<第五十五話>お出掛け
動物園での初デートから三カ月後…。
今日は、八景島シーパラダイスという横浜の水族館に遊びに行く予定だ。
東山から言われて付き合うようになった二人は、週末の都合を合わせて、よく一緒に出掛けていた。
そして少し前から二人の呼び方は、お互いの名前を呼ぶようになっていた。
今日は、東山が実家の車を借りてきて、初めてのドライブデートに行くことになっていた。
(昇さん、家の場所分かるかしら?せっかく車なんだから、家まで迎えに行くって張り切って言ってくれていたけれど、ここは住宅街で目印も無いし、やっぱり分かり易い駅とかを待ち合わせ場所にして、そこまで私が行けばよかったわ…。)
予定していた時刻になってもまだ到着していない東山を心配して、静は家の中を少し歩いたりしながら待っていた。
「ピンポーン」
玄関のチャイムが鳴った。
「は~い、今開けます。」
静が玄関の扉を開けた。
「おはようございます。
静さん、遅くなってすみません。少しだけ道に迷ってしまいました。」
東山が申し訳なさそうに謝っていた。
「そんな、こちらこそごめんなさい。
よく考えたら、住宅街の家に初めて来るんですから、迷うのが当たり前ですよね。分かり易い場所まで行かなくて、すみませんでした。」
静も開口一番謝っていた。
「何を二人で謝ってばかりいるの?これから楽しいデートに出掛けるのに。」
玄関まで様子を見に来た遥が、笑いながら話に加わってきた。
「お久しぶりです、東山さん。私の事、覚えていますか?」
「妹の遥さんですよね。
確か引越しの日に、静さんと一緒にいらっしゃいましたよね。」
東山が答えた。
「ええ。少ししかお話をしなかったのに、よく覚えていて下さいましたね。嬉しいです。」
「そうですね、明るくて元気な方だったので、ちゃんと記憶に残っていますよ。
それに、静さんから写真を見せてもらっているので、お顔は何度か見ていますから。」
東山が答えた。
「あら、なんだか皆で楽しそうにお話しているのね。
すぐにお出掛けしちゃうのかと思っていたけれど、それなら私にもご挨拶をさせて。」
遥が話し掛けているのを見て、母まで玄関にやって来た。
「東山さん、本当にお久しぶりです。
娘を助けて頂いて以来ですね。
この子が、本当にいつも大変お世話になっております。
あのご親切な東山さんとお付き合いを始めたと娘から聞いて、ずっとご挨拶をしたいなと思っていたのですよ。」
母がしみじみと東山に話していた。
「そんな…。僕は親切な人間じゃないですよ。あの時は、本当にたまたま現場にいただけですし…。
でも、よく考えてみると、静さんが無事で本当に良かったです。」
東山が言った。
「そうね…。ありがとう、昇。」
静がまた改めてお礼を言った。
「ねえ、お母さん。私達そろそろ出発する。あんまりゆっくりしていたら、遊ぶ時間が無くなっちゃうから。それじゃあ、行ってきます。」
静はそう言うと、靴を履いた。
「それじゃあ、行ってきます。」
東山も挨拶した。
「行ってらっしゃい。」
母と遥が同時に挨拶をして、声が揃った事を二人で目を合わせながら笑っていた。




