<第四十六話>妹の決断力
「お帰りなさい。
あらあら、すっごく目が腫れているわね。
どうしたの、大丈夫?いっぱい泣いちゃったの?」
家に帰るなり、母からのするどいつっこみ攻撃にあってしまった。
「そう?そんなに腫れているかな?
昨日寝不足だったんだよね。ごめん、ご飯までちょっと休むね。」
母の攻撃をかわしながら、足早に自分の部屋に向かった。
「お姉ちゃん、ご飯だよ。うわぁ、本当だ。凄い顔。」
ご飯を呼びに来た遥が、母から私の事を聞いたらしく、顔を見るなりそう言った。
しかし、父が残業で遅くなるからと先に女性陣で食べ始めた夕食中に、私の顔の話題は一切出なかった。
夕食後、部屋に遥が訪ねて来た。
「お姉ちゃん、入るよ。」
遥は、そう言いながら、ノックとほぼ同時に部屋に入ってきた。
「お姉ちゃん、誰かにいじめられたの?」
遥が心配そうに聞いてきた。
「子供じゃないんだから、もう誰もいじめたりしないよ。」
私が優しく答えた。
「じゃあ、どうしたの?明さんが何かしたの?」
遥が真剣な顔をしながら聞いてきていた。
「そうね、確かに明は関係がある…。でも言わなきゃいけないの?
私、今は話したくないな。」
私は遥のまっすぐな視線を避けるようにしながら答えた。
「そっか、ごめん。言いたくないなら、それでいいの。
ごめんね。もしも私が話を聞いて、気持ちが軽くなるようだったら、話して欲しいなって思って、つい聞いちゃったんだ。ごめんね。」
遥は、そう言うと私の隣に来て座った。
そして、大学のゼミの話や今度ある試験の範囲が広いという苦情などを、ほとんど一方的に、身振り手振りをつけながら、楽しそうに話してくれていた。
その話に相づちを打ちながら、私の頭の中では、昨夜の明とのことが渦巻いていた。
(一方的に私から別れたいと言った事を明が了承してくれて、これで私達は本当に終わりなのかな?
私、今まで頑張ってこれたのに、どうして別れようって思っちゃったんだろう?
もうちょっと頑張った方が良かったのかな?もしかしたら、明も今度は本当に反省してくれて、変わってくれたのかもしれなかったのに…。)
「…お姉ちゃん、今の話聞いていた?」
遥が私に話しかけている。
「あっ、ごめん、聞いてなかった。何て言っていたの?」
私は答えた。
「あ~ぁ、やっぱり今日のお姉ちゃん、全然ダメね。
やっぱり私じゃなんの力にもなれていないね。」
遥が寂しそうに言った。
「ううん、遥、ごめんね。遥の話、すんごく楽しいよ。遥の気持ちもとっても嬉しいよ。
ごめんね。…私、明に昨日別れ話をしたんだ。」
遥の様子を見て、思わず昨日の話をしてしまった。
「えっ、お姉ちゃん、そうなの?」
遥が驚いていた。
「…と言っても、それでこんなに悩んでいるから、もしかしたら、戻っちゃうかもしれないっていう話なんだけれど…。」
私がモジモジと言った。
「明さんがどうしてもよりを戻して欲しいって謝ってきているの?」
遥が聞いてきた。
「ううん、何にも。」
私は答えた。
「じゃあ、別れるって決めたのに、どうしてもう戻ろうって考えているの?」
遥が続けて聞いてきた。
「私がもっと頑張ったら、彼は変わったんじゃないかな?って思って…。」
私が小さな声で答えた。
「それは、無いな!
お姉ちゃん、今までずっとすんごく頑張っていたよ。
私だったら、もうとっくにぶん殴って、大喧嘩して別れちゃっていると思うもん。
あんなに頑張っていたお姉ちゃんを見ても何も変わらなかった男に、もっと頑張ればって…。
お姉ちゃん、有り得ないよ。」
遥が断言した。
「そうだ、こうしよう!」
遥が私の鞄からスマホを取り出すと、おもむろに明の連絡先を消去した。
「明さんにもうぜ~~~ったいに、連絡しちゃダメだよ。もちろん、会いに行くのも絶対禁止。
私との大事な約束だからね。
お姉ちゃん、ちゃんと守ってね。」
遥が笑顔で言った。
「えっ!何、全部消しちゃったの?」
私が驚いて聞いた。
「うん。もう要らないの。」
遥が即答した。




