで、生体の回復力や自然治癒力を高めるだけです。ですので体力は完全回復できますが、大怪我はご注意を。それを即時的に何とかできるのは、欠損した部位の代替品を作れてしまう【古代語魔術】くらいです」


「そうそう。結局【ヒール】じゃあ解決しないのよね」


「なんだ姫の沢。オマエ自分から議題出しといて、わかってる風情じゃあね~か?」



 七道さんは口を尖らせて不満げだ。



「ごめんなさ~い。でも仲谷さんへの質問は本当で。【ヒール】じゃ対処できない事案があったのよ」


 私は腕を組んでぷんすかする七道さんに手を合わせた。


「あ~師匠。姫の沢さん悪気は無いですよ? 要は【ヒール】で対処できない事は経験してて、なんでそうなのかは知らなかったって(てい)ですよ。それ、ちょっとあ~し興味あるなあ。【ヒール】で治るって誤解して死にたくないし」


「あ、ありがと網代さん」




 と、私が各方面に頭を下げている所に、多賀さんが戻ってきた。フラダンスみたいな、肩やお腹を大きく出した衣装のまま。


「お、ごくろうさん柚月。ステージ終わったのか」


「‥‥‥‥。はい師匠。座長が今日はもうあがりでいいから、お客人がたの方にって」



 と、言いながらこちらを向いて力なく微笑む。

 この退廃的な感じ、やはり彼女はアイドルの資質あるよ。



「‥‥‥‥。さっきしてたお話。続きが聞きたいです。『こっちの世界』で怪我とか怪我、どこまで治療ができて、どこまでができないのか? 師匠も知りたいんでしょ?」





 そう言ったのは、多賀さんだった。






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