<第四十三話> 嘘
「そういう反抗的な目で人の顔をジロジロと見るな。…そんなに聞きたいと言うなら、話してやるよ。
そうだよ。他の女の所に泊まった時の話だよ。どうだ、これで満足したのか?」
明が吐き捨てるように言った。
「明、そんな話を聞いて、…満足する訳がないじゃない。」
私の目から涙が一滴流れた。
「どうして泣くんだ。お前がどうしてもと聞きたがったから、こっちは嫌々話したんだぞ。聞きたくなかったのなら、最初の話で満足するべきだったんじゃないのか。」
「そうじゃない。…明の真実の話の内容が、浮気だという事に傷ついているんだよ。分からないの?」
「これだよ。…女という生き物は、本当に独占欲が強いよ。男がモテル事を、すぐに浮気だのなんだのと騒ぎ立てて、喚き散らす。ヒステリックなんだよな。
静は、今までそういう面倒くさい事を言わない女だと思っていたのに。…結局他の女と同じか。がっかりだよ。」
(静、今の明の声がちゃんと聞こえたよね。
明は、私が一生ずっと大切にしなきゃいけない人だと初めて決めた人…だった。
その彼の本音をようやく聞けたのだから…。
落ち着け、静。)
「ねえ明、あなたの大切なものって何?
あなたの話を聞いていると、自分以外の人間は、とても軽薄な存在だと思っているように聞こえてくるよ。
それに嘘をつくと『人の信頼』という、一番大切なものを失ってしまうと思わない?」
「じゃあお前は、今まで一度も嘘をついた事が無いって言うのか?
絶対にあるだろ。という事は、お前の信頼も無いって事だよな!」
「…確かにそうかもしれない。私も嘘をついたな。…そう、明との話を親にちゃんと話せなかった時に。そういう意味では、私も親の信頼をなくしてしまったのかもしれないね…。
でもね明、それはやっぱり詭弁だよ。
嘘にも種類があると思う。
嘘をただ自分の利益を守るためにだけにつくような事をしちゃいけないって、私は言いたかったの。」
「自分の嘘は良くて、僕の嘘は駄目だって言うのか。すごい自己弁護だよな。」
「ううん、私の嘘も悪いと思っているよ。そう言ったじゃない。
その時の私は、例え親に嘘をついてでも、明の印象を悪くしたくないって考えていたんだよ。
それじゃあ明の嘘は、何の為についたの?」
「お前の為だろ。」
「私の為?」
「そう、お前が不必要に傷つかないようにだよ。」
明がまたあの笑い方をした。




