<第四十九話>美術館への誘い
昼食が運ばれて来て食べている間、先に食べ終えて、コーヒーを飲みながら優しそうに微笑んでいる東山さんの視線を熱く感じてしまい、少し緊張していた。
「あの、美術館はお好きですか?」
食事のタイミングを見計らいながら、東山が話しかけて来てくれた。
「美術館ですか?あまり行っていませんが、あの落ち着いた雰囲気は好きです。」
「僕もそうなんです。
しばらく行っていなかったのですが、もしよろしければ、今度上野の西洋美術館に一緒に行ってみませんか?
今の特設展が何か知りませんが、常設展や建物もすばらしい所ですので、きっと楽しめると思うんです。」
東山が誘ってくれた。
「確か建物が重要文化財にも認定されている美術館でしたよね。私、まだ行ったことがないんです。素敵ですね。
はい、ご一緒させてください。」
私は迷わず答えた。
「良かった。
それでは、来週の週末はいかがですか?」
「日曜日なら大丈夫です。」
「そうですか。それじゃあ、11時に上野の公園口の改札口を出た所で待ち合わせましょう。」
「分かりました。日曜日11時に公園口の改札口ですね。」
とんとん拍子に約束が待ち合わせ場所まで決まった。
「はい、お待ちしています。
すみません、それじゃあ僕は昼休みの時間を過ぎてしまっているので、これで失礼しますね。」
東山が席を立ちながら挨拶をしてきた。
「あっ、そう言えば今日はお仕事でしたね。気が付かなくてすみませんでした。」
「いえいえ、僕が時間を忘れてしまっただけです。
西谷さんは、どうぞゆっくりなさって下さい。」
「私も引っ越し業者さんが来ますので、食べ終えたらすぐに戻ります。」
「そうですか。
すみません、それじゃあ一足お先に失礼します。日曜日、楽しみにしていますね。」
東山がそう言うと、店の出口の方へと向かっていった。
私が食事を終えて店を出ようとした時、
「少々お待ち下さい。今ご注文頂いたテイクアウト用のコーヒーをお持ちしますので。」
とレジにいる女性から言われた。
「えっ、私注文していませんが?」
「先にお帰りになったお連れの男性の方から、ご注文を頂いております。
お待たせいたしました。ホットカフェオレ二つです。」
笑顔の店員さんが紙袋に入ったコーヒーを手渡してくれた。
「あっ、はい。どうもありがとうございます。
それじゃあ、昼食の精算をお願いします。」
「そちらの精算は、終わっていますよ。」
「えっ、私のランチの代金も支払ってあるのですか?」
「はい。頂いております。
今日はご来店、ありがとうございました。」
店員さんが笑顔で挨拶をして、見送ってくれた。
年末年始の休筆のお知らせ
12/27(月)~1/2(日)までの1週間、連載をお休みさせていただきます。
ご愛読いただきました読者の皆様、本年はどうもありがとうございました。
来年も張り切って連載をして参りたいと思っておりますので、
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
紗織




