<第五話>二人の軌跡・Ⅱ
明が社会人になり、二人の時間の過ごし方がまた少し変わった。
明の予定に、私がいつも合わせるようになっていたのだ。
「私にも、サークルやゼミの予定があるんだよ。」
彼の予定の決め方に少し不満を感じた私が、ある時そう言った事があった。
「でも僕は社会人で、静は大学生。自由になる時間の量が全然違うよね。僕は、週末も会社の予定が入る時がある。これは、仕事の一環。サークルの予定みたいな遊びじゃないんだよ。だから、静は僕の予定に合わせて欲しいな。」
彼から、あっさりとそう言われてしまった。
(社会人の時間の過ごし方は、大学生の頃とは違うのか。そういう物なんだね。じゃあそうしないとだったね。)
自分がそこまで気が付かなかったのが恥ずかしくなってしまった。
ところが、自分の就職活動が始まると、彼の予定に会わせることが難しくなってきた。
そして、彼から言われた予定に、自分の就職活動が重なって会えない時は、とても申し訳ない気持ちになっていた。
そして、少しでも効率よく就職活動をするにはどうすればいいのか悩んでいた時、その当時の明の様子を思い出して考えるようになった。
(そう言えば、就職活動中に明が言っていたな。『同じ大学に通っているとは言っても、女性の就職活動は、僕よりかなり厳しいみたいだよ。同じ会社の求人でも、男女が希望していると、人事からの面接の日程連絡が、女性にだけ来ないんだってさ。』って。
明は、随分就職活動で苦労していたよなあ。二年前より経済状況が悪くなっている今年に、私が総合職希望の活動を、このまましていていいのかしら?
もしかしたら、私も明から聞いた女性の先輩と同じように、連絡が来なくて、いつまでも就職が決まらないかもしれない。
そうだ。一般職として就職を希望すれば、もう少し早く決まるかもしれないな。)
この考えを思いついてから、行きたかった会社に一般職として就職希望を出した。
「経済学部に在籍しているのに、一般職枠の応募でいいのですか?」
人事の面接官に確認された。
「はい。私は、バリバリと仕事をするよりも、サポートをする方が性格的に合っているようなので、一般職に向いているのではないかと思って、この職種で応募しました。」
普段、明の言う事を聞いて予定を立てて行動している自分の姿を連想しながら、面接官に答えた事を覚えている。
そして、一般職採用で、希望の会社から内定をもらい、無事就職活動を終えることが出来た。
そして、今度は私にも卒業論文を作成する時期がやってきた。
当然の事だったが、やはり今までより格段に忙しくなってきた。
それでも、明と一緒に出掛けられる日がある時は、その予定を大切にするように心がけた。
そして、明の予定のある週末に合わせて集中的に資料集めをしたり、講義の合間に時間をやりくりしながら、着実に進めていった。
こうして、卒業論文と言う強敵にも負けることなく、私はちゃんと終わらせる事が出来た。
この頃には、明の予定に合わせて、自分のペースを作るのが、我ながら上手くなってきたなと自分でも思うようになっていた。