<第四十七話> お洒落なカフェ
翌日からいつも通りの仕事のペースに戻り、終電ギリギリまで残業をしていた。
そして母から、『最近仕事が忙しいみたいね。疲れやすい時期だし、ちゃんとご飯を食べに家まで帰って来なさい。』と言われた。
どうやら明と別れた話が、遥からすぐに母に報告されたようだった。
別れてから一ケ月半があっという間に経ってしまっていた。
私は、もうほとんど帰ることがなくなってしまった部屋を解約して、また家での生活に戻ることになった。
そして今日は、引っ越しの日。
朝から遥と荷造りをしていた。
もともと荷物が少なかった事もあり、引っ越し業者さんが荷物を運び出しに来るまで、時間にかなりの余裕が出来ていた。
「ねぇお姉ちゃん、引っ越しのお手伝いのお礼に何かご馳走してよ。
来る時、駅前に確かスタバがあったよね。あそこでお茶しようよ。」
遥から誘いがあった。
「そうね、行こうか。」
(駅前のスタバ。…そう言えば明が私を待っていた時、そこに居たって話していたっけ…。私が浮気をしているって言ってきた時だったな。
…あっ、いけない!こんな事を考えちゃうなんて。)
私は首をブンブン振って、忘れなきゃと気合を入れた。
「何?お姉ちゃん。急に首を振ったりして。」
一緒に歩いていた遥が横で驚いていた。
「あっ、ごめん、ごめん。ちょっと思い出さなくてもいい事を思い出しちゃって。
ねえ遥、駅前まで行くのもちょっと遠いし、せっかくだからこのお店に入ってみない?
いつも前を通っているけれど、まだ一度も入ったことがなくてさ。
ここに来るのも今日が最後だし、せっかくだからチェーン店じゃないお店に行ってみようよ。」
私は、交差点にあったカフェを見ながら言った。
「なんだかお洒落なお店だね。うん、そうしよう。」
遥も同意してくれた。
店内は落ち着いた音楽が流れる、なかなか雰囲気のあるお店だった。
ふと見ると、奥の方の席に座ってランチを食べているのは、…東山さんだった。
彼は、私達に気が付くと軽く会釈をしてくれた。
「お姉ちゃんの知り合いの方?」
遥が彼の挨拶に気が付いて聞いてきた。
「東山さん。事故の時に私を助けてくれた人。」
私は小声で答えた。
「うそっ!?これってすごい偶然じゃない?
私、ちょっと挨拶してくる。」
遥が東山さんの方に歩いて行った。
「こんにちは。あの…、お姉ちゃんを助けてくれて、ありがとうございました!」
遥がきちんとお辞儀までして挨拶をしていた。
「あっ、いえいえ、そんな頭をあげて下さい。それにもう随分前の話ですし。」
東山さんが照れながら言っていた。
「あのう、もしよかったら、一緒にランチをして下さいませんか?」
遥が東山を誘っていた。
「あっ、どうぞどうぞ。」
東山が席を薦めてくれた。
「お姉ちゃん、こっちに一緒に座ろう。」
遥が私を呼んだ。
「今日の午後にお姉ちゃん引っ越すんですよ。一人暮らしをやめて家に戻ってくる事になったの。
東山さんは、この近くに住んでいるのですか?」
遥が席に座るとすぐに、話を始めた。
「いいえ。会社がこの近くなんです。
週末に出社しなければいけない時は、食堂がやっていないので、たまにここでランチをするんです。
…そうなんですか、お引越しをされるのですか。」
東山が引っ越しと聞き、少し寂しそうにしていた。
店員さんがテーブルに注文を聞きに来た。
私が注文をすると、
「あっ、以上でお願いします。
ごめんね、お姉ちゃん。私ちょっと用事があったの。悪いのだけれど、先に部屋に戻っているね。」
そう言うと、遥は席を立った。




