<第四十四話>私の為
「でもそれって、私の為に浮気をしないんじゃなくて、嘘をついてくれたって言う事だよね。
そんな私の為の嘘は、少しも嬉しくないな。」
「そうか。それは、お前の価値観だな。もう止めないか、このくだらない話。」
「そうね。
…明は、私と一緒にいる時は『私の為に』他の女といる時は、『その女の為に』浮気をしても、嘘をつき続けるのだものね。
確かに私には、もう何も意味がないくだらない話だわ。」
私は、明の目を見ながらきっぱりと言った。
「はぁ?今度は何を言い出すんだ。どうして今他の女の話が出て来たんだ?」
「あなたがついさっき言ったのよ。私が他の女と同じように浮気をしたと騒ぐって。
つまり、あなたは他の女といる時は、その女に彼女だって話しているって事じゃないの。」
「あのさぁ、もういい加減にしろよ。言葉の粗を探して何がそんなに楽しいんだ?」
明がさっきからのイライラを、もう隠すこともなくそのまま言ってきた。
「そうね、止めるわ。
明、もう私達終わりにしましょう。」
「今度は別れるって言いだすのか?
おいおい、一体何の冗談だよ。
今までずっと何でも許しておきながら、急に変な話をしつこく聞いてきて、いきなり『終わり』って。
お前一体何を考えているんだよ。」
「明にとって急な話なのかもしれないけれど、私は最近ずっと考えていたのよ。
だから明に会う事も躊躇っていた。
そういう私の変化にも、あなたは全然気が付いていなかったの?」
「こうしてわざわざ平日に会いにきたのは、お前を心配していた為だろ。
ほらっ、ちゃんと気にしていたじゃないか。」
明が私の様子を見て、慌て始めていた。
「私の家族は、私の変化に気が付いて、心から心配してくれていたわ。
だから、私も大切な存在なんだなと改めて思ったの。
でも明の心配は、単なる自分の性欲の間違いじゃない?
もうこんな事、言いたくも、聞きたくも無いわ。」
「お前、最低に下品な女だな。
帰るわ。胸クソ悪い!」
明が私に視線を合わせようともせずに、そう言うと、部屋を出ようとした。
「部屋を出て行くなら、鍵を置いていってね。さようなら。」
私は明を見ながら言った。
「ああっ!?本当にそれでいいんだな。
後で後悔したって手遅れだからな。」
明はそう言うと、鍵をキーケースから外して玄関脇に軽く投げ捨てると、そのまま部屋から出て行った。




